第28話 魔道具を作ろう

「節々が痛い」とイレーネが体をさすりつつつぶやいた。


「床に直接寝るなんてするもんじゃないね」というと

 すごく恨みがましい目で見られたが気にしないことにした。



 今日から始まるのはAB班と組んだ時に側に仕えて色々するための

 魔道具作りらしい。


 やんごと無き身分の方々は指示するだけで自分で何かすることは珍しいので

 側にいる手下ががんばるんだそうな。



 よく作る必要があって基礎ともなるのが守りの魔法をかけたアクセサリーで

 魔石と術を封じ込めた紋様を描くことにより対応した攻撃から

 魔石に魔力がある限り主を守るというものだった。


 練習は安い鉄製の腕輪に魔力を通す千枚通しのような道具に

 力を込めて魔石を埋める穴、そこから魔力が流れる経路を掘り、

 粉にした魔石を練りこんだ墨を流し込むことによって完成する。


 紋様にも意味があり、属性を指定したり発動条件を指定したり、

 魔石から取り出した魔力を一時的にためておくものや、

 結果どう振舞うかを指定するものが大まかに存在する、ということだった。


 ルイス教官がちゃんとみてろよーと言いながら

 練習用の鉄のリングに千枚通しで線を引いていく。


 キリキリと音を立てながら糸状に削れ、

 溝になっていくのを感心してながめていると

「しばらくはこの基本の模様を作ってもらうからな、

 弱い魔法攻撃を打ち消すお守りアミュレットだ。」

 といって模様が描かれた紙を配った。


「コツはあまり魔力を込めすぎないことだ、込めすぎると貫通するからな

 あとは焦らないことだ。」そう言ってそれぞれバラバラに散って作成を開始した。


 イレーネが万力に挟んだ鉄のリングに

 両手で逆手に持った千枚通しでリングをえぐっていた。


 向かい合わせで座っていたのでえぐられた鉄の破片がピシピシと顔にあたる。


「あの、イレ、っぺ、それはそうやるんじゃないと思うんだ」

 口に入った破片を吐き出しながらイレーネに進言する。


「そんなことないわよ、ちゃんと掘れてるよ」というが

 見た感じ深さがバラバラでちゃんと掘れてるようには見えなかった。


「ピシピシ当たるからてこの原理を使って掘らないで」というと

 難しい顔をして考え込んだ。


「表面をなでるようにするとちょっとだけ削れるから

 根気よくなでていって、ね?」といって表面をこすってみて

 糸の様に削れた金属をイレーネに渡した。


 まるで小学生男子の版画を思わせるパワープレイを止めて

 ちょっとずつ掘ってもらうことに成功した。


 イレーネは綺麗な見た目と裏腹に雑な性格をしているのが残念な子だと思わせる。


 周りを見渡してみるとやっぱりみんな結構雑に掘っていることに気づくが

 いちいち忠告して回るのも面倒なので聞かれたら答えることにして

 意識の外にぺいっと投げ捨てる。


 印刷技術があるのかと思ってみてみると1枚1枚手書きで書かれている

 基本の模様が書いてある紙に従いそのまま書き写していく。


 クズ魔石から魔力を取り出す紋様と注釈を読みながら作業を進める。


 取り出した魔力を貯める紋様


 装着者に対して魔法が接触することを感知する紋様


 感知した魔力量と同じだけの魔力を魔力を貯めた紋様から取り出す紋様


 1発だけ防ぐ魔法障壁マァヒ・ヴァルにして行使する紋様


 使われなかった魔力をクズ魔石に戻す経路と紋様


 と説明を読み終わったところで、


 なるほどこれ基盤設計みたいなものか、と思った。


 この魔道具にスイッチを付けたら世界で最初の魔道計算機が作れるかもしれない。


 電子基板なんて新人の頃に2年くらい配属されてやってたくらいなもんだが、

 空いた時間で勉強がてら回路設計させてもらったな、と思い出された。


 無心で千枚通しを動かしいい感じに掘り進め大体3分の1ほど

 出来上がったところで時間切れとなった。


 エリーについてきてもらって図書館へ行き、

 魔道具作成に参考になりそうな本を借りて部屋へ戻る。


 属性や動きをつけるための紋様の種類だけでも覚えた。


 量が多くて一度に覚えられる量ではなかったので、

 書き写さなくてはならなそうだが。


 マッピング用のメモ帳もどうせ使うこともなさそうなので書き留めることにした。


 書籍内の注釈に西方には魔力を込めた印を指先で描き発動する印術と、

 紙に書かれた紋様に魔力を通すことによって発動する

 札術といわれる魔法があることが分かった。


 全部覚えたいところだが、そこまで脳のメモリが優秀ではないので

 地道に覚えていくしかない。


 3日もあれば掘りあがるかと思ったが、

 細かい箇所や修正に思ったより時間が取られ倍の6日間もかかってしまった。


 終わるのが早かったので他の人と合わせるために

 完成度を上げさせられただけなのだが。


 インクに魔石を砕いた粉を混ぜ、溝に流し込んでいく。


 熱風アレ・カエンテで乾かして魔石用に開けた穴にはめ込んで固定し、魔力を込める。


「カオル、つけてみろ」と言われるがまま作った腕輪をはめ

「こうですか?」と聞くと問答無用で炎の矢フェゴ・エクハを投げつけられた。


 腕輪の効果で炎が散らされた。

 無傷だったがあまりにもいきなり声も出せずに固まってしまったが

 気を取り直して抗議する。


「何するんですか!」


「テストだ、テスト。人がつけないと発動しないだろう?」


 そういって全員が恐る恐る炎の矢フェゴ・エクハを食らってみんな問題なく腕輪が効果を発揮した。


「基礎だしちゃんと掘れてるの確認してるからな、毎年やるんだ」といって

 ははは、と笑った。


 性格悪いことこの上ないな。


「これって熱風アレ・カエンテ辺りを出せるようにしたら魔法が使えない人に売れそうですよね」


 と言ってみると、売れないぞ、と言われた。


「練習用のこれですら気軽に買えるもんじゃないし、

 買える富豪は使える奴を雇って護衛にする」


 こずかい稼ぎにいいかと思ったがダメな様だ。


 いや、1回だけ防ぐ龍鱗コン・カーラの魔道具があれば暗殺におびえる富豪には売れるかもしれない。


 そんな富豪と会うことがあれば聞いてみたい。


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