第30話 暇つぶしと上位貴族

 あれからまた1か月が過ぎ、班のメンバーの進捗を待っている間

 暇つぶしに魔道具作りの本を読んで過ごした。


 本を読んでいると両脇の髪の毛が邪魔でしょうがない。


 昔、クラスの髪型を気にしないタイプの女子のもみあげ部分が

 カールしていた理由が分かった。


 耳にかけるのだ。


 しょうがないのでエリーにいい感じに縛ってくれと頼み、

 長さが足りないポニーテールにしてもらった。


 全員が魔道具をそれなりに作れるようになり、

 カリキュラムが次に進むようで、座学が減り訓練が増えるようだ。


 練兵場に集合するとABDE班もそろって並んでいた。


 ヴィク教官が全員の前に立ち後ろに髭を蓄えた長身の教官が立っていた。


 偉そうなのできっとヴィク教官の上官にあたる人なのだろう。


「カリキュラムが進んだので今日から全班合同での訓練を行う。」


 AD班、BE班で班分けをして、C班は半分に分けて両方に振り分けられるそうな。


 私はペドロとルディと一緒にAD班に振り分けられた。


 どこに立ってていいかわからずまとまってキョロキョロしていると

「お、貴様はいつぞやの女ではないか」と声をかけられた。


 自分が声をかけられたと思っていなかったのでスルーしていると

 ペドロに呼ばれてるよ、と肩を叩かれた。


 振り向くと赤毛の男が立っていた。


 背が高くあまり筋肉質ではない感じだが鍛えられている様子がわかる。


 まあ、ここにいるほとんどの人は鍛えられているのだけども。


 はて、だれだったか、と思っていると

 ペドロに袖を引っ張られて礼を見せられた。


 そういうことか、と理解し一緒に礼をする。


「お前、名は」偉そうな偉い人が名を聞きたいという。


「はい、オオヌキ・カオルと申します。」


 そのあとペドロとルディの名前を聞き満足げにうなづいた。


「吾輩が貴様らの上官となるフェルミン・レニーである。」


 取り巻きのピンクブロンドの眼鏡をかけた神経質そうな男が

「トミー・セビリャだフェルミン様の配下だが貴様らの上官となる。」


「トミー殿と同じくアイラン・バルノである。」


 上半身裸のマッチョがサイドチェストを決めて自己紹介した。


 今年の1年生でA班は3人しかいないらしい。


 B班もそんなに変わらないらしいが異世界でも少子化だろうか。



 これから始まるのは個人戦から集団戦に移るらしい。


 上官となる幹部候補生のいう通りに戦場を駆け回る駒となるわけだ。


 練兵場を広く使い対峙するA班とその配下達とB班と配下達。


 ルールは一定時間戦闘を行い、生き残りが多いほうが勝利チームとなる。


 訓練時だけの追加ルールとして一般兵に魔法攻撃をしてはいけないというものがある。


 一般兵は魔法耐性がないため想定したものより大きなダメージになってしまい、死亡事故が多いらしい。


 それなのに混ざって戦わせる意味があるのかと疑問に思う。


 また、A班リーダーのフェルミンとB班リーダーのなんとかさんが討たれても終了となる。


 練兵場の脇に組まれたやぐらに教官達が座り高みの見物をしている。


 はじめ! と叫んだヴィク教官が上空に魔法を放ち爆発させる。


 初めて見るがどういう魔法かな、とぼーっと見上げていると後ろからチョップされた。


「ぼーっとするな」フェルミンに怒られた。


 しかし彼の作戦は最初はやることがないのである。


 一般兵を突撃させて適当に数が減ってきたら

 私達が出ていって数を減らしつつリーダーを狩るという作戦らしい。


 私だったら矢と魔法で数を減らしてから突っ込ませるかなぁと思うが

 正しいかどうかわからないし最初はこんなもんだろう。


 300人ほどだという自軍の兵が声を上げながら突撃していく様をみるのは

 中々に壮大だなぁと感心しつつなにかできることはないかウロウロしてみるが

 今度はウロウロするなと怒られた。


「攻撃以外ならなんかしていいですか?」とフェルミンに聞くと


「何をするかしらんがいいだろう」という

 対して興味がなさそうな答えが返ってきた。


「土の大精霊よ土の大精霊よ、竜の鱗、鋼の体、何物にも砕けぬ御身の加護を

 勇者たちに与えられんことを!

 ハードスキン!」


 暇つぶしに300人に防御力強化をかけてあわよくば

 寝てしまおうという作戦を試みた。


 特訓のおかげかギリギリ意識を失わない程度にふらふらになり、

 今行われた異常な光景に驚くペドロやフェルミンに気づくことなく

 その場にへたり込んだ。



 ちなみに、これは召喚者の時代になってから

 大人数に対しての物理攻撃に対する防衛手段として作られたもので

 魔力量にもよるが10人程度なら詠唱は省いてもいいが、

 数十人ともなると詠唱が必要になる。


 自分だけの場合はもっと古い龍鱗コン・カーラが効率がいい。


 後で話を聞いてみると300人なんて術者を5人くらい集めて詠唱をするもので

 1人でやるものではなかったらしい。


 突然の防御力強化により、刃を引いたとはいえ武器による攻撃をものともせずに

 押し込んでくる一般兵に対して、強化無しの一般兵と、

 魔法攻撃を禁じられた将校はあっというまに飲み込まれて我々の勝利が確定した。

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