第31話 模擬戦の終わりと亜神の国

「いやー、終わりましたね」


 疲れたのでうんこ座りしながら感想をいうと軽く無視された。


「おい、バレステロスの」フェルミンがペドロを呼び小声で囁いた

 は、と耳を傾けた。


「そこのカオルはなぜ女性のくせにああも女らしくないのだ」


 所作がなっていないものに対して直接なっていないと言わない彼は

 この奇妙な女の普段の様子が気になり、同じ班の仲間に聞いてみたくなった。


「カオルはー・・・、ワモン様が連れてきたという

 おそらく平民だと思うのですが、なぜか氏があり、

 驚くほど丁寧で繊細な所作をするかと思えば

 このように我々も驚くようなことをするのです。」と答えた。


「そうか、この辺のものですらないのか」と呟き少し考えこんでから、


 なるほどわかった、と礼を言ってペドロを解放した。


 遠くからイレーネとロペスが走ってくるのが見えた。


「いえーい! おつかれー!」と叫んで歓迎し、この後すぐに健闘をたたえて

 反省会でもするのかと思ったら続けざまに身体強化かけたチョップが私を襲った。


「あだっ! なんだよ!」抗議の声を上げた。


「あんな人数にハードスキンかけたら勝てるわけないじゃない!


 バランス考えなさいよ!」


 と腰に手を当ててふんっと気色ばんだ。


「ごめんね、暇でさ、攻撃魔法以外ならやってもいいっていうからつい」


「つい、で戦況ひっくり返さない!」


「はひぃぃぃ」と、土下座した。


 身体強化かけてても300人に飲まれてボコボコにされると

 やっぱり痛かったらしい。


 怪我がないようでよかった。


 汗一つかかず、砂埃一つついていない私は

 着替えるとさっさと部屋に戻ろうと準備した。


「オオヌキ カオルだったか、今日の活躍は見事だった、

 今少し精進すれば正式に我が部隊に引き上げてやろう」


 とよく知らない偉い人が声をかけてきた。


 いやですよ、メンドクサイとは言えずに私は頭を下げ

 お眼鏡にかなうようないいもんじゃないですよ、

 そんなことならここにいるもっといい人にしてください、と遠回しにお願いした。


 偉い人はふんと鼻をならすとどこかに行った。


 面倒くさいことにならなきゃいいなぁと

 去っていく背中を見送りながらつぶやいた。


「アールクドットとの戦争の旗色は悪いのだろうか」ペドロがつぶやいた。


 ある一人の国王が神性を得て亜神となり信仰を集め新しい神を目指している。


 その亜神が納める国がアールクドットという国だった。


 元々流刑により捨てられた者たちが起こした集落から始まった国は、

 拡大主義を掲げ、周囲の国に侵略を開始した。


 略奪し、蹂躙し、侵略先の人民を奴隷として使いつぶし、

 ついには聖王国ファラスと肩を並べるほどの大国となった。



 ならず者の帝国として名を馳せたアールクドットは

 現国王の亜神化というカリスマを得てその勢力を伸ばそうと

 天を貫く霊峰と名高いビサクレスト山を迂回し、奴隷により道を切り開き、

 戦力を消耗させずに砦を築き戦端を開いた。


 数十年続く小競り合いは拮抗していたという話だったが

 優秀だからと言って学生を飛び級で引き抜くということがあるだろうか。


 実家に手紙を書いて近況を聞くことにした。


 ペドロへの両親からの回答はあまり詳しくは言えないが

 いつもの小競り合いではなさそうだ、ということだった。


 カオルはそんな政治と戦争の話など露知らずいつものとおり

 魔法と魔道具作りに邁進しつづけ、役に立つのか立たないのかよくわからない物を

 秘密裏に量産し続け訓練兵たちに混乱を与え続けた。

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