2話 サブちゃんとキャベツ
こちらで断った者たちやエルカルカピースで食い詰めそうな者にバドーリャなら今よりましな暮らしができるらしい、と噂を流し表向きハンター組織としての黄金の夜明け団を大きくした。
食い詰めそうなものは雑用を主にした仕事を担当し、元々ハンターをしていた裏の事情を知らない者は砂獣狩りを、裏の事情を知る者は情報収集を行った。
当のエルカルカピースはイレーネのお父さんが代官になったことにより、増税と隠し金庫への納税を行うことになってしまったので、市民の生活は暮らしづらいものになり、私が買い物をしてきた時にいくつか質問に答えるとイレーネは頭を抱えることになった。
今日も情報収集と隠れ家の食料調達のために街に出る。
貧民区画と商人区画の間にある酒場を出て、中央の方へ歩きいつもの肉屋で今朝絞めたという鶏肉と昨日取れた猪肉があるというので多めにもらって次はパンを買いに行く。
税金は上がったがファラスのように略奪する者が少ないため商品はそこまで値上がりしているということもなさそうだ。
あとはエルカルカピースは穀物の生産をしているから、ということもあるのかもしれない。
ファラスの貴族からは田舎貴族として馬鹿にされたエルカルカピースの貴族は小作人を抱え、農作物の管理を行うファラスの食料庫としての役目を持つ。
酒と戦いが身の証になるアールクドットの貴族たる
アールクドットから赴任してきた
その代官は私腹を肥やすことだけが目的なので生活の不便さえ我慢すれば暮らしていける。
「嬢ちゃん! いいところに来た!」
考え事をしながら歩いていると、大声でパン屋のおじさんが私を呼んだ。
「嬢ちゃんは止めてくれって言ってるでしょう」
パン屋のおじさんの呼び声に答える。
エルカルカピースの隠れ家に住むようになった時、イレーネに
「パンならこの店が一番美味しいし、なにより
という話を聞いたので試しに飲んでみた。
ちょっと香ばしいぬるい砂糖水を出されたので
それをみた店のおじさんに魔力に支障がない範囲でいいので氷を売ってくれ、とすがるような勢いで懇願され、それ以来数日分の氷と
氷と交換する量では何日分にもならないので、追加で何日か分と、
いつも冷えた
「こんなときでもなければ肉屋にも氷頼みたいんだがなぁ」
「あんまり大っぴらにできないもんで、すみませんねえ」
「嬢ちゃんのせいじゃないからな」
「前はちょっとしたお小遣い稼ぎができてたんですけどね」
「そうだよなぁ、やつらのせいで魔法使いが全然いなくなっちまった」
魔法が使えるのは元貴族や豪商、たまたま多めに持った人で9割はファラスの軍属だったので、アールクドットに嗅ぎつけられると
「私もいつまでここにいられるかわかりませんからね、氷室でもあればまとめて冷やすこともできるんですけど」
「そんなもん、でかい店か僻地の村長くらいしか持ってないもんな。お、噂をしたら来たぞ」
「カ、カオルさん!」
ここで
ちょっと太り気味の金髪で妙に背の高い男は意外な軽やかさで走ってきた。
名前はしらないがご意見伺いをするので陰でサブちゃんと呼んでいる。
おう、と手を上げて挨拶をすると
「肉屋さんからここにいるって聞いたんですけどこのあと野菜どうです? いいのが入ったんです」
「お、どんなんだい?」
「キャベツと色はよくないけど新鮮なミルギルとブレンボと、あとは葉物ですね」
私に合わせて中腰になったサブちゃんは深緑色の瞳を輝かせて是非来てくれと言う。
「じゃあ、よろしく頼むよ」
パン屋のおじさんに挨拶するとサブちゃんの後ろをついていく。
不思議なことにキャベツはキャベツのままキャベツなのだ。
「カオルさんはファラスでは何をしてたんですか」「薬草摘みばっかりやってたね」
「カオルさんはどの辺に住んでるんですか」「あっちの方だよ」
「髪の色めずらしいですね」「そうなんだよ、めずらしいんだよ」
「あ、そうそう大根もいいのが入ったんですよ」「それももらおうか」
サブちゃんの店に着き、まっくろな蕪みたいなものを出されて思わず一言いいそうになったが、話しが広がらないように心がけて適当に相槌を打ちながら、おすすめの野菜を愛想笑いをしながら買って帰った。
サブちゃんの所で買い物をするとどういうつもりかサブちゃんがこっそり離れてついてくるので、最近はアールクドットに売るつもりなんじゃないかと思っている。
安いし美味しいしどうせ巻けるから気にはしていないけれども。
もちろん隠れ家の場所は知られるわけにはいかないので、一旦商人区画から平民の住宅の方へ遠回りし、細い路地へと曲がった直後に
野菜を買った後、毎回同じ場所で身を隠し、路地を曲がったところでうぇっ?!と声を上げるのを見届けてから隠れ家に帰るまでがセットになっている。
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