第64話 神への祈りと疾風の剣
二日酔いの
そろそろなくなるので迷宮から帰ったら作らなければ。
いつもの訓練用の制服に着替え、朝が弱いイレーネを放置して宿の1階でトースト4枚とスープにハーブと塩コショウで焼いた腸詰めを頼んで席についた。
番号札を渡され、出来上がったら混む時間帯以外は席まで持ってきてくれる辺り召喚者の持ち込んだ文化は思ったより多いのかもしれない。
腸詰めを1口大に切り刻んで口に運びハーブと豚肉の脂の香りを楽しみ3枚めのトーストに手を出した。
食べ終わったらこれをイレーネに持っていてあげよう、そう思ってトースト2枚にして同じメニューを頼み、朝食を続けた。
機嫌良さげに降りてきたロペスが向かいに座って言った。
「今日もずいぶん寝坊したじゃないか」
「イベントがなければ私の朝はこんなもんさ」フフン、と答えると
「偉そうに言ってるがただの寝坊だからな」と、チョップして食料を買ってくる、と外に出ていった。
朝食を食べ終えた所でイレーネ用の朝食が届いた。
トレイを持って3階に上がり、部屋に入るとイレーネを起こして膝の上にトレイを置いた。
最初は自動的に食べているがスープを飲むと覚醒するのかちゃんと動き始めるのが面白い。
荷物の中から3本分、2級の魔力回復の
今日は迷宮に入るので着替えは必要ないし、水を持っていく必要もない。
応急手当用の
それより持ち帰る素材を入れる隙間が多いほうがいいに決まっている。
「じゃ、あとでね」と言って荷物を持って外出した。
塩漬けの干した肉と固く焼いた黒パンを1週間分買ってリュックに詰めた。
通りすがりで見かけたマグカップとリュックと同じくらいの容量の布の袋を買った。
マグカップはリュックからぶら下げ、布の袋折りたたんでポケットに押し込んだ。
キャンプ用のステンレスのコップみたいなのがあればよかったんだけども。
そんなに安いわけじゃないのだが、陶器なので使い捨てと割り切って大事に使おう。
アーグロヘーラ大迷宮の入り口が見えるカフェいくと既にロペスがニコラスさんとお茶していた。
「おはようございます、早いですね」と何事もなかったようにいうとロペスが呆れたように私をみた。
「つ、疲れが抜けてなくて起きれなかったんだよ」と言い訳をした。
「アンヘルさんもまだ起きてきていませんしね、お互い様ですよ」と言ってニコラスさんが笑っていた。
どこまで潜ろうか、という話の中で
「アルベルトさんがいないからロペスが前衛だからがんばってね」というと一瞬何を言われたのかわからないという顔のロペス。
「骨折ってるんだから留守番でしょう?」というと今始めて気づいた顔をした。
「そういえばそうだったな、まあ、任せてくれ」と親指を立てていた。
「ニコラスさんの加護と私の援護で
「重量の問題で難しいかもしれませんが一度やってみましょう、だめなら先に進めばいいのです」という。
「戻るんじゃなく進むんですか?」
「先に進むと我々では難しいがあなた方にはちょうどいい相手が出始めるのですよ、知恵を持った魔物です」
「つまり?」
「魔法を使ってくる魔物が出るようになります」
「なるほど、それなら我々向きだな」とロペスが言った。
「回収してこれる素材はどうなるんです?」と私が聞くと
「魔法を使う魔物の核となる魔石は魔力が多く含まれているので高く売れるのですよ」と教えてくれた。
魔石なら角や爪ほど場所を取らないのでたくさん稼げそうだ。
背もたれに寄りかかってリラックスしてイレーネとアンヘルさんを待つ。
流石にそろそろ迎えに行こうか、と思っていると、イレーネとアンヘルさんが一緒にやってきた。
「迷宮内の食料買ってここ向かってたらアンヘルさんばったり会ったから一緒にきたよ」とイレーネが元気に言った。
イレーネがアンヘルさんと2人で現れた時に私はなんで2人が一緒に?!と軽くパニックを起こしてしまい、心臓が激しく打ち鳴らされた。
「ずいぶん遅かったがデートでもしてきたのか?」とロペスが茶化して言った。
「まさか、遅かったのは寝坊だし、ほんとにそこでばったり会っただけよ、ねえ」とイレーネが言うとアンヘルさんがなんでもないようにああ、と答えた。
なんだ、たまたま落ち合っただけか、と安心すると、寄る辺なき私は、イレーネが恋人を作ったり結婚したら私は1人になってしまうことに気づいて寂しさと不安で目の前が真っ暗になった気がした。
「では、行きましょうか」とニコラスさんが立ち上がった。
頭を切り替えよう、来てもいない未来の絶望に囚われて今を亡くしてしまうのは間違ってる。
頭ではわかっていても人の心というものはままならないものだ、と自覚しながら悶々としたものを抱えてアーグロヘーラ大迷宮に突入することになった。
入り口を入り、去年カツアゲされそうになった所でイリュージョンボディを全員にかけた。
突入順はロペス、アンヘルさん、イレーネ、ニコラスさん、私の順番で縦列で進むことになった。
そして8階までは用事がないので私達は身体強化をかけたが、アーテーナの奇跡にはそういうのはないらしいので、普通にみんな小走りで9階へ向かった。
途中、ロペスが7階に寄りたいといいだした。
「すまないが、アーテーナの身体強化の奇跡と疾風の剣で威力を試したい」と言って頭を下げた。
アーテーナの鉾はなんでそんな所に?と疑問を持っていそうなので、去年の話をして
「体の出来ていない学生の一撃で首半分ですか、なるほど、それはぜひ見てみたいものですね」と、ニコラスさんが言った。
「アルベルトもついてねえな、魔法使いと神官の同時掛けだぜ?何十年生きてたってみれるやつぁなかなかいないだろうよ」と、悔しそうに、でも嬉しそうにアンヘルさんがいう。
「元気になったらまたパーティ組んだらいいじゃないですか。前衛なんか何人いたっていいんですから」とアンヘルさんを慰めた。
「いや、流石に何人もは邪魔だろうよ」アンヘルさんは後衛だからそんなことを呆れながらいうのだ。
身体強化をかけた上に全力で集中して必殺の一撃を放つという、あたかも大艦巨砲主義を思わせる疾風の剣はその性質上、通りすがりの雑魚狩りに全く向かないという新たな欠点が発覚した。
よく考えたらわかるだろうと思ったがまず自由に振り回せるという基本が出来ていないため、まったくもって考えに至らなかった。
仕方ないので私の銀貨3枚の安物剣を貸し与えた。
身体強化と
「アルベルトの斧と違って小回りが効くから速え、速え」とアンヘルさんが手を叩いて喜んでいた。
1フロアを30分かからずに通り過ぎ、
少しも息が乱れていない私達に対して、小走りとはいえ、アンヘルさん達は軽く息が上がり、ニコラスさんはぜーぜー言いながら、これが魔法使い、とショックを受けていた。
最低限の装備で最速で行けますからね、そうなりますよ、と暖かく見守った。
追加の松明用の燃料と多めの水と食料を持ち込んで長く潜るほど旨味があるのだろうか?
「じゃあ、さっそくやりますか」と言ってロペスに補助付きのイリュージョンボディとシャープエッジをかけた。
ニコラスさんは息を整えるとアーテーナに対して
戦と知恵の神、アーテーナ、強き心と剛力を汝の使途へ与え給え
魔の者に打ち勝つための御身の奇跡を
祝福が光となりロペスに降り注ぎ体に吸い付いていく。
ロペスは自分の手のひらを見ると、疾風の剣を抜いた。
「これはすごい、魔力をつかっていないのに身体強化がかかっているぞ」と疾風の剣を振ってみせた。
少し振り回して感覚を慣れさせてから魔力を込めて疾風の剣を発動させる。
「自分でかける身体強化ほど強くはないが、身体強化をかけたり止めたりして変に気を使わなくていいから楽だ」と、今の状況を評価した。
7階を歩き、
去年と同じように
やはり、中に浮く
肩の高さよりだいぶ上にある首に狙いづらそうにしながら、軽く飛び上がって全力で振り抜いた。
ごう、とおよそ剣を振ってなる音とは思えない風の音を上げて刃は首を通り過ぎ、
膝をついた拍子に首が離れ、転がっていった。
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