第36話 納品と冷凍
「はじめまして、村長さん、仕事を受けてきましたハンターのカオルといいます。
こちらがロペス、イレーネです。」
「なるほど、士官学校の学生さんか。
私がこの村の村長をやっておるベニグノ・ドゥ・デロールという。」
村長とはいえ平民に家名があるのかと思ったがよくよく話を聞くと
デロール村のベニグノという意味だった。
それがドゥ、らしい。
「お前さん方が狩ってきた
家族で使うには大きいテーブルに座り村長さんが言った。
「はあ、初めて見たのでわかりませんが大きいのですか?」と聞くと
「でかいね、でかいし血抜きもよさそうだし凍らせてあるのがありがたい。
ドアを壊したのが帳消しになるくらいさ」といって笑った。
「まず受領証がこれ、あとは手紙を書くんで一緒に渡してくれ。追加で報酬がでる。」
「あ、ありがとうございます。」と頭を下げると
「凍ってるおかげで肉も悪くならないし、きちんと処理してくれたんだ。
いい仕事には金をださんとな。」と言って4つに折った紙を差し出した。
「こづかい稼ぎにもう一つ仕事せんかね?」といって席を立って手招きした。
「今日にはここをでるので時間のかからないことでしたら。」
とあらかじめ釘を刺しておき、ついていくとキッチンだった。
キッチンには下りの階段があり、地下室があるようだった。
地下は村の食料庫でな、といい階段を降りていく。
ついていくと30段ほど降りた所に分厚い観音開きの扉が現れた。
閂をはずし閂置き場にゴト、と立てかける。
「氷室として使いたいんだが魔法なんて人を頼むとなかなか順番が回ってこない上に恐ろしく高くてな、もし魔力が余ってるようならお願いしたいのだが」
と、言って扉を開けた。
ひんやりとした空気が流れ出る。
暗い氷室の中に入る。
3mほどの高さの天井と教室くらいの広さに天井に届くほどの高さの棚が等間隔に並べられている。
「で、いつも頼むときはいくらくらいになるんですかね?」と聞く。
「いつもは金貨1枚だな、金貨1枚でここの壁を凍らせて貰っている。」
といって土壁をコンコンと叩いた。
「それで、どのくらい持ちます?」
「春までは持たんが冬を越せる程度はなんとか。」
「心許ないですね。」
「棚の一番上を氷置き場にして壁とは言わずすべてを凍らせましょうか。
料金は特に変わらなくて大丈夫です。」
「できるのであればありがたいですが。」
「三人でやるんですぐですよ」
本当なら冷気を生む魔導具をおいておきたい所だが。
三人で
その後、籠と桶を持ってきてもらい、
解けた水を受けるために桶の上に置く。
冷凍庫の様な気温になった地下室で私とイレーネの耐寒能力に限界が来る。
何をするにも不便な体だ。
ガタガタと震えながら地上に戻ってきた。
「これは協会通してないから直接払おう」といって金貨1枚と銀貨25枚くれた。
思ったよりも色々やってもらったからな、と付け加えた。
礼を言って村長の家を後にする。
デロール村には村人用の商店しかないので買い足すこともできず、
旅人もあまり来ない様な村らしく宿もないので長居ができない。
ジロジロとみられながら入り口の門へ向かう。
「カオル、やったね!」イレーネが嬉しそうに笑った。
「ねー、思ったより稼げたね。
でも本当なら魔道具作っておけたら一気に大きなお金になりそうだったんだけどね。
どうしても来年になっちゃうし、継続して稼げなくなるからね」
これで合わせて金貨5枚半、冬支度ならもう大丈夫なんじゃないだろうか。
まあ、お金なんていっぱいあって困るもんでもないし、いいか。
「さて、いきましょうかね。」
イレーネが伸びをして言った。
ぐっと力を入れると一度に引き出せる魔力量が増えたせいか、足に魔力のきらめきが見えた。
次の目的地はアーグロヘーラ大迷宮という未踏破迷宮での素材回収。
迷宮内では割とありふれた素材ではあるが迷宮まで入らないと取れないため
離れれば離れるほど希少素材として珍重される。
「そういえば、秘伝だったら申し訳ないのだが。」
言いづらそうにそっぽむいたロペスがぼそり、と言った。
意を決して私をみたロペスはやはり美形だ、こっちの人はみんな美男美女でずるい。
「イレーネの魔力が伸びたのはカオルがなにかしたんだろう?
もしよければオレにもそれを教えてくれないか。」と言った。
「あぁ、大したことしてないよ。みんながやるみたいに
といって
「さ、出して。なるべく強いのね。」といって促すとロペスも
「どんなに強くても弱くてもぶつかったら1発で割れちゃうから魔力がなくなるまでぶつけるのさ」
肩幅より広くスタンスを取り、重心を落とす。
「反動すごいから後ろに気を付けてね。」といってロペスの
甲高い破裂音をさせて私とロペスの
「なるほど、これなら集中攻撃うけるより早いし安全だな」
砂埃を払いながら立ち上がるともう一度やろうとするので、移動もあるし迷宮行くんだからやめておけ、と止める。
そして、私の後ろを見て固まった。
振り向くと謎の大音量が響き渡ったおかげで村民が柵に張り付いてこっちを見ていた。
愛想笑いで謝って移動を開始した。
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