第46話 イレーネと冬の買い物
遠征から半月ほど経った秋も半ばという頃。
懐が温まったイレーネから買い物の同行を頼まれた。
ついでに私の冬服も買わなければ。
支給された服では薄くて冬を越せそうにない。
商業区画へ、下町ではなく高い方の商業区画にイレーネと一緒に出掛ける。
わざわざ質の悪いものを買いに臭いところに行かなくて済むのはありがたい。
なんか、士官学校が充実してきてしまったせいか、こっちの生活も悪くない気がしてきた。
帰っても終電で帰るような生活なんだもの。
とはいえ、実際に殺し合いをするようになるとまた意見も変わるんだろうな、と結論を保留にした。
春先にエリーに用意してもらった服を着て本を読みながらイレーネを待つ。
朝食を食べ、小一時間ほどたったころにイレーネが訪ねてきた。
「カオルはいつも朝早いね」まだまだ眠そうなイレーネと街に繰り出した。
この時期、イレーネはいつもなら年末に向けて仕立てたドレスの試着と調整をするのだけれど、今年はドレスを買わないので防寒具や遠征に使うマントを新調する必要があるらしかった。
おいてきた今まで着てた服は普段着と言ってもヒラヒラしたものなので可愛いのは可愛いでいいのだけど家を出た今、着ていく場所がないし、着るまでは可愛いから気分が上がるのだけど、着始めると面倒でしょうがない。
着た後も締め付けはきついしゆっくり動かないと裾踏んで転ぶしでやっぱり面倒なの、とそんな話をしつつ二人で綺麗な石畳が敷かれた道を歩く。
まずは古着屋にいく。
石の様な不思議な材質の建物に入ると古着独特の臭いがする。
ちょっと顔をしかめてから着れそうな服を探す。
やっぱり女性ものはスカートしかないようだ。
男性物でいいかと思ったが一番小さくてもウェストも裾もぶっかぶかで作るしかなさそうだ。
しょうがないのでなるべく妙な模様が入っていないセーターを数枚選んだ。
イレーネは膝下の長さのスカートとセーターを買っていた。
既製品の中古でも銀貨で払うとは思わなかったが今の私達は億万長者に匹敵する気持ちに溢れているのでなんてことなく支払った。
リュックに買ったものをしまい、隣にある仕立て屋に入った。
小汚い制服を着た金のなさそうな子供が二人、不審な目で見られながら入店する。
「すみませんが、いくつか仕立てていただきたいのですが」というとにっこり笑って接客モードに切り替わった。
「どのようなものがご入用でしょう?」
「私は上着とズボンがほしいです。」といってもこもこな上着を注文する。
素材は丈夫な紺色の布を指定し、
胸ポケットを付けたかったが邪魔なものがあるから使いづらそうなので断念して腹のポケットのみで我慢する。
ジャケットの絵を書いてこんな感じにしてほしい、と要望を出すと
「なんか、かわいくないね」と感想を漏らした。
私の注文が終わるとイレーネは
「あたしはマントと冬の上着とズボンかな?」といった。
「マント?」と聞くと、野営の時に敷けたり頭から被って雨しのいだりできるのよ。
と答えた。
「あらあら、お嬢様方、流行りのデザインのきれいなスカートもありますよ」とかわいらしいデザイン画を見せてきた。
「私たち士官学校生なので、動きやすい方がいいんですよ」というと、なるほど、大商人か貴族か、と納得したようだった。
なら、マントあったほうがいいのかなぁ、と思うが、ジャケットにマントっておかしくないか?
おかしいがないと不便ならまあ、いいか。とマントも注文した。
イレーネの注文の後に採寸してもらう。
ズボンは動きやすい様にダボっとさせて腿の外側にポケットを付けてもらい、前と後ろにもポケットを付けてもらって採寸した。
念の為肘と膝に魔物の皮を使って補強してくれる様お願いした。
「ポケットだらけだし、なんか変、かわいくない」とイレーネが言った。
それはそうだろうと私も思う、実用性重視なんだもの。
そう思うとマントじゃないほうがいいな、ポンチョにしよう。と注文の変更を伝える。
ポンチョがわからない、というので簡単な絵をかいてお願いした。
できたら防水のものがあればお願いしたい、というと
防水布で作りましょうと提案された。
サンプルの布を触ってみると妙に分厚く、ぷにぷにと弾力があった。
上着の布代が銀貨10枚、中綿が銀貨1枚、たぬきの皮が銀貨2枚
ズボンの布代が2着分で銀貨24枚、ポンチョの防水布が銀貨40枚とのことだった。
やはり機械がないと手作業のコストが跳ね上がるな、と思っているとなんと仕立て代が含まれていないという。
仕立て代は上着が銀貨6枚、ズボンが2着分で10枚、ポンチョは12枚とのことだった。
合計銀貨で105枚、金貨2枚と銀貨5枚ということになった。
やっぱり服は贅沢品なんだなぁ、と思い、イレーネを見てみると店員に言いくるめられて流行りのデザイン重視になり、防寒具なのに薄手にされそうになっていた。
厚手の羊毛と綿の合わせた生地でコートなんかいいんじゃないか、と女性向けのコートはダッフルコートくらいしかしらないのでデザインを書きながらこういう感じなら生地の厚さとデザインが両立できると説得した。
ズボンの形には特にこだわりはないらしく、普通の男物のズボンを縮小したものを注文していた。
私が補強のために膝に皮を使っていたことでイレーネもなんとなく真似してみたくらいだった。
ダッフルコートの布代が銀貨で14枚、ボタンに使う鹿の角が銀貨1枚、マントが皮と布を張り合わせたちょっと高いやつで銀貨12枚にズボンは銀貨5枚という所だった。
それに仕立て代を合わせて合計銀貨48枚となった。
億万長者に匹敵する気持ちをもってしても貧乏性は抜けないな、と思って仕立て屋を後にした。
採寸やらデザインやら色々してたらもう昼過ぎだった。
「お腹空いたからご飯食べよっか?」とイレーネがいうので適当に入って昼食ができそうな店を探した。
少し歩いてレストランに入る。
ガーリックトーストとサラダとスープにコーヒーを頼んで一休みする。
食べなれた物があって助かる。
入ってる野菜は見慣れないが。
黙々と食べ終わったところでイレーネが口を開いた。
「カオルってさ、召喚者だよね」
なんと答えようかと思案を巡らせていると
「まさか、隠してるつもりだったの?」
「そんなことはないけど」
「だよね、隠してたつもりって言われた方がびっくりするわ」
「でもなんで聞いたの?」
「いやー気になっちゃって、隠してる風でもないし、聞いてもいいかなーって」
「確かにそうなんだけど」
「あたしが受けてきた淑女の教育なんてあほらしいものも感じもないし、スカート嫌いだし、今日なんて変な服デザインするしさ」それは女物着たくないっていうだけなんだけどな。
「ま、聞きたいこと聞いたからすっきりしたわ!」
「それに昨日のあれも召喚者絡みよね」
「昨日の?」
「地下の会議室」
「あぁ、ロペスが。」
「そゆこと」
「じゃあ、これからはバリバリイレーネを鍛えられるね」と言ってにやりと笑うと
「うん、よろしく」といってにっこりと笑って私の心をちょっとドキドキさせた。
軽くお腹がいっぱいになったところでせっかくだから地下の会議室を使ってみようということで学生寮に戻ることにした。
動きやすい恰好に着替えて現地集合しようとしたが、私は場所がわからないのでイレーネが迎えに来てくれるのを待ってから
会議室といいながら全て片付けられていて、がらんどうの室内だった。
ありがたいことに私達のために空けてくれたんだろう。
イレーネと向かい合ってこまめに休憩を挟みながら2,3時間ほど
「ここらへんで最後にしようか」
どちらからともなくそういうと最後に残りの魔力を全部使った
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