第49話 新学期と冬の作業

 あっというまにクリスマス休暇は終わり、1月7日、登校日になった。

「いよう!イレーネとカオルじゃないか・・・」ロペスが挨拶をしたが最後怪訝な顔をした。

「あけおめ!どうしたの?」とイレーネが言うと、ロペスは言い出しづらそうに口を開いた。


「お前ら、ちょっと、丸くなったな」

「まあ、遠征行く前くらいに戻ったんじゃないか?」とペドロが言った。

 戻っただけとはいえ返す体を太らせてしまうのはまずい。

 と、思ってイレーネを見てみると頬を抑えて絶望していた。

「もしかして、とは思っていたのだけれど・・・」自覚はあったようだ。


 最初の時間はヴィク教官によるテストだった。

 男子連中は家でも親兄弟や友達と遊びで訓練していたのだろうが、魔力育成はしていたがまるっきりだらだらと無駄に時間を消費していた。


 ペドロとやってみろ、と前に出されて正対する。

 鈍った分強めに身体強化をかけて半身になり、水平に鉄の棒を構える。


 ペドロは目の前に立った同級生の女子を見て、どこがどうといえるわけではないのだが、心構えが変わったというのか、いつもと雰囲気が違うな、と感じて警戒する。


 戦意高揚がいつもより強いのか?とも思ったがわからないので意識の外に追いやる。

 いつもカオルは戦意高揚に抵抗レジストしていたのだが、この間の一件で暴力に対する忌避感が薄れてしまったために戦意高揚が効いてしまっていたのだった。


 はじめ、の合図で目の前の少女が低く飛び出した。

 いつもの気を使って受けやすく放たれるような優しい一撃はなく、両手剣では受けづらい前足のすねを狙って骨を砕かんばかりの勢いで放たれた。


 慌てて剣で受けてはじくと、はじかれた勢いを利用して一回転し、がら空きになった肩口を狙って鉄の棒をたたきつける。

 空いたところにただただ打ち込むという素人同然の攻撃を繰り返すだけだが、強力な身体強化のおかげで恐ろしく速い打ち込みが繰り返され受けるだけで精いっぱいになってしまった。


 幾合かの打ち込みを受け頭上から叩きつけられる棒を受けた瞬間、冬の休みに父からもらった、ちょっと質の良い剣が根本で折れてしまったのだ。


 一度距離をとって負けを宣言するしかないのだが、とっさの事態に対応できずに固まってしまい、折った勢いのまま棒が叩きつけられる。


 まずい、とは思うが体が動かずギリギリ頭を砕かれるのを避けるために首を横に反らした。

 頭があったところを通り過ぎ、棒はペドロの鎖骨を折って止まり、ペドロは衝撃と痛みで意識を失ってしまった。


「そこまでだ、丸くなって鈍ってそうだったのに前より動きが良いな、精進するがよい」ヴィク教官が至高の癒し手を使ってペドロの負傷を癒した。


「次に鈍ってそうなイレーネとラウル」

 気まずそうな顔をしたラウルとイレーネが向かい合う。

 始まりの合図にラウルはいつものように身体強化をかけて体当たりするように剣を突き出し突撃した。


 いつもの戦法でいつもの攻撃の仕方。


 イレーネはラウルの一撃をやり過ごして後ろから攻撃しようと特に何も考えずにぽん、と1歩動いて最低限の動きでそれを回避した。

 しかし、位置取りが悪くラウルの剣を持っていない方へ動いてしまったために、ラウルの左腕が延ばされた。


 高速のラリアットはイレーネの上半身をくの字に曲げ、ラウルの急ブレーキとともにそのままの体勢で壁に向かって放り投げられた。

 ほんのわずかな、一秒にも満たない時間の中、慌てて龍鱗コン・カーラをかけて壁に激突した。


 身体強化と龍鱗のおかげで外傷はなく、衝撃も耐え切った。

 広い練兵場で助かった、とため息をついてラウルを向くと追撃を仕掛けてきているところだった。

 今度は間違えない、ラウルの背中側に多めの歩幅で移動した。

 が、ラウルはイレーネの手前でブレーキをかけ剣を横薙ぎに払った。

 急ブレーキには驚いたが予想の範囲内だったため、頭を下げて足払いを繰り出した。


 ラウルは防御させて押し込むつもりだったがかわされてしまったのでイレーネの足払いをそのまま受けて転んでしまう。


 ラウルが起き上がる前に剣を踏み、喉元に剣を突き付けたイレーネの勝利で終わった。

 イレーネも少しは成長しているようで自分のことのようにうれしい気持ちになった。


 それ以外はまあ、なんかいつも通りの感じだった。

 座学は魔道具作成なのだが、腕輪にちまちま効果の弱い基礎的なものを作る所から少し応用になり、魔石は使わずに自分の魔力で発現する普通の魔道具を作る。


 戦場や迷宮で使うような剣、盾、防具辺りが妥当だろう。

 重さが消える荷車とかあれば兵站に役立ちそうだが。


 自分の装備品を魔道具にするために万力に挟み金属の棒の先端に魔法の出口を作る。

 2つの機能を持たせたい、円柱状になっている前半分と後ろ半分で文様を刻むことになる。


 端を持ち、魔力を込めて地面を突くと1メートル先の地面が盛り上がり壁になる機能

 反対側の端を持ち、魔力を込めて地面を突くと1メートル先の地面が穴になる機能だ。

 大きさは込める魔力量に比例するとする。


 防御逃走用の私らしい消極的な魔道具兼武器なのだ。


 しかしやってみるとこれが中々に難しい。

 面積が狭くて丸いので滑って変な感じにえぐれそうになるので

 ゆっくり慎重にやらなくてはいけないのが焦れる。


 ロペスはいずれ斧に持ち変える予定だが、練習として家から持ってきた片刃の長剣を改造するらしい。


 はるか西の国で作られたという反りのない日本刀のような直刀の峰に書くらしい。

 詳しく聞こうとしたら楽しみに待っててくれと言われてにやりとされた。

 イレーネは特に何も思いつかなかったらしく、黒い炎の矢が出るナイフを作ることにしていた。


 ペドロは前に練兵場でみた光る盾が気に入っていたのだ、と教えてくれた。

 どうやら剣に光と炎の文様を施し、かっこよく光って燃える剣を作るらしい。

 私のせいで変なものを作る人がでてきてしまった。


 技術的には高度なことをしているのだが、出来上がるものが残念でたまらない。

 フリオとラウルはお湯が出る盾を作ると言っていた。


 接敵した瞬間に熱湯をかけるのだと、あとはスープも作れるし、とラウルが言っていた。

 ルディは鋭刃アス・パーダがかかる剣だった、なんというか普通だな、と思ったが口には出さないでおいた。


 そんなこんなで冬の間は魔道具を作り、3年生と4年生は研修という名目で兵站部隊の手伝いをするというのが例年のカリキュラムだったのだが、今年は2年と3年生が兵站部隊研修をして、4年生は別な場所で補佐するらしい。いつもと違うことをする軍行動というと嫌な予感がしなくもない。


 来年は元に戻っているかもしれないし、そこまで気にしないことにした。

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