第47話 イレーネと冬休み(1)

 クリスマス。


 ここでは家族で1年の健康を神に感謝し、次の年の幸せを神に祈って過ごすらしい。


 学生寮でも12月の24日から翌年の1月6日までいわゆる冬休みになり家族の元へ帰ることができるのだという。


 私はもちろん行く当てはないので、寮で過ごすことになる。


 エリーもロペス達もどうやら実家に帰るらしい。


 実家から帰ってきてほしいと手紙が届いたらしいがイレーネは帰らないらしい。


 プレゼントは石炭を送るんだよ! とちょっとさみしそうに笑っていた。


 ということで冬休みは自然とイレーネと過ごすことになった。


 学生寮の食堂も休みになってしまうので、自分で作るか買ってくるかしないといけない。


 あとはワインを2、3本買っておけば大丈夫だろう。


 

 という話をしていたのだが、結局当日になって作るのも面倒だよね、という話になり


 焼いた肉やら野菜やらを買いにでた。


 二人で1個ずつ大き目の籠を持って屋台を回って色々買いこむ。


 衣料品店やら雑貨店はクリスマス休暇で閉めてしまっているので、歩いていてもつまらない。


 祝日なのに店を開いてくれる飲食店の方々には感謝しきれない。


 パンにチーズ、塩コショウで焼いた牛肉に七面鳥のローストを切り分けてもらって学生寮に帰る。


「いやー買いに買ったね、これで明日のごはんにも困らなそうだよ」と言って木箱に買ってきた食糧を仕舞った。


「ワインは買いに行かないと明日の分はないけどね。」というとイレーネはにやりと笑った。


 各々の部屋でシャワーを浴びて再集合する。


 私は烏の行水といわれるくらい雑に入り、パジャマに着替えてイレーネを待つ。


 こんな体でなければ美少女と二人きりのクリスマスなのだがなぁ、と


 自分の体を見下ろした。


 この体の持ち主も急におっさんになっちゃって困ってるだろうに。


 はあ、と大きくため息をついた。 

 

 ひとまず空き部屋から椅子を借りてきてイレーネを迎える準備をする。


 テレビでもあれば時間つぶしにぼーっとできるんだがなぁ、と思いながら手元の本を見る。


 ぱらぱら、とめくって適当なところで止めて眺める。


 激しい雷雨の中で英雄が姫を守って戦う場面だった。


 ここは物語は宗教関係の伝説か英雄譚くらいしか読むものがないのだ。


 ただファンタジーな物語がフィクションでなく、ノンフィクションという違いはあるが。


 そんなことを妄想しているとノックの音が響いた。


 足早にドアに駆け寄りドアを開けるとパジャマ姿のイレーネがいた。


「来たね」というと


「お招きいただきありがとう存じます」といって何もない空間をつまんでお辞儀をした。


 なんて言ったっけ、カーテシーだったか。


「いらっしゃい」と言って中に促した。


 イレーネの座る椅子を引き、イレーネを席に案内すると自分の席に着いた。


 席と言っても2席しかないんだけれど。


「じゃあ、さっそくワインでも。」といってコルクを抜いた。


 銀貨15枚で買ってきた銀のゴブレットを並べた。


 高々コップにそんな値段を払わなきゃいけないなんて、と思ったが


 木のコップじゃ雰囲気でないし、と悩んだ末に買ったのです。


「ずいぶん奮発したね!」としげしげとゴブレットを眺めて言った。


「せっかくだからね」と言って高級なコップに安ワインを注いだ。


 メリークリスマス! といって乾杯して一口飲む。


 うん、安い味だ。


 木箱からチーズとパン、焼いた牛肉を取り出してレンチンを使う。


「最初の頃なんかレンチン使うとカラッカラにしちゃってさ、全部エリーにあっためてもらってたの」と、いうと


「あたしもそうだったから冷たいまま食べてたよ」と笑った。


「じゃあ、あれだ、熱風アレ・カエンテ。髪乾かそうとして試しに濡れたタオルにかけたら焦げちゃった件」というと


「そうなんだよねぇ、だからあたしは自然乾燥だったよ」といって遠い目をした。


「侍女くらいつけてくれればいいのにね」というと


「そこまでして凹ませてやりたかったってことなんだろうねぇ、でもあたしが勝ったね」と言ってガッツポーズを取った。



 ワインが2本空いたころまでは覚えているのだが、いつのまにか前後不明になり気が付いたら朝だった。


 なぜかパンイチで、ベッドで寝ていた。


 イレーネの姿を探すと私と逆さになってやはりパンイチで寝ていた。


 どういうことだろう。と昨日の記憶を取り戻そうとするが酔いが回り始めたあたりの


 イレーネから異世界から来たんでしょどんなところよ! と絡まれて説明したり


 異世界の歌を歌えと言われていろいろ歌ったことは覚えているがそのころはまだ服を着ていた。


 よくよく思い出すとイレーネだいぶ酒癖悪いな。


 そのあとはイレーネがこっちの歌を歌ったりして、あとどうしたっけなぁ、と天井を仰いだ。


 まあ、いいか。寒いので服を着よう。


 すぐ出れるようにこの間作った服を着て、暖炉にフェゴを魔力強めに放り込んだ。


 薪代の節約である。


 パンイチで寝ているイレーネを放置してテーブルにつき、お茶を入れてパンを食べる。


 よっぱらってなんか変なこと言ってないだろうか、と心配になる。


 私本当は男なんだぜーって言ってたらなんていうだろう。


 はあ、はやく男になりたい。


 そして瓶に残った1杯分に満たないワインをゴブレットに注いだ。


 パンをつまみにワインを飲んでいるとイレーネがうめき声をあげたが起きた感じではなかったので寝言だろう。

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