第14話 焦げるタオルと大魔道カラテ

「そういえばそうでしたね」


 エリーは燃え尽きたタオルの破片を集めながら言った。


 レンチンの時か。


「魔力が少なくても使える効率の良い魔法は魔力量の多い人が使うと

 高威力で発現してしまうのを忘れていました。」


 そういってもう1枚濡れタオルを持ってきて渡してきた。


「多少の魔力の扱いができるようになっているようなので

 弱く発現するようにして使ってみてください。」


 私はうなづくと濡れタオルを左腕にかけ


熱風アレ・カエンテ

 ゆらり、と濡れタオルが揺れ一瞬にして乾いた。


 と、同時に焦げ臭さが漂う。


「今のままでは髪の毛がチリチリになってしまいますね。」


 笑いをこらえた風にエリーは言った。


「・・・しばらくは風呂上りに呼んでもいいでしょうか。」


「はい、承りました。」


 意外と笑い上戸らしいエリーはニマニマと笑いながら快く受けてくれた。


「今日はありがとう、おやすみなさい」


 エリーを送り出し寝る準備をする。


 しかし、髪の毛をチリチリにしかけたりしてたら

 なんだか思ったよりおなかが空いてしまった。


 塩とオリーブオイルをかけたサラダと

 薄味のスープに塩を追加し硬いクラッカーを浸して食べると

 焦がしたタオルを再び水浸しにして熱風の魔法を練習する。


 両手でタオルの上端を持って薄く細く長く出るよう集中する。


熱風アレ・カエンテ


 両手の平から温風が出る、うまくいった、と気を抜いた瞬間ゴッと

 タオルの上半分が消失した。


 なるほど、すぐには無理だな、と納得し、床に就くことにした。


 講堂から練兵場に移動しイレーネとナイフを取りに行く算段をする。


 とは言え行けるのは早くても次の休みの日なんだが。


 そうしているとロペスが来た


「何の相談?おれにできることなら手伝うよ」そう言って前髪をかき上げる。


 ことあるごとにかき上げなくてはいけないのだろうか。


「実はハンター登録したんだけど、採取に行ったらナイフ忘れてきちゃって

 取りに行きたいって話だったのよ」とイレーネが答えた。


「武器を手放すなんて迂闊だね、何かあったのかい?」


「薬草だけ採取するつもりだったんだけど魔物化した猿が出ちゃって

 とどめ刺すのに使ったんだけど、刺したっきり逃げてきちゃって」


「なるほど、それじゃあ、そのナイフはもう使えないなぁ、

 魔物の毒の血にさらされたままだと腐食して朽ちてるか

 運が良ければ毒の武器になってるんじゃないかな、

 そうなったら結局手放さなきゃいけないだろうけどね。」


「どっちにしても手元には残らないのか・・・」とイレーネが少し落ち込んでいた。


「そもそもなんでとどめを刺したんだい?死にかけを見つけたとか?」


「普通に生きてるのに見つかってカオルが撃退してあたしがとどめを刺したのよ」

 といって私を指さした。


 ロペスは目を見開いて私をみたあと

「君は、武器は何を使ってたのかな?」


「武器なんかないよ、まさか戦うことになるとは思わなかったからさ」と答えた。


「すごかったのよ!まるで大魔道カラテを見ているようだったわ!

 恐怖で動けなくなったあたしをかばって猿を倒したの!」


 といって大魔道カラテの始祖となった光の使者のホワイトベルトの格闘家が

 闇の使者のブラックベルトを倒した物語の様だと私を褒めたたえていた。


 なんだその話。


 先に召喚された白帯が魔法を使って後から来た黒帯を倒したのか?


「私も必死だったしキックとパンチで気絶しちゃったから大したことないよ」


「2発で倒したのも本当なのかい?

 さすがにワモン様に見込まれて入学するだけのことはある」


「ではそんなカオルと模擬戦がしてみたいね」と言って

 ヴィク教官の所へ行き何か説明をしてきた。


 ヴィク教官はこちらをみると

「なるほど!それは素晴らしいな!カオル!出てこい!」

 しょうがない、がんばろう。


 ふぇい、と答えて前に出る。


 この間と同じように半身に構え後ろ足に体重を乗せる。


 体の軸がぶれないようにすり足で移動する。


 ロペスはファイティングポーズを取り軽い足取りで跳ねるように回り込んでくる。

「レディファーストとはいかない様だからこちらからいくよ」


 そういって飛び蹴りを放ってきた。


 身体強化しているから身長より高くも飛べるらしい。


 魔法ってすげえなぁ、と改めて思いながら左手で飛び蹴りの足首を弾き

 左手を中心に横に回り込んだ。


 飛び蹴りをいなされたロペスは私の横を通り過ぎこちらに背中を向けて着地し、

 後ろも見ずにバックナックルを、というか後ろ向きに拳を振り回した。


 ロペスの拳を左腕で上に弾き、

 がら空きになった脇腹にこの間の通りに拳を突き入れる。


 ロペスがくの字に曲がりぐぅとうめき声をあげて倒れこんだ。


「そこまで」ヴィク教官が模擬戦闘と止め、ロペスの様子を見る。


「気絶しているな、背中まで魔力を回さないからだ。」そう言って

 ペドロに端まで連れて行かせていた。


「どうせすぐ目を覚ます、それまで適当にその辺で打ち合いか素振りでもしてろ」


 そういって気絶するロペスの脇でスクワットを始めた。

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