第44話 帰路

 宿の近くの喫茶店で朝食を取り、帰路に就く。

 ごちゃごちゃと荷物を抱えてしまったが、身体強化をすれば問題ない。

「女子の支度は時間がかかるというがカオルは早いな」

 食後の紅茶を飲みながらロペスが言った。


「まあ、特に気にするものもないしね」と答え、チェックアウトに時間がかかっているイレーネを待った。

 レタスとトマトのサンドウィッチを食べ終え、追加で小さいサイズのピザを頼み、そしてまた追加でチキンとレタスのサンドウィッチを頼み、4杯目の紅茶を飲み始めたころにイレーネがやってきた。


「遅くなってごめんね」と言って席について朝食を頼んだ。

「勝手に早く外に出てただけだしね。気にしなくていいよ」とフォローした。


「そういうことだ」とロペスが同意した。

 イレーネの朝食を待つ間にホットドッグを頼んでロペスに今日はよく食べるな、と驚かれた。

 なぜか妙にお腹が空くのです。


 イレーネの食事も終わり、軽く伸びをして出発する。

 森の中ではなく、きちんとした道を全力ダッシュで駆け抜ける。

 きちんとしたといっても石畳だとかアスファルトだということではなく、踏み固められて草が生えていないだけの道というだけなのだが。


 1時間毎に休憩を挟みながら6時間ほど掛かって我が聖王国ファラスへと帰還した。

 日が傾いてもうじき日没だろう、今日中に戻ってこれてよかった。

 その足でまっすぐにハンター協会に行き、デロール村の村長からの手紙と手長熊のしっぽを渡して報酬をもらう。

 報酬は金貨2枚と銀貨40枚、巨大猪グレートボアは被害額が熊ほどではないから安いのだろう。

 そして換金の窓口に行き、鬼蜘蛛ジャイアントスパイダーの爪と糸、手長熊の魔石と洞窟の巨人トロールの魔石と牛頭ミノタウロスの角と魔石を全て預けた。

 鬼蜘蛛ジャイアントスパイダーの爪は30個、あまりにも多かったので途中捨てた。銀貨3枚、糸は1匹分の1巻き、40個で1つあたり銀貨5枚。

 洞窟の巨人トロールの魔石は12個、1個当たり銀貨20枚なので240枚。

 牛頭ミノタウロスの魔石は14個、1個当たり銀貨30枚なので、銀貨420枚

 そして角は28本、1本あたり銀貨25枚なので銀貨700枚。

 合計すると銀貨1650枚、金貨にすると27枚と銀貨10枚という結果になった。


 これにデロール村の村長から直接もらった金貨と仕事の報酬を合わせると金貨34枚と銀貨50枚、一人頭金貨11枚と銀貨25枚という結果になった。


「はぁぁ、よかった。」お金を入れた革袋を抱きしめてイレーネが言った。

 ロペスがよかったなと言って、懐に革袋を仕舞った。

「さて、この後どうする?」とロペスがいうので

「せっかく懐あったまったんだからちょっといい店行こうよ」とイレーネがいうので、一緒に兵舎の方にある少し高級な店に行くことにした。

 若人がどんどん贅沢を覚えてしまう。と思ったが、彼らはもともと貴族だったわ、と思い直した。

 日常的に銀貨1枚するような食事をしているのかは知らないけれど。


「ここ来てみたかったのよね」と言って土の様な石の様なよくわからない材質でできた建物に入っていった。

 来てみたかったそのレストランは、大迷宮前の集落で食べたものと大差なく、確かにおいしかったが一度食べたものと思うとそこまで感動は無かった。

 ほろ酔いでレストランを出て、兵舎へ向かう。


 ふらふらと歩きながらイレーネが

「カオルにロペス、本当にありがとう。このお金がなかったら自分の支度もできないからってきっと連れ戻されてた。きっと連絡がこなくてお父様は慌ててるわ」そう言って笑った。

 その後、自室に戻った。

 体調がおかしいのできっとアレの予兆だと思い、薬を飲む。

 きっとこれで大丈夫だ。


 なんだかんだで絞れるくらい汗をかいたので、シャワーを浴びてベルを鳴らした。

 帰還の報告くらい自分で言いに行ければよかったのだが、エリーがどこにいるかしらないのだ。

 ノックの音がなり、どうぞ、というとエリーがやってきた。

「ただいま! エリー! 全員元気です!」というとぱっと笑顔を輝かせた。

「おかえりなさい、カオル様」そういって胸の前で拳を回したので私も拳を回して答える。

 今度は間違えない。


「帰還の報告だけしたくて呼びました。」というとエリーは

「気にしていただいてありがとうございます。」と頭を下げた。


「今日の所は早めに寝るので今度イレーネと一緒に土産話でも聞いてください。」と言って就寝の挨拶をした。

 同じ頃、ロペスは自室に戻ろうとすると廊下でルイス教官に「無事に戻ったか」と、声をかけられた。

「はい、戻りました。」というと、ちょっと来い、と地下の会議室らしき部屋に連れていかれた。


 そこには既にヴィク教官とフェルミン・レニーがいた。

「まあ、座れ」とコップに茶色い液体が注がれ、差し出された。

「で、カオルとイレーネとの遠征はどうだった?」ルイス教官が言う。

「気づいたことや実際にあったこと、あとはそれでどう思ったか、という所だな。」

「彼女は、出しゃばらない感じがします。」

 一緒に戦うと功績を均一にしようとするのか、少し手をだしてから1歩下がる様な真似をする。

魔力量が多く、威力が高い気がします。

 血に対して忌避感が強く、命を奪うということをしようとしない。という話を迷宮でハンターに待ち伏せされた話を交えて言った。

 あとは、弱いものを守らせるとことのほか頑張ってくれます。


 ブラックジャックの例をだし、専門家ならわかるであろうことをこともなげにやる知識。

 一つ一つ思い出しながら彼女のことを語っていく。

 きっと彼らが聞きたいのはこの結論なのだ。

 茶色い液体はブランデーだった。

 喉の奥を焼きながら通りすぎるブランデーを感じながらこう言った。


「カオルは、召喚者、相当に平和な世界から召喚された、隠しているわけではないと思いますが召喚者なのだと思います。」

「彼女をこのまま戦場に向かわせたとしても、過去の召喚者の様な活躍は期待できないと感じます。」

「どうしてそう思った」ヴィク教官が言った。

「彼女は戦うということに対して心が弱すぎます。」

「幸い、後方支援も並以上にできるので、このまま魔力量が増えれば直接ではないですが活躍はできるでしょう。」


「そこで相談なのですが」と続け回答を待った。

 ルイス教官がうなづく。

「人の目にふれず、音の漏れない個室を借りれるように彼女に言います。」

「なんのために」フェルミンが言った。

「内容は彼女の秘法なのでいうことはできませんが、従来より魔力量を増やす方法を持っています。」

「しかし、方法としては難しいものではないので上位貴族の秘法と同じであった場合・・・」

「秘法を盗んだと濡れ衣がかけられ取り込まれるか罪人として扱われてしまう可能性がある、ということか。」とヴィク教官が言った。

「わかった、ヤニック様にはこちらで手配しておく。」

「で、貴様は知っておるのだな?」ヴィク教官がにやりと笑って言った。

「はい、それで秘匿するように忠告しました。」

「いい判断だ。」といってルイス教官がロペスの髪をぐしゃぐしゃと掻きまわした。

「では、英雄の出現に」といってヴィク教官がグラスを上げ、口々に「英雄の出現に」といってグラスを上げた。


 次の日の朝、案の定アレだった。

 薬を飲んでるので普通にしていられるがなければ毎月地獄だったろう。

 そうでないときはそこまでひどくないという経験からだが特に魔力と体力を使ったあとにアレが来ると体調がひどいことになるらしい。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る