第58話 魔道具が売れない理由
その後、ロペスにソフトダーツとはなんぞ、という話をしている間にいつの間にかフェルミン達は帰っていた。
改めてダーツを始めてみると、びっくりするほど背の低さと腕力の違いに驚いた。
普通に構えて投げるとヘロヘロで中心のブルを狙ってもボードを外れて左下の壁に突き刺さった。
あとダーツが重すぎる。
銅貨と比べてみたら5枚くらいで同じくらいかな?と思ったので25gくらいあるかもしれない。
肘の位置を少し高めにとり、頭の上から振り下ろすように投げるとなんとか届いたが左右はなんとかブレずに投げられたが、上下が安定せずまともに投げられなかったのでしばらく練習しなきゃ無理だねという結論になり、テーブルに移動した。
インディアンポーカーやらセブンブリッジやらを適当に説明しながら遊んでいると
「あら、仲良しさんじゃない」と言ってイレーネがやってきて
銅貨がたくさん入った袋をテーブルにガシャっとおいた。
「さあ!やるわよ!」
「そんなに種銭ないから」というと高々2銀貨分よ!と堂々と言っていた。
約2kg!アホかこいつは!それ抱えて帰りどうするんだ!と心のなかで叫び、
「足りなくなったら代用品で良ければ付き合うよ」というと
「それでこそカオルよ!」と言って水で薄めたウィスキーを持ってきて
「さっきは何をしていたの?」ちびちびと飲みながらイレーネが聞いた。
「インディアンポーカーとセブンブリッジだね。
3人でやるならページワンとか大富豪とかもあるよ」
「さすが異世界人、しらないのばっかりだ」そう言ってロペスがニヤリとした。
「あら、ロペスも気づいてたんだね。」とイレーネがこともなげに言った。
「わからない方がどうかしてる」とロペスが言って2人で笑っていた。
隠していたわけじゃないが見え見えだと言われるとどうしてぐぬぬ、となってしまうのだろう?
その後、手軽なのでインディアンポーカーを遊んでいるとルイス教官やらペドロやらが来たのでルールを教えながら大富豪を始めたが革命というシステムを説明すると追い落とされる側なので微妙な気持ちになるのか困ったような苦々しい様な不思議な表情を浮かべ、ページワンとセブンブリッジを遊ぶことになった。
賭けて遊べるようになるまでルールを説明しながら何ゲームか遊んでいたら賭けるのを忘れて普通に遊んでしまい、夜更け頃解散した。
寝る前に二日酔いの
これは常備したい。
食堂に行き、朝食を取る。
コーンっぽい味の野菜スープとパンに紅茶を取ってきて朝から優雅に過ごしていると、暗い顔だが二日酔いになっていないイレーネがやってきた。
彼女が朝弱いのはもしかして酒が残っているせいなのではなかろうか。
「そんな顔してどうしたのおはよう」
「昨日賭けるの忘れたから両替が無駄になってしかも軽くするために今日も両替なきゃいけないことに気づいたのおはよう」
「手数料無駄に2回払うんだね」
「そうなのよ」
いくら大富豪の様な気持ちに溢れていてもその裏に隠れているのは貧乏性だ。
無駄な出費は抑えたい。
あとだんだん減ってきているし。
「預ける所とかあればいいんだけどね」
「あるんだけどね、基本的に預けた所でしか引き出せないのよ
別のところでも引き出せはするんだけど、手数料が結構取られちゃうの」
「だったら両替でも一緒なのね」というと悲しそうにカクンと頷いた。
「そろそろまた潜りたいねぇ」というと
「しばらく長期で休めないからねぇ」とイレーネが答えた。
2人で遠い目をして自動的に朝食を食べ終えると、イレーネの両替に付き合うついでに街を見て回る。
そういえば街全体が臭わない。
川が近いので下水でも通っているのだろうか。
そうするとなんの処理もなしに垂れ流しということになるが・・・。
両替屋の前でイレーネを待ちながら町並みを眺めていると、通りすがりの人がチラチラみて来るのが鬱陶しい。
そんなに黒髪は珍しいか。
人の入れ替わりがなさそうだからよそ者だから見られているのかもしれない。
しばらくして両替をし終わったイレーネが出てきた。
「おまたせ!両替料おまけしてもらっちゃった!」
店員がイレーネのことを覚えてたらしく、
一切使わずに戻ってきたのを不思議に思い理由をきいた所、
理由が面白かったので半額におまけしてくれたらしい。
それでも無駄に銅貨30枚払ってんだからな?
でもお金をかけなくても十分に楽しいとわかってもらえてればいいが。
と、イレーネと両替屋の前で立ち話していると、やっぱり通りすがりにチラ見される。
「さっきからなんだろうね」と歩き出しながら小声でイレーネにいうと
「あたしも少しは自覚あるし大概だけどカオルはほんとに無自覚ね」と、よくわからないことを言ってすたすたと先に行ってしまった。
軽く観光、といっても軍施設に近い街なので、一般兵は支給品が与えられる。
ハンターの仕事のほとんどが一般兵の任務として行われるため、ここにはハンター協会がない。
一般兵は自分専用の装備を買う余裕なんかないので、武器、防具、その他の
その中の1軒、たまたま目についた片足の山羊という名前の店を覗いてみた。
元々は中級の商家の生まれだったが魔力があったので士官学校に入学したが、あまりにも戦闘センスがないため、後方支援に回されて魔道具や
店の中をみてみると、自己顕示欲の割に腕はいいようで、
装備すると
紋様は布と革で隠されていて見えないが試着してみるとなかなか効果も高そうだ。
そして意外なことにスライドスイッチが装備されていた。
イレーネを呼んでこの機構はすごいと説明していると店主のおじさんは
「わかるかい?そうなんだよ!」と感激していた。
金貨1枚と銀貨10枚の所、負けてくれると言っていたがそれでも金貨1枚なので
「無理です!」と断り、冷やかしも悪いかと思って銅貨10枚の二日酔いの
「魔道具が売れないって理由がわかったよ」とイレーネにいうと
ほんとにね、と言って肩をすくめた。
買っても擦れたり削られたりして機能しなくなるとその場で修理する必要があるのだということを最近感じた。
外食するところもあまりないのでぷらっと歩いて結局、軍の食堂に戻るしかなかった。
B班の姿が見えないのでトランプで遊んでいるペドロ達に聞いてみると、
兵站部隊の先頭でオーガの相手をさせられたときにC班のやつらが引っ掻き回して手柄を奪っていったと言って父上に報告するのだ、と早くに出たらしい。
そんなこと言ってペドロとイレーネが来てくれてなかったらどうなってたのよ、と呆れる。
長期で休むならそろそろ今年の課題を全部済ませてしまいたい。
私は今年の冬支度は食料と薪が少しほしいかもしれない。
「今年はいいけど、来年のことを考えるとやっぱり遠征したいね」とイレーネにいうと
「そうだね、今年もクリスマス休暇は帰らないと思うし」というので
「まだ許してないの?」と聞くと、
「家族としては好きだし、いい父と母なんだけど、人として合わないのよねって
ことがカオルといてわかったから」気が合うのはいいけど私のせいみたいじゃないか。
「ま、元気だよって手紙くらいは出しなよ」と言って最後の一口になった紅茶をくいっと飲み干した。
もう少しなんか食べれそうな気がするなぁと、ちょうどいいメニューを探していると、ルイス教官が慌てた様子でやってきた。
「全員いるな、緊急事態だ。ファラスに帰れなくなった」
「ん?どういうことです?」と聞くと、
「アールクドットの
B班が遭遇して全員バラバラに逃げたおかげで1人だけ生き残ったと報告がきた」
「アールクドットの
「つよいのはめっぽう強い、我が国の上級騎士と同等以上の者が言われている。」
「おれでいうとおそらく下から2番めの
B班についてるエナメドで
「そもそも
今回出現した場所はオーガの討伐現場ということで魔力の残滓を感じたのか、地面の状態で判断したのかはわからないが今のうちに潰しておいたほうがいいと判断したために復路を戻ってくるのを待っていたんだろう。
ちなみに、なぜ我々が同じことをしないかというと、アールクドットでは戦士階級はコロシアムを勝ち残った者が素質ありと見込まれてスカウトされるものだから配属時点で狩れるほど弱くないんだそうだ。
イレーネが泊まろうと言ってくれて助かった。
「と、いうわけで街道を使うことができなくなった。
大回りしてアーグロヘーラ大迷宮で状況が落ち着くのを待ってから帰還したいと思う。」とルイス教官が言うと、イレーネの表情に喜色が浮かんだがすぐに落ち着けて真顔になった。
「ほとぼりが冷めるまでは自由行動ですか」と私が聞くと
一瞬呆れた表情を浮かべたルイス教官は、難しい顔をしてから
まあ、いいだろう。と許可をだした。
私とイレーネはテーブルの下でぐっと拳を握った。
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