第45話 遠征の振り返り

 一晩明けて、エリーが朝食を持ってきてくれる前に着替えを済ませた。

 イレーネが起きてたら一緒にエリーを待ってもよかったんだが、

 きっとギリギリまで起きられないタイプなのでまだ夢の中だろう。

 エリーを待つために本を読む。


 今日の本は2年目に覚える魔法についての本。


 炎の矢フェゴ・エクハの様にとっさに使うものではなく、大人数にかけたり高威力のものを覚えるらしい。

 以前の訓練の時に兵士に使ったハードスキンなんかがそれにあたる。

 大体は多人数対多人数で向かい合った時に矢を射るのと合わせて打ち出される高威力魔法になる。

 向かい合った軍隊同士で一斉に打ち合い、盾と魔法障壁マァヒ・ヴァルで防ぎ落ち着いたところで一般兵が突撃を行い戦闘が始まるのだ。


 魔法が使える士官を先頭にして縦列に並んだ敵集団の横っ腹に騎馬突撃の様に突撃し、中央から引き裂いて駆け抜けるという戦法が試されたが、抜ける前に魔力が尽きて殺されてしまうことが多かったため、


 親の貴族から『正しい血族である我々貴族が厚意で協力しているにも関わらず、そのような消費の仕方をするのであれば、軍にいれることは以降控えさせていただく』という書状が届き、以降貴族の子女がその戦術に参加することはなくなり、武功が減ったとそれはそれで不平が出た。


 この戦術を取りたい場合は、魔力持ちの平民が行うようになったが、貴族ほどの魔力があっても袋叩きにあうのに魔力の成長が未熟な平民では成果を上げる前に全滅してしまったため、やはり使われなくなった。

 と、別の本に書いてあった。


 若干面倒になった詠唱を覚えているとノックの音がした。

 エリーが来たようだ。


 はーい、と返事をすると、エリーが朝食を持ってきてくれた。

「おはようございます、カオル様」

「はい、おはようございます」


 エリーが持ってきてくれた朝食を取りながら、戦った魔物の話やイレーネとロペスの宣伝をしておいた。


 その後も講堂に着くまで話に付き合ってもらった。

「久しぶりだな、カオル、少しやせたんじゃないか?」

 と、ペドロが声をかけてきた。


「固いパンと干し肉ばっかりだったからそうかもねでも普通のパンとかも食べてたからロペスとイレーネの方がやせたかもしれない」と答えた。


 その後、ロペスとイレーネも合流してロペスの突っ込みたがる話とイレーネの黒い炎の矢フェゴ・エクハの話で盛り上がった。


「お前ら、やせたな。イレーネ、ちゃんと稼げたか?」とルイス教官が声をかける。イレーネは元気よくはい! と答えて笑みを見せた。

「それは良かった。」


「ラウル、お前もダイエットのついでに遠征行ってきたらどうだ?」とペドロが茶化し、「体力ないしお金困ってないからいやだよ」とラウルが答えた。


 なんだかんだで貴族なんだなぁとしょうもない感想を抱いたが、なぜ体力なくてお金に困ってない太っちょのラウルが軍に入ることになったのか。


 とどうせ大した話じゃあないだろうと思うが、若干の謎を残した。


「まあ、せっかくだからやってきたこととか、戦った相手とか迷宮の話とか

 発表してもらうかな、な、ロペス」

 そういわれまんざらでもない顔で前に立つロペス。


 そもそも私とイレーネはお金がないので行ったが、ここにいる候補生は弱小とは言え貴族や太い商人の子供なのだ。

 わざわざ危険を冒してまで迷宮に潜る必要なんてない。

 であれば、こういう話は娯楽としてもいいのだろう。


 修行の旅に出てほしいとか思惑があるのかもしれない。


 初日の腕長熊討伐でイリュージョンボディがかかってるのにかっこつけて


 空回りした話を省いて私の炎の矢フェゴ・エクハに反応した手長熊を後ろから切りつけ、イレーネが風の刃ヴェン・エスーダで頸動脈を狩り、自分がとどめを刺した話をかっこよく披露していた。


 その後、巨大猪グレートボアを狩り、一晩明かしてデロール村に行き、村長の家のドアを身体強化かけた私が破壊した話を誇張して語っていた。


 自分のは隠したくせにずるいやつだ。


 まあ、かっこつけたい年頃なのだろうと、寛大な私は優しく許してやることにした。


 その後続く大迷宮での冒険譚にロペスは意外と話上手なのか、ペドロやルディがのめりこむように聞き入っていた。


 そのあとの話は、石人形ゴーレムに出合い、まったくもって歯が立たず、吹き飛ばされてしまった話だった。


「カオル、気絶している間の話をおねがいできるかな?」というので交代してその部分の話をする。


 気絶したロペスに興味を無くした石人形ゴーレムは私とイレーネに向かってきたので、イレーネと二人でアグーラを床に撒いて凍える風グリエール・カエンテで凍らせることによって、つるつるになった地面で石人形ゴーレムの機動力を奪いつつ、スライディングで脇を通り抜けてロペスを肩に担いで6Fの階段まで戻った。


 ハードスキンのおかげで外傷はないようだったが、無事かどうかわからない中、アーテーナの鉾というハンターのチームが通りかかって回復させてくれた、という話をしてロペスに話を戻した。


 アーテーナの鉾は前衛のアルベルト、後衛のアンヘル、神官のニコラスの3人組のパーティだと紹介し、


 アーテーナの鉾と合流し、全員が後衛と回ることによって9Fの牛頭ミノタウロスを狩ることができた。


 我々は魔法を使うために身体強化は自分自身にしかかけられないが、神官は奇跡の発動によって前衛のアルベルトに身体強化をかけられた。


 身体強化をかけた所で今の我々には抑えられないであろう牛頭ミノタウロスを一人で抑えて後衛の介入する隙を作るという技術を持って連携して戦っていた。


 前衛の役目とはいえ、攻撃的でかつ力が圧倒的に強い魔物を相手にたった一人で立ち向かう姿に感動した話を熱く語る。

 

 きっとロペスのあこがれの大人像が出来上がった瞬間だったのだ。


 前衛と言えばペドロと自分くらいの強さがあれば中々やれるんじゃないかと思っていたが、実際にハンターとして生きている彼らをみると技術も体もできていないんだと実感した。

 と、締めた。


「いい経験ができたな」とルイス教官が感想を言った。

「今聞いた通り、お前らは普通の人間よりは強い、だが戦いを生業にする者からすると中位くらいなものだろう。

 4年ここで成長した時こそ戦いを生業にしているものを超えることになる。精進すること。」と全員を引き締めた。

 

「あと、カオルとイレーネ、ちょっと」と手招きした。はい、なんでしょ。と行くと

「ロペスから聞いた。地下の会議室使ってもいいぞ。」

 はて? と思っているとロペスが魔法障壁マァヒ・ヴァルの件だ、と耳打ちした。

「あぁ、はいはい、ありがとうございます!」

 これでわざわざ出かけなくて済むのがありがたい。


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