第50話 土属性棒と進級後の初授業

 魔力を込めて地面を突くと1メートル先の地面に壁ができたり穴ができたりする


 金属棒は余計に方角を刻印してしまったので、


 正面の印をつけなくては思ったところに壁と穴が作れないという欠点が露呈したが、


 インクで赤い点を打つことで解決した。


 いちいち見て回す必要があるが慣れるしかあるまい、とあきらめる。


 そして、この土属性の魔法が使える金属棒にヌリカベスティックと名付けを持って


 進級に合格をもらった。


 イレーネは意外なことに2か月で黒炎のナイフダークフレイムを完成させ合格をもらった後、


 普通の炎の矢が出るナイフも追加で作成して遊んでいた。


 ロペスのもったいぶった直刀は峰からカエンテがでるというものだった。


 出る量も勢いもだいぶ強く、


 何も考えずに握った瞬間噴出した風の勢いに振り回され


 石の床を思いきり切り付けてしまい、


 刃こぼれを心配するロペスに怒られてしまった。


 トロールの首を一度で落とせなかった事から


 剣の威力を上げるために作ったらしい。


 切れ味もいいし、私が使えば宝の持ち腐れになるだろうが


 きっとロペスならよい使い手になれそうだ。


 銘は疾風の剣と名付けて合格をもらった。


 フリオとラウルは、熱水の盾アレ・アグーラと名付け、


 ルディはシンプルすぎるがゆえに名付けに困りシャープソードと名付けていた。


 しかし問題はペドロなのだ、光って炎が出るというそんなにすごいわけではない


 中二心溢れる剣に太陽神の剣アポロンソードという銘をつけていた。


 絶対に後悔するぞ!やめるんだ!と心の中で止めておいた。




 2年になったからと言って下級生の面倒みるとか上級生となにかするとかはないので


 結局はいつものメンバーか将来の上官と訓練するくらいしかないのだが、


 2年生は魔道具作成の他に魔法薬ポーションの作成が追加された。


 水代わりに配って兵員の疲労を回復するものが最も簡単で作る量が多く、


 魔力が回復するものが難易度が高くあまり頻繁には出てこないが


 できなければ進級は難しくなるそうな。


 自分と上官の命にかかわりますからな。


 あとは癒しの魔法薬、等級にもよるが上のものであれば


 致命傷から帰ってくることができるらしい。


 普通に売っているものはせいぜい出血をとめ、


 少し深い傷に対して癒しが行われるらしいのだが、普通にすごいことだと思う。


 ということで低級ポーションの作成から始まるのだった。



 まず最初に作るのは二日酔いが治るポーション。


 お、お前・・・、と思わなくもないが、元気に授業をしてくれるなら喜んで作ろう。


 全員に魔力が通るかき混ぜ棒が配られた。


 材料は酒精の強い酒、シーガアロエのようなもの、牛乳、水、オリーブオイル。


 水は汚れていても調合中に分離するので気にしなくてもいいらしいが、気になるなら布で濾す、飲むことを考えるときれいな水の方が飲む気持ちになる。


 それを鍋に入れ、水、シーガアロエのようなもの、牛乳を


 入れ焦げ付かないようにかき混ぜ棒で混ぜながら加熱する。


 魔力を込めるとシーガアロエのようなものが溶けて緑色の濁ったドロドロになった。


 そのタイミングでオリーブオイルを投入すると


 濁った部分がオリーブオイルに移り、


 透明な緑色のドロドロとシーガアロエのようなものの皮などが固まった上澄みに分かれるのでお玉で上澄みのオリーブオイルだけをすくって捨てる。


 そして最後に酒を投入するとドロドロが酒に分解されるようにサラサラになった。


 酒を入れるのに酒が抜けるという不思議な現象が起こるポーションが出来上がった。


 二日酔いのルイス教官はとりあえず飲んで元気になり、


 3級のそこそこ安いポーションの作り方をレクチャーし始めた。


 数種類の薬草を既定の量入れてまぜるだけなので


 レシピを暗記する必要があるということ以外は


 二日酔いの薬の方が小めんどくさい感じだった。


 シーガアロエのようなものも3級用の薬草もその辺で割と高い値段だが、買えるものなのでここまでは自分でも作れる。


 これより上の4級以上だと採取しにいかないといけないので実習を兼ねて


 鍋を担いで山に入るそうだ。これから。


 そんな馬鹿な、とは思ったが週に1回は丸一日かけて


 採取と作成を繰り返す日があるということから


 癒しの奇跡が行使できない我々にはなんだかんだで


 大事な仕事だということなのだろうと思った。



 聖王国ファラスから十数km離れた手入れのされていない山林まで小型の両手鍋と


 五徳、かき混ぜ棒に5㎏ほどの砂袋を入れて身体強化をかけて行軍を開始する。


 2,3キロ走ったところでラウルとフリオのふとっちょガリガリコンビは


 速度が落ち始めてルイス教官にどやされ始めた。


 無理をさせても体力回復するわけではないのだからしょうがないと思うが


 訓練なのだからしょうがない。



 30分もあればつくはずのところが


 小休止を挟みながら1時間半近くかかってしまった。



 魔物や猛獣に遭遇した場合の警報アルラッテを教えてもらい、


 正しい音量がでるか確認するために一人ずつ鳴らしてみる。


 大体の人が鐘のガラーンという音をさせていたが、


 私だけブィーム!ブィーム!とサイレンの音をさせ、


 ルイス教官がまたお前は…と言って頭を抱えた。



 散会してもソロでもいいから指定した薬草を採取すること、ということで


 入山するのだが、イレーネは魔物にあったら炎の矢フェゴ・エクハ出しまくるだろうし、


 ロペスの剣の威力も見たい。


 熱水の盾アレ・アグーラにも太陽神の剣アポロンソードにもシャープソードにも興味はない。


 ということでいつものメンツで探索することにした。



「早くなんか出てこないかな」イレーネがわくわくしながら言った。


「出てきてもイレーネのナイフは使っちゃだめだよ、森なんだから」というと


「あぁ、そうだった、氷の矢ヒェロ・エクハが出るようにしたらよかった」


「でもそれだと黒くて汚い氷の矢がでてくるんじゃないのかな」


 というとショックを受けて自動で歩くマシンになってしまった。


「むしろ使っていきたいのはロペスの疾風の剣だよね」


 とロペスにいうとうれしそうに


「この剣の良さがわかるかい、カオル。トロールや熊くらいの強い


 魔物の骨がてるか実験したくてたまらないね」


「カオルのもなんかカオルらしいね」とイレーネが言った。


「そうでしょうそうでしょう、攻めて良し、守って良しだよ」


「攻めることも考えてたのか」ロペスが意外そうに言った。


「まあ、突っ込んでくるラウル辺りには防御壁が攻撃みたいなもんだけどさ、


 あ、ちょっとそこに立って」とロペスを立たせて


 軽く魔力を込めてヌリカベスティックを使った。


 10cmほどの高さで盛り上がった土壁はロペスを1mほど飛び上がらせた。


 イレーネが意外なほど感動して「おおお!」と雄たけびを上げていた。


 驚いてリアクションが取れなかったらしいロペスは着地してから


「洞窟でこれやられたら確かに強いな」と言った。


「あとは持ち上げられる重さの限界が知りたいね、ゴーレム飛ばせるなら


 天井でゴーレムを殴れるからね」といって盛り上げた地面をもとに戻した。



 さて、薬草を探しましょう。


 特徴を描いた紙だけ渡されたのでそれっぽいのを採取して


 潰して汁が出ないように籠にいれていく。


 2時間ほど、採取をすると籠一杯になったのでルイス教官の元へ戻ることにする。


 よいしょ、と籠を背負い、曲がった腰をぐっと伸ばすと遠くからこっちを


 じっと見ている者の姿が見えた。

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