第32話 私とイレーネの魔法障壁と

 あれから数日後、

 今度は一般兵を見学にしてABC班で模擬戦をする。


 将来上官になる者たちの本気を見せつけることと

 一般兵を入れると派手な魔法が使えないのでしょうがない。


「はじめ!」


 見物席から大声が響いた。


「カオルはペドロとルディに強化を、

 その後ペドロとルディは向こうのC班を抑えろ。」


「はい、ハードスキン、シャープエッジ、イリュージョンボディ、あと何要ります?」


 ハードスキンは物理攻撃に対する防御魔法

 シャープエッジは武器の攻撃力が上がる魔法

 イリュージョンボディは相手から自分を視認しづらくなる。

「属性の付与もできるか。」


「じゃあ、ペドロにファイアエッジ、ルディにはアイスエッジ。」

 属性の付与はハードスキンの効果を弱めてダメージが与えられるようになる。

 また相手に異なる属性の加護があれば加護を打ち消してダメージにつながる。


「よし、ではカオルは全力で二コラをつぶしに行け。」


 ニコラ・ロソンはB班のリーダーで

 サラサラの銀髪が目立つ真面目そうな男だった。


「では、援護攻撃後行きます。エロヒム悪魔エサイムよ我が声を聴け! 氷の矢ヒェロ・エクハ!」


 白く輝く氷の矢が100本近く上空に展開される。


「カオルには一度常識というものについて聞いてみたいものだな、魔法補助呪文を使うのは学生どころか魔術学者にもなかなかいないのではないかな」

 そういってフェルミンがにやりと笑った。


「これを部下として自由に使えるのはついてましたね、フェルミン様」

 トミーがフェルミンと頷き合った。

 これ。これとは。


「では一気に飛ばすので陰に隠れて突っ込んでいってください。

 たぶんイレーネの魔法障壁マァヒ・ヴァルは耐えきるでしょうからよろしく。」


 そういってすべての氷の矢を二コラに向けて発射すると、ペドロとルディは弾かれたように飛び出していった。



「なんて量だ!全力でやれと言っても限度があるだろう!」ロペスが悲鳴を上げた。


 イレーネはかばうようにすっと前に出て言った。

「あたしが対応します! みんなはあたしの後ろに。」イレーネはそういうと眼前を覆いつくす氷の矢の前に立ち魔法障壁マァヒ・ヴァルを展開した。


「バカが! あれを一人で防げるものか!」


 二コラの班と合同になってから二コラといつも一緒にいてC班を小物の集まりとバカにしてくるアグスティン・フィスが吐き捨てるように言った。

 確かに力のない没落貴族や多少裕福な商人ばかりの班だけれども。


 でも今のあたしはカオルのおかげで魔力は伸びた。

 もっと上までいくんだ!


 深呼吸をして受け止める覚悟を決めた。


 魔力量を増やして濃度を上げたおかげで

 キラキラときらめく魔法障壁マァヒ・ヴァルに氷の矢が突き刺さる。


 ガシャガシャと氷の矢の砕ける音と共に

 あたしの魔法障壁マァヒ・ヴァルがガリガリ削られていく。


 自分で進んで請け負った役目だが早々に後悔した。

 早く終わって! と夢中で魔法障壁マァヒ・ヴァルを維持していたイレーネだったが

 魔力切れを起こして気絶するのと氷の矢の最後の1本が砕けるのは同時だった。


「あと、よろし…く…」といって気絶したイレーネをどこからともなく医官候補生が担架で運んで行った。



 フェルミンは遠くで砕ける氷の矢を眺め

「あれを一人で防いだか、C班の女はあっちもこっちも魔力お化けだな。」


 しかしあっちはこれで終わりだがカオルは余裕がありそうだ。


 二人で向こうの三人を抑えればカオルが自由に動ける。


「トミー、アイラン、幻体ファンズ・エスをかけてからカオルと反対側を回って二コラを取ってこい」


「それではフェルミン様の護衛が」トミーがいうとフェルミンは鼻で笑っていった。


「取られる前に取って来い」


「はっ」そういってトミーとアイランが駆け出した。


 さて、取って来いと言われて駆け出したものの、向こうにはまだ二コラ以外に三人いたはず。


 3対1でどうしようか、と現地まで来てみるとイリュージョンボディが効いているおかげか真後ろまで来られてしまった。


「C班のもう一人の女がいないな」二コラとその仲間たちが話をしていた。


「さっきの氷の矢ヒェロ・エクハで力尽きてそこの女と同じく引っ込んでるのでしょう」


 イレーネは一人で氷の矢ヒェロ・エクハを防ぎ切ったのか、一緒に成長していることを実感するね。


『取って来い』についてさらってくればいいのか、戦闘不能にしたらいいのかを悩んでいる間に

 トミーとアイランがやってきたようだ。


「レニーの所のが来たようだ。アグスティンとリカルドは対応を、ダビはフェルミンを取ってきてくれ。


 戦闘不能にする前に多少痛めつけてきてもかまわんぞ。」そう言って厭らしく笑った。


 二コラ配下の三人が駆け出しトミーとアイランがダビを止められない様を確認してから

氷塊ヒェロマーサ」空中に50kgほどの氷の塊を浮かべ、無言で後頭部に向かって叩き下ろした。


 聞いたことがない鈍い音を立てて二コラを氷の下敷きにして勝どきを上げた。


「取ったどー!」


「そこまで!」ヴィク教官の声が響き渡った。


 フェルミンの元へ戻り教官からの総評を受けるために集合する。


「お前のイリュージョンボディは他よりかかりが強いな、よくやった」フェルミンが小声で言った。


 なんだか褒めてもらった。


 そのあとの教官からの総評はフェルミンの用兵がよかったという話と、

 イレーネと二人で魔力量が多くてよろしいという事で締めくくられた。



「あれってどうやって戦闘不能にしたの?」


 イレーネが気絶から覚めてしばらくしてから聞いてきた。


 魔法補助魔法を使用しての氷の矢ヒェロ・エクハを目隠しにして

 認識阻害をかけた状態で回り込んだ話を事細かに解説した。


「そっかぁ、防ぎきるところまで読まれてたかぁ」と

 イレーネは悔しそうな雰囲気を出していたが嬉しそうだった。


 その後練兵場は一般兵の訓練と後片付けがあるため、

 そのまま放置して寮に戻ることになり、

 帰り道でイレーネとロペスにそろそろどこかで時間を取って

 少し難しい仕事をして力試しがしたいと言われた。


「あたしはおこずかい稼ぎだけどね」とイレーネが追加した。


「稼げて戦える仕事があれば見てみようか」そう言ってはみたものの、

 日帰りで強くて稼げるというのは、まあ、ないだろうな、と思った。


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