第39話 悪臭と向上心

 吐き気が収まったので移動を開始する。


「神官の癒しの祈りが必要だな」とロペスがつぶやいた。


 申し訳ない。と心で謝る。


 死体は放っておくと迷宮に吸収されるのか消えるそうな。


 あとは肉食の魔物が食べたり。


 消える様は見てみたい気がするが、食べられるところはあまり見たくない。



 洞窟の小鬼ゴブリンやローパーを蹴散らしながら目的のフロアを目指す。


 洞窟の小鬼ゴブリンやローパーくらいなら成長した私達の相手ではないのだ。


 岩山を掘った坑道のように続く道を大急ぎで駆け抜ける。


 ガイドブックを見ながらあっというまに2Fへの階段にたどり着く。


 ガイドブックと言ってもそんなに厚みのあるものではなく、フロアごとにまとめられ、


 地図と得られる素材と出現する魔物が記載されているのだ。


 深くなるほど値段が上がる。


 1Fは大銅貨1枚程度だが、目的の7Fは銀貨で5枚、普通に暮らすなら半月くらい暮らしていける金額になる。




 2Fはスライムとゾンビが出現する。


 スライムは中々に強敵らしく見えづらいコアを一撃で切り裂くか、


 魔法で攻撃する必要があり、動きが遅いため基本的に無視される魔物になるが、


 気を抜くとまとわりつかれてしまうので注意。とガイドブックに書いてあった。


 ゾンビは迷宮内で死んだであろうハンターが迷宮の魔力によって人に襲い掛かる魔物になってしまったようだ。


 人の血肉を求めて捕食し、血肉に含まれる魔力によって成長するとあった。


 他にスケルトンもいるらしいがスケルトンは3Fかららしい。


 発生はゾンビと一緒だが性質が異なり、ゾンビは噛みついてくるだけだが、


 スケルトンは武器を持ち命を狙ってくる。


 スケルトンやゾンビに苦戦していると音もなくスライムが這いよって来るという仕組みらしい。


 武器の扱いは下手だが魔力もあるのでこの辺は問題なさそうだ。



 フロア中が腐肉の臭いが充満していて精神的にきつい。


 姿はないのに臭いだけはする。


 口呼吸でも逃がしきれない臭いに顔をしかめながら大急ぎで3Fに向かう。


 まっすぐ階段へ向かい、転がるように駆け降りる。




 3F


 2Fの魔物に加えてスケルトンが出現する。


 つまり3Fも臭い。


 身体強化のおかげでスタミナの心配をしなくていいのはありがたい。


 涙目になりながら無駄な探索をせずに4Fへ向かう。


 しかし、スケルトンの産出が多く、普通に歩いているスケルトンにも会うが、


 スケルトンが壁から生まれるところにも遭遇した。


 他の魔物はどう生まれるんだろうか。


 息を止めたまま出会いがしらにスケルトンの頭に向かって金属棒で殴りつける。


 剣で受けようとするがただの鉄の剣なので横から叩き折られて頭蓋ごと砕かれる。


 頭蓋骨の一部を砕いただけでは動きを止めることはないのだが、逃げるまでの時間稼ぎになる。


 魔物にしてみれば通り魔の様に駆け抜けてあっというまに4Fに到達する。




 4F

 スケルトン

 犬人コボルト

 鬼蜘蛛ジャイアントスパイダー

 が出現する。


 ここら辺から素材を回収して収益が上がるようになる。


 皮と牙、爪に糸と質が少し良くなった魔石が拾える。


 準備運動がてら少し戦ってみようと相談し、ゆっくり歩きながら5Fへ向かう。


 コスパがいいのは鬼蜘蛛ジャイアントスパイダー爪と糸らしい、


 爪は魔力付与をしてアクセサリーに、糸はよい布が織れるそうだ。


 カサカサと爪が地面をひっかく音を立てながら鬼蜘蛛ジャイアントスパイダーが現れた。


 普通の蜘蛛よりもサソリに近く、腹部分が長く反りかえった形をしていた。


 正面を向いたまま対象に糸を飛ばすことができるようだ。


 倒し方は頭をつぶすこと、大事なことは腹に傷をつけないこと。


 イレーネは「うぇえ、蜘蛛気持ち悪い」と言い、


 ロペスが私達を手で制し、やらせてくれ、と言った。


 じゃあ、と下がり後ろを警戒しつつ見学する。


 蜘蛛の目の前で剣を左右にゆらゆらと揺らすと、蜘蛛は狙いが定まらないらしく左右に体を揺らしていた。


 剣を揺らしながらゆっくり近づくと頭を狙って剣を振り上げた。


 振り上げた剣を狙って糸が吐かれ、ロペスは剣を取り上げられてしまった。


「しまった!」そう言って左手の盾を蜘蛛の顔に投げつける。


 ガキっと盾を牙で受け止めその場に捨てた。


 これでロペスは丸腰になってしまった。


 蜘蛛は喜んでいるのか前足で地面をカツカツと突いて音を出していた。


「そろそろピンチ?」と聞くと


「少しな」と答え「氷の矢ヒェロ・エクハ」と力ある言葉を行使した。


 出現させたキラキラと光る5本の氷の矢を出現と同時に打ち出した。


 氷の矢は蜘蛛の頭を貫いて胸まで凍らせた。


「魔法を使わないと面倒だな」剣についた糸を燃やして取り、


 持参した糸回収用の木の枝で糸を巻き取りながら言った。


 魔法を使えないハンター達はどうしているんだろう。


 その後、遭遇した鬼蜘蛛ジャイアントスパイダーに出合い頭に殴りかかってみると


 私の金属棒が頭に到達する前に糸が飛び出し、驚いて後ろに飛んだのだが普通に捕らわれてしまった。


 左右のどちらかに良ければよかったのだが。


 引っ張られて捕食される前にイレーネに糸を焼き切ってもらい、アグーラで洗った。


 餌をとられた鬼蜘蛛ジャイアントスパイダーは両前足を上げ威嚇のポーズをとる。


 さっきと同じようにロペスが剣をゆらゆら揺らし、


 そこに意識が言っている間に頭に向かって土の弾丸ティラ・ヴァラを打ち出し頭をつぶした。


 魔法がない場合はこれが矢での攻撃になるんだな、と理解した。


 2時間ほどそうやって糸回収をしたとき、靴の足音がした。


 他のハンターが来たかと思ったら犬マスクを被って全身に毛だらけの着ぐるみを着たような魔物が立っていた。


 なるほど、犬人コボルトか。


 犬人コボルトはこちらを認識すると、鼻に皺を寄せてうなりをあげた。


 そして剣を抜きのしのしとこちらに歩み寄ってくる。


「カオル、やってみないか?」とロペスが試すような目で見てきた。


 しょうがない、と息を吐き身体強化を強めにかけた。


 犬人コボルトが剣を振り上げ私に切りかかる。


 金属棒を野球のバッティングの様に振り、犬人コボルトの剣にぶつけ剣を弾き飛ばす。


 そしてがら空きになった胸に全力で前蹴りを入れて犬人コボルトを吹っ飛ばした。


 起き上がってくる前に氷の矢ヒェロ・エクハを使いとどめを刺した。


 遠く離れた暗い所で殺してるから気持ち悪くない。


「変な戦い方だったな」といい魔石取りを代わってくれた。


 私はナイフを持ってないので。


「確実で楽な方法だね。」と言い訳して血で濡れたロペスの手にアグーラをかける。


「確かに。近接戦闘の筋悪いから距離を置いて魔法というのは悪くないかもしれないな。」


 と、私の戦い方を分析した。


 5Fへの移動中にもう1度犬人コボルトに遭遇し、次はイレーネが一人でやってみることにした。


 というかやりたいと名乗り出た。


 向上心があって大変いいことだと思います。




 イレーネも私と大して違わないくらい近接戦闘下手だががんばって剣を打ち合わせている。


 ハードスキンもあるから、とそこまで身体強化を強くかけずに両手で剣を振り回すが、


 片手で持っている犬人コボルトと剣のスピードが変わらない。


 まあ、勝つためにやってるわけじゃないからいいのだろう。


 私は地面に座ってアグーラを飲みながら見学した。


 傍らに立つロペスにイレーネの剣はフェイントが足りないんじゃないかと意見を言ってみると


「そうだな、戦い方が犬人コボルトと一緒だ、とにかく弱点に向かって空いている所に向かって振り回しているな」


 私もそんなに変わらないが。




 しばらくイレーネと犬人コボルトは数分間打ち合い、犬人コボルトのスタミナ切れで反応が鈍くなってきたところで


 イレーネの剣が犬人コボルトの胴から首を切り離した。


「いやー、疲れちゃった」と汗だくになったイレーネに頭からアグーラをかけてねぎらう。


 イレーネの髪と体を熱風アレ・カエンテで乾かすついでに休憩をとり、


 5Fに向かって移動を開始する。

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