第15話 反省会と大やけど

 ヴィク教官のスクワットの掛け声を十数回聞いたときロペスがのそり、と

 起き上がった。


「起きたな、ロペスよ」とスクワットを続けながらヴィク教官が声をかけた。


 ヴィク教官の前に集まり先の模擬戦について話を聞く。


 ロペスは私をちょっとにらんだ様に見えたがすぐに元に戻った、

 申し訳ない、と心の中で謝った。


「今の模擬戦の反省だが、まず相手が後の先を取ろうとしているのに

 ロペスは後先考えずにつっこみすぎだ。」


 そういってロペスを見るとロペスはうなづいた。


「1対1で女と侮ったな。」


 ロペスは表情には何も無いようにしていたが、拳をぎゅっと握って屈辱に耐えた。


 私はそんなことに気づかず中身はともかく

 外見は女子だもんなぁと思い暗い気持ちになった。


「そして、カオル」と男のままだったらもう少しうまくやれてたのだろうか、

 と考えていたところで名前を呼ばれ、ふぁい!と返事してしまった。


「お前のは1対1で肉弾戦のみでしか使えない。

 まったく役にたたないので忘れろ。」


 と中々に手厳しいことを言われた。


 ですよね、と思いながらうなづく。


「とはいえ、なぜかわからない者がいれば真似をするやつがいると困る。

 そこで正しい戦い方を見せたいと思う。カオル!前へ!」


 えぇ、絶対ろくなことにならないじゃん、うう・・・

 という思いをおくびにもださずにヴィク教官と対峙する。


「肉弾戦でやるなら細かく刻んで態勢をくずさんとな」


 とういって無造作に寄ってきて両手でジャブを放つ

 左手だけでは対処しきれず両手で捌くことになるが肉体強化の熟練度の違いか

 一発一発が重く押され始める。


「と、まあ、これが肉弾戦だ。」と言って攻撃をやめた。


「ちょっと回復させてやろう。至高神の癒し手イオス・キュレイド


 呪文を唱えると私だけでなくここにいる全員が光に包まれた。


「これはこの練兵場にある結界内で教官だけが使える魔法だ、

 放っておいても回復するんだが早く回復したいときに使う。」


「では次は対人戦の模擬戦だ、吾輩に一発でもあてたら合格とする。」


「対人戦ではまず牽制を行う。炎の矢フェゴ・エクハ!」

 そう叫ぶとヴィク教官の周りに8本の炎の矢が出現した。


「我々は1対1で対峙した場合に、

 市民や動物の様に肉弾戦だけで戦うことはあり得ない。」


「相手の実力を図るためや思った通りに動いてもらうために

 出しやすい魔法で牽制する。」


 そういって2本の炎の矢が飛び出した。


 1本は私を直接、もう1本は私の左を狙って放たれた。


 見える速度なので1歩右に移動し矢をやり過ごす。


 あとから考えると、だが放たれた2本の矢に集中し周りが見えなくなっていた。


 もう少し戦い慣れていたらもっと視野を広くもてていたかもしれない。


 後から遅れて前2本より速い速度で放たれた矢は左手の掌に直撃した。


 炎が吹き上がり手首から掌が焼けただれる。


「ああああ!熱い!痛い!」

 もう痛みで戦うどころではない、

 こんな手首から先がただれるような火傷は生まれて初めてだった。


 私は患部に触れることもできずわめくことしかできなかった。。


「まあ、こんなもんだろう。至高神の癒し手イオス・キュレイド

 爛れた皮膚が元通りになる。


「と、まあいくら強くてもこういう戦い方をすると

 こうなるという実践だったわけだが」

 サンプルで腕焼くとかやめてほしい。


「ある程度剣を振って魔法で戦えるようになれば訓練は真剣と魔法でやってもらう。

 癒しはかけるが痛覚が普段通りだとショック死する可能性もあるので

 痛覚遮断も行う。」


 ハードすぎる。と背中を冷汗がつたった。


「痛覚遮断は腕切断くらいなら我慢して戦えるものだから安心するといい、

 あ、さっきかけてみればよかったな、ちょっともう1回焼かれてくれないか?」


 とヴィク教官がウインクをしながら人差し指を立てた。


「痛くなくてもいやです!無理です!」


 全力拒否した。


「そうか、じゃあ、ほかに体験してみたいやついるか」と見回すが

 みんな目を逸らしたまま返答しなかった。


「たまに目を輝かせて立候補するやつがいるんだが、

 しかたないな、では今日はここまで」


 と信じられないことを言い、パン、と手を叩いた。


 なんだか精神的に疲れてしまい、

 みんな口数少なに昼食のために食堂へ移動していった。


 エリーと落ち合いイレーネと昼食を取っていると

 イレーネがおずおずと口を開いた。


「手、もう大丈夫なの?」

 と左手を見ながら質問した。


 カオルは手をわきわきと動かしながらイレーネに掌を見せた。


「大丈夫みたい」

「結界の回復魔法すごいね、でもデモンストレーションのために人に

 魔法当てるの勘弁してほしいわ」


「いくら痛みがなくてもあれを友達とやれっていうのは自信ないなぁ」


 友達じゃなくても他人を傷つける練習というのも

 異世界ならではなのか軍だからなのか。


「これがだめで退校する生徒も毎年何人もでるからね、しょうがないよ」


 へし折れそうな心でなんとか昼食を取って午後の授業が始まるのだった。


 後日こっそり聞かされたところによると、

 一人強いのがいると妬みの原因になるため一度教官のほうで叩いて

 強そうに見えるがお前らとそんなに変わらんのだぞ、

 というところを見せることによって

 自然と敵対心を薄めさせるように働きかけていってるそうな。


 それにしたって、泣くほど重度のやけどはやりすぎだと思う。

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