第21話 はじめての冒険

 ダンジョン前に到着した。


 正確にはダンジョン入り口前受付に到着した。


 学校裏と言っても思ったより近くなく

 裏側から出てから1時間ほど歩いた所にあり、

 1年受付や2年受付と書いてある屋台が並んでいた。


 屋台の裏側に少し離れて地下鉄の入り口を小さくした様な

 ダンジョンの入り口が口を開けていた。


 1年受付の前に立ち、中の人に声をかけた。


「すみませーん、ダンジョン攻略するように課題がでたのですが」


 中にいた痩せぎすで釣り目のおばさんは読んでいた本から目を離さず

「班と名前は!」と返事をした。


「C班オオヌキカオルです。」と答えると木札を取り出し


「このマークと同じのが書いてある入り口に入りな」と言って

 手をしっしっと払った。


 木札を見ると三角形が2つ重なったマークが書いていた。


 付近をウロウロして同じマークを探し、

 入り口を確認すると受付の近くにある売店に向かった。


 あまりお金は無いが今後のために何があるか確認しておきたい。


 マッピング用のメモ帳は銅貨4枚、飲み薬ポーションは1級なら銅貨2枚、

 一番高級な5級なら銀貨1枚という所だった。


 マッピング用のメモ帳を買い、

 飲み薬ポーションをジャブジャブ買えるくらい

 稼げるようになりたいものだな、

 と思いながら商品を見ていると

「失礼、お嬢さん」といって脇にどけられた。


 お嬢さんじゃねーよ、と思いむっとして声の主を見上げると

 どうやら上級生らしい。


 とはいえ、買いもしないのにウロウロしてたんだから

 しょうがないか、と思い売店を離れることにした。


 今日入るダンジョンに戻ってくると

 イレーネがダンジョンの脇で所在なさげにしていた。


「売店見てきてたよ、待たせた?ごめんね?」と声をかけてイレーネの元に行く。


「さっき来たとこだよ、ロペスはまだ来てないよ」といって

 ロペスがいないことを確認するように周りを確認していた。


「ロペスはしょうがないなー、まあ、詳しい時間なんて時計もないから

 わかんないよね」


「時計は高いからねー」あるにはあるらしい。


 しばらく公共の時計について話しをしている間にロペスが来た。


「カオル!イレーネ!すまないね」と、ロペスが小走りで来た。


「死刑だな」と私がいうと


「それがいい」とイレーネが同調した。


「勘弁してくれよ、お詫びにこれあげるからさ」と言って

 イレーネと私に1級の飲み薬ポーションを1本ずつ配った。


「これ買いに行ってたの?」と聞くと寝坊したから

 お詫びに家のを持ってきたと言って笑っていた。


「じゃあ、そろそろ行きましょうか」と

 イレーネが私とロペスに確認するとダンジョンの入り口に向かった。


 ダンジョンの入り口脇には立て札があり、

 内部でみられる魔物の一覧が載っていた。


 このダンジョンでみられる魔物達

 ・洞窟の小鬼ゴブリン

 ・土くれの悪魔

 ・ローパー


 と書いてあった。

 初心者用ダンジョンだからきっと弱いんだろうが

 土くれの悪魔という名前はどうなのだろうかと思わなくもない。

 ローパーはやっぱりあれなのだろうか、触手と口がついているやつ。


 気を取り直してロペスを先頭、2番目イレーネ、最後に私の順番で階段をおりる。

 初心者用といえども中はライトアップされていることもなく、

 入り口の明かりが届かない所は真っ暗だった。


光よイ・ヘロ


 各々光源の魔法を唱え視界を確保する。


 ロペスは割とドスドスと勢いよく歩いていく、

 私とイレーネはコンパスの差かついていくのがやっとだった。


「ロペス!足が速いよ!」

「お、すまないね、ついつい気が急いてしまってね」と言って

 イレーネと並んで歩き始めた。


 光源の魔法は少し前を浮いた状態で一緒に動くので

 両手は自由になっているのだが、

 剣に手をかけることもなくぶらぶらしているけどいいのか判断がつかない。


「剣抜いてなくて奇襲とか気にしなくていいの?」と聞いてみるとロペスは

「小鬼や土くれ如き見てから抜いても大丈夫さ」と言ってニカっと笑った。


 地下1階は曲がりくねってはいるがほぼ1本道の様で

 音にさえ気を付けていれば問題はなさそうだった。


「ほら、見てみろ、土くれの悪魔というのはあーいうのだ。

 1人1体でいいか?」と剣を抜いて切っ先で指した。


 土が腰くらいの高さに盛り上がって腕が生えたような風貌のものが3体、

 こちらに向かってゆっくり進んでくる。


 悪魔というのは普通現世に現れるための体を持ってるものなのだが、

 体すら持てない弱い悪魔がなんとかそこいらの土を集めて

 体を持ったものが土くれの悪魔、ということで、

 小さな生き物捕食し、だんだんと成長すると

 そのうち体を持てるようになるかもしれない、ということだった。


「カオルは右、イレーネは真ん中、おれは左のをやろう」

 ロペスがターゲットの指定をしたので、

 うなづいて剣を構え身体強化をかける。


 ロペスは上段から無造作に剣を振り下ろした。


 振り下ろされた剣は体の半分くらいで止まり

 裂けた頭は元の形に戻って剣を取り込もうとした。


「ふむ、強化無しではこんなものか」と言って一度距離を取り、

 身体強化をかけて一気に距離を詰め、無造作に刺さった剣を引き抜くと

 そのまま真っ二つに切り裂いた。


 次にイレーネを観察してみると右後ろに私がいるのにも関わらず横に薙いだ。


 幸い届かない距離だったが

 もう少し前で一緒に戦おうと思ってたらと思うと心臓に悪い。


「イレーネ!横には振らないで!」


 というとロペスがイレーネの後ろにピッタリ張り付いて

 手首をつかんでレクチャーし始めた。


 ナチュラルにセクハラまがいのことができるとか羨ましい。


 と思いつつ、身体強化を行使し、全力で土くれの悪魔を両断した。


 力を入れすぎたのか地面に剣が食い込んでしまった。


 さて、と思ってイレーネとロペスを見ると

 真剣な表情のイレーネとにやけたロペスが

 土くれの悪魔を斜めに切り下ろして倒したところだった。


「これがここで一番楽な奴なのかな?」と聞いてみると

 ロペスが軽くうなづいてイレーネに剣の振り方のレクチャーに戻った。


 狭い洞窟内での戦い方の説明と剣の振り方を眺めながら

 勉強になるわーと思い休んでいると

 遠くからギッギッと鳴き声の様なものが聞こえた。


 話し声やらを聞いて様子を見に来たのかな、と休憩をやめ

 剣を抜き両手に持って中段で構える。


 剣道の見よう見まねの上に西洋の剣で問題ないのかとか諸々の問題はあるのだが、

 これしか知らないのでどうにもならない。


 十数年前に体育の時間で2、3度やっただけなのだ。


 これでどうにかなれば柔道ではなく剣道を選んでおいてよかったといえる。


 その様子に気づいたロペスがイレーネに声をかけ座り込んだ。


 援護くらいしてくれよ、と心細くなりながら洞窟の小鬼ゴブリンと相対する。


 洞窟の小鬼ゴブリンはイメージしていた通りの小柄で醜い姿だった。


 大振りのナイフをブラブラさせ


 ニヤニヤと、おそらくニヤニヤと笑いながら私の前にきた。


 後ろの2人の姿は目に入っているだろうが怪我をしているか何かで

 援護はないと踏んでいるのだろう。


 ただの高みの見物しているだけなのだが。


 無造作に振り上げたナイフで切りかかってくる。


 なるほど、これなら模擬戦闘の方が速いし重そうだ。


 身体強化を使った膂力りょりょくを使って剣の腹でナイフを弾き体勢を崩した。


 弾かれた程度で体勢を崩してしまうなら武器は重すぎるんじゃないかな、と

 感想を漏らして整える隙を与えない様大きく踏み込み

 心臓を狙って切っ先を突き入れた。


 洞窟の小鬼ゴブリンの胸に剣が飲みこまれ

 洞窟の小鬼ゴブリンが断末魔の声を上げて脱力していく。


 力が抜けた洞窟の小鬼ゴブリンが倒れずるり、と剣から抜けていくので引き抜く

 その瞬間後ろからカオル!だめだ!と聞こえたが

 すでに引き抜いてしまった後だった。


 生き物を殺すのは初めてなのだ。


 そんなことなんて思いつきもしなかった。


 まさか返り血というものがこんなに激しいとは思っても見なかった。


「カオル!目を開けてはだめだ!なるべく息も止めてそのまま!」と

 ロペスがいうのでその通りにする。


アグーラ


 頭から水をかけられ今度は濡れネズミになった。


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