第65話 神への祈りと魔法の矢
「おみごと!」思わず叫んで手を叩いた。
偶然だろうが背を向けるのが必殺技のキメっぽくてかっこいい。
アンヘルさんは私と同じように喝采し、ニコラスさんは本日2度めの「これが魔法使いか」と呟いた。
ロペスは血振りをして剣を鞘に収めると、
「カオルに祝詞を覚えてもらえば祝福の奇跡起きないかな」と、言って私のショートソードで
「無茶言うなよ」と笑うと、ニコラスさんが
「もしかしたら魔法の才能で徳が足りない部分を補えるかもしれませんよ」と余計なことを言い出した。
「それならイレーネもできるはずなのでは?」と反論すると
「では全員でやればいいのです」とにっこりと微笑んだ。
ニコラスさんの中では魔法使いはやらせれば大体なんでもできる人という印象になってきてはいないか。
ニコラスさんに神の存在を信じ、祈り、その時に魔力を奉納してみてほしい、と言われた。
イレーネとロペスはこの世界で生きている人だから神を信じるのは容易いと思うが、私にはいまいちピンと来ない。
この間のは必死だったからな、今も同じ条件で祈れるか問われるとわからない。
ニコラスさんに続いて祝詞を唱える。
ぐっと魔力を出し、祈りを唱えるとイレーネに強化がかかったのがわかった。
イレーネはぴくり、と動くと何事もなかったかのように振る舞った。
「やっぱりだめだったね」とロペスとイレーネと一緒になっていう言うがニコラスさんは私をじっと見つめて
「私がわからないわけがないでしょう」と言ってにっこりと微笑んだ。
「で、ですよね」
「しかし、魔力の奉納をしてもできる人とできない人がいるとは興味深い、カオル、あなたアーテーナの信徒になりませんか?」と研究対象として信徒にならないかと勧誘された。
「だめに決まってるじゃない! そんなこというならここで終わりですよ!」と、イレーネが怒り、抱き寄せられた。
イレーネ自身は身体強化をかけていないが、私が祝福してしまっていることで感覚がいつもと違うためにどのくらい強化されているかわかっていないのかもしれない。
「冗談ですよ」と言って微笑んだ目はあまり冗談を言っているようではなかった。
「そうだぞ、ニコラス、改宗は簡単じゃないんだし年下に無理いうんじゃないよ」
と嗜めた。
アンヘルは嗜められるちゃんとした大人だった。と見直した。
そして、私を抱き寄せたイレーネの腕が私の喉を締め付ける。
頸動脈を締められた私はちょっと気持ちよく意識を手放した。
しばらくして目をさますと、イレーネの膝枕で寝ていた。
「あ、おはよう」泣きそうな顔で私の顔を覗き込むイレーネに挨拶して起き上がった。
なぜ寝てたんだっけ、と思い出そうとするが思い出せない。
しかし思い出したことはあったのできちんと言わなくては、と口を開いた。
「アーテーナの信徒にはなりません!」
「それはもうイレーネさんに断られましたよ」とニコラスさんは笑って言った。
「あとなんかあったっけ?」と聞くと、
「あたしが締め付けて気絶させちゃったの、おぼえてない?」と言われ、ごめんねと消え入りそうな声で言った。
「そういえばそんな気がするね、中々に気持ちよかったからいいよ」というと変態だ。と言われ、みんなに笑われた。
「
気を取り直していうと
「もうすこし休憩しなくて大丈夫か?」とロペスが言う。
「心配性だね、少し寝ただけだから大丈夫だよ」と言うと、屈伸をした。
「そういえば、アーテーナの祝福は移動につかっちゃだめなんですか?」と、ニコラスさんに聞くと
「回数に限りがあるので考えたこともありませんでした」としょんぼりして答えた。
「ではニコラスさんとアンヘルさんを祝福しましょう!」
気絶してる間になにか話し合いがあったのか、私が祝福ができること自体はもう問題にしていないようだった。
私が祝詞を唱えるとニコラスさんはほう、と感心したようで
「3位の神官くらいの祝福ですね」3位といわれてもピンと来ない顔をしていると
「私は6位になります。入殿して見習い、数ヶ月下働きをし正しい生活を身につけると入門者、それから」
と言った所でアンヘルさんがいつまで説明してるんだよ、と文句を言ったが
「休憩のついでですからね」と言って横槍を却下した。
「入門者が祈り、祝福が得られるとここで1位になります、ほとんどの入門者はここで1位になれずに入門者のまま過ごすか還俗していきます」
「1位の神官が祈り正しい生活をし、神殿に来る人々に祝福を与え徳を積み、7位以上の神官に認められる祝福が与えられるようになると2位になります」
「2位の祝福はきちんと効果のでる祝福になるのでお布施をいただくことになりますが、欲目を出してしまうと祝福は弱まってしまいます」
「お布施に心をゆらさず、より効果のある祝詞を上げ祝福や奇跡を起こせるようになるとやっと3位です」
「あっているかはわかりませんが、1位が兵長になるイメージでしょうか」
兵長、小隊長補佐、小隊長、中隊長補佐くらい? どっちもイメージしづらいのでなんとも言えないがいきなりベテランになってしまったと言いたいのだろう。
「アーテーナの奇跡を分け与えていただけるようになったのですから入信していなくてもきちんと祈るのですよ」というと、完全に飽きて転がってしまったアンヘルさんが
「そろそろ休憩終わりか?」と言って立ち上がった。
「おかげさまで休めました」とニコラスさんが微笑んだ。
次は9階に向けて小走りで移動を開始すると階段近くで
「次は私の出番かな!」と言って前にでる。ニコラスさんとアンヘルさんが大丈夫かとロペスに言って心配そうにしていた。
「大丈夫ですよ、だめならさっさと逃げますから」と言ってみんなを下がらせて
ヌリカベスティックの射程は1メートルにしてしまったのでどう隙をついても懐に潜り込んで天井で押しつぶすという目論見は打ち砕かれた。
しょうがないのでステップインとステップバックを繰り返して
フェイントに乗って伸ばされた手が空を切った所で肘をめがけてヌリカベスティックを地面に突き立てた。
高速で持ち上がる土の壁は
いや、ものすごく持ち上げるのに魔力を使った。こんなに重いとは思わなかった。
「まさか肘だけでこんなに重くて硬いとは思わなかったわ、ははは」と笑ってごまかしてみんなのもとへ戻り、改めて9階を目指して駆け出した。
9F
この階ではロペスが
ニコラスさんの祝福と身体強化に私のショートソード(銀貨3枚)があればどうとでもなる気がするが。
そもそも同時にかけられるのかはわからないが。
去年と同じ様に汚い巾着になりすました
柄の長い大斧を担いだ
ニコラスさんの祝福と自身の身体強化をかけてみる
「重ねがけは問題ないようだが、効きすぎて動きづらいな」と言って
「これなら多少不慣れでもなんとかなるだろう」と呟いて
去年と違っていざとなれば
とイレーネと一緒に完全に観戦モードに入った。
そんな姿を見て慌てるのがニコラスさんとアンヘルさん。
「大丈夫ですよ、危なそうならちゃんと援護するんで安心してください、ロペスはがんばりやさんですからきっと一人でもなんとかしますよ」と、言いつついつでも
一番気が気じゃないのは
身体強化とアーテーナの祝福の重ねがけした分で片手剣であるショートソードのリーチの不利を補ってあまりある戦いをしていた。
重い攻撃は両手で受けるがそうでない場合は、左手だけで受け右手はいつでも疾風の剣が取り出せるように備えている。
イレーネにいざという時に
「ちょっと試してみたいんですが」と言うと胡散臭そうな顔で私を見て、
「あいつはいいのか?」とロペスを見た。
「イレーネにまかせてきたんで大丈夫です」と答え、やりたいことに説明をする。
大した話ではなく、矢筒にシャープエッジをかけさせてほしいというだけの話し。
「魔法だと矢の速度はなかなかでませんからね、とっさの攻撃手段は増やしておきたいと思いまして」と揉み手をしてお願いした。
矢の速度と聞いて満更でもない表情を浮かべアンヘルさんは背中から矢筒を外して置いた。
遠くからカオルゥ! と抗議の声が聞こえるが気にしない。
矢筒を持ち、シャープエッジを唱える。
ぼうっと一瞬光り、すべての矢にシャープエッジがかかったということがわかる。
はい、と渡すと、アンヘルさんは矢をつがえ、ロペスと
あくまで援護のために小回りが効いて速射できるように、と弱めに張られた弦で矢は放たれた。
慣性と重力の放物線を描くはずの矢は本来であればもっと下に命中するはずだった矢は重力を無視して顔に向かってまっすぐと飛び、左目に深々と突き刺さった。
急に襲ってきた矢に困惑と痛みの悲鳴を上げる
ロペスはその隙を見逃さず私のショートソードを腹部に突き刺すと、身体強化を掛けたまま疾風の剣を抜いた。
その瞬間、暴風が吐き出され下から上に向かって切り上げ木製の戦斧の柄を切断し、疾風の剣はそのままの勢いで
私はアンヘルさんに
「魔法の矢になりましたね」と言うと、アンヘルさんは呆けた顔ですげえな、と呟いた。
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