第43話 遠征終わり
7F
いい人たちだったな、と言い合って身体強化して駆け抜ける。
迷宮を駆け抜ける風になるのだ。
あっというまに地上まで出てくると、太陽はだいぶ西の方に傾いていた。
暗くなる前にその足で宿に向かう。
「ねえねえ、どうする? 宿」とイレーネが聞く。
特に考えていなかったので、最初の宿でいいんじゃない? というと
「お金はあるんだからもっといいところにしようよ、お風呂入りたいし」と言った。
それはどうする? じゃないんじゃないかと思ったが、確かに風呂は入りたい。
なんと言っても
角は荷物としては重いが、その分値も張るので全然気にならなかった。
迷宮の入り口から少し離れた所にある、石造りの大きな宿。
手作業による木造ではなく、魔法による石造りだというのが売りらしい。
そして、従業員に魔法使いを置き、
そして各室にシャワー室があり、対価を支払うことにより魔石に魔力を込めてもらって水とお湯が使えるという
よくよく聞いたら学生寮と似たような設備を備えているのだった。
高級と言うから期待したのに、というがっかりした表情のイレーネ、苦笑いのロペス。
カウンターで指を鳴らし、「シャワー室付きのシングル3部屋! 一泊で」というと
「では前金で銀貨9枚になります。こちらに名前と住所をご記入ください」と、普通に対応された。
鍵を受け取り、たらいを借りて部屋に入る。
疲れていたのでそのままベッドに倒れこみたいが汚れているので先にシャワーを浴びることにした。
脱いだものをたらいに入れ、お湯で満たしガシャガシャと踏みながらシャワーを浴びる。
洗濯とシャワーの同時進行で効率的にできる! と思ったが目をつむりながら足踏みしたら転びそうになったので結局別にやった。
シャワーを浴び、清潔になったところで
このまま寝てしまいそうになり、慌てて起きる。
たらいに置いたままの服を改めてすすぎ、
ベッドに座りぼうっとする。
そういえば、イレーネと私は冬の服やらいろいろ必要だから稼ぎにくるのはいいとして、特に困ってなさそうなロペスがついてきたのはなぜなのか、ということを思いついた。
あぶなっかしいとかそういうこともあるのだろうし、来てくれて助かったのも事実なのだが。
いつか聞ければいいか、と思い直し
晩御飯どうしようかなぁ、この間の店美味しかったからまたそこでもいいのだけど。
と考えているとノックの音が響いた。
「カオル、そろそろディナーの時間だがどうする?」とロペスがドア越しに声をかけてきた。
行くよ、と答えてドアを開けるとシャワーだけは浴びたロペスが立っていた。
「あれ、洗濯しなかったんだ」と聞くと
「あぁ、それでたらいを借りていたのか」と思い当たったようだった。
もしかしてイレーネも汚れたままなのだろうか。
そう思ってノックしてみると遠くから先行ってて! と返事が聞こえてきた。
「だってさ」とロペスに言って宿のロビーにある椅子に座ってイレーネを待つ。
ちゃんと洗濯は済ませてきたようだ。
「お待たせ、なんの話?」ロペスと私は立ち上がり
少し高級そうな、石造りのレストランの前に立ち、ここにしようと決めた。
受付をすると席に案内される。
メニューがロペスにだけ渡され、ロペスが適当に注文していた。
ロペスが何か注文し、ワインは赤のこれを、と言ったのだけ聞こえた。
「ねえ、カオル! ブラックジャックやりましょう!」というので
「そういうのは食前にやるもんじゃないし、イレーネ両替しないとないでしょうよ」というと唇をつんととがらせてちぇーと言っていた。
まあ、ハマっちゃう人は食後もダメですけどね。
ほどなくして、食前酒でキールというカクテルが出された。
はじめての味。
ちびちびと飲んでいるとサラダが出された。
ラディッキオとレタスのサラダというらしい、チチトーンとブロッコリーが両方入っていた。
給仕の男が
「魔力の満たされていない土地で育ったチチトーンが緑色になるのですよ、こちらの地域では珍しいのでサラダに使っています。」
普通に向こうの野菜もあるのか、と驚いてブロッコリーを突き刺してみていると
「それ真緑で気持ち悪いよね」とイレーネが言った。
私は白黒のつぶつぶの方が気持ち悪いと思います。
味は、とみてみると味はブロッコリーの方がおいしいけど、魔力がないので一味足りない気がしてくる。
スープは茶色のどろっとしたニニギのポタージュらしい。
味はトウモロコシだった。
スイートコーンに魔力をあげると茶色になるらしい、まあ、トウモロコシなんて色いっぱいあるしそういうこともあるだろう。
スープを飲み終わったがイレーネがまだスープを楽しんでいたので手持無沙汰になり、パンを手に取る。
小麦も魔力で色が変わったりするのだろうか。
少し硬いパンをちぎって口に放り込む。
しばらくするとメインディッシュの肉料理が現れた。
ラムと牛ほほ肉の赤ワイン煮込みらしい。
肉アンド肉。実に中高生男子らしい注文の仕方である。
イレーネが小声で「男子に頼むとこういう頼み方するからいやなのよ」と文句を言っていたがおじさんになってもそういう頼み方をする私としては笑ってごまかすしかなかった。
そしてデザートはアップルパイだった。
珍しい果物が入ったので今週だけ出していると言っていた。
イレーネもロペスもリンゴは初めての様で食感と味についてこれはいいとか
甘酸っぱくていいと言っていたので機会があれば私の世界に招待したいものだ。
デザートまで食べ、3人でワインを1本空けてから宿に帰る。
本当に高級店だったらしく、銀貨7枚だった。
じゃあ、明日の昼前に、と約束して部屋に戻り、適当に晩酌して寝た。
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