第13話 魔物の毒と癒やしの奇跡

 カラカラとドアベルがなり、席に案内してもらう。


 店の中は夕食時には早いためか

 割と空いていたので大きめのテーブルの奥の席にしてもらった。


 カルボナーラとボロネーゼを大盛で頼みついでに水を注文した。

 飲める水はただじゃないらしい。

 しばらくするとピッチャーに入った水が届いた。

 二人でピッチャーが空になるまで水を飲みテーブルに体を投げ出した。

「死ぬかと思った」


「真っ白になっちゃって動けなくてごめん」

「あれがなかったら私が真っ白になっちゃってたから大丈夫」

 と答えるとイレーネが吹きだしていた。


「そういえば手が痛いんだった」と思い出し左手を見てみる。

 内出血で手の甲が赤黒くなっていた。

「大丈夫?」イレーネが私より痛そうな顔をしてゾワゾワに耐えていたのが面白かった。

「たぶん、帰ったらエリーに相談してみるよ」


 動かしてもそんなに痛くないからきっと骨は大丈夫、

 と思いながら指をワキワキと動かすと私の指とイレーネが連動して

 痛そうな顔をするのが楽しくなってきた。

 痛いのは痛いんだけれども。


「カオル趣味悪い」

「まあね」といってニヤリと笑った。

 しばらくしてパスタが来たので二人で黙々と食べて帰路についた。


 一緒に兵舎へ向かい、それぞれの部屋の前で別れた、

 イレーネは310号室だからたまには遊びに来てねと言って帰っていった。

 対して人数いるわけじゃないのに離れてるのはなぜだろうか。


 落ち着いてきたらやっぱりズキズキする。

 果たして休日にエリーを呼び出していいものなのだろうか。

 来なかったら明日にして来たら謝ろう、そう決めてベルを鳴らした。

 しばらくするといつも通りにエリーが来た。


「休日にすみません、今日ハンターギルドに登録したついでに採取に行ったら魔物化した猿とかいうものに襲われまして手を怪我をしたのですが治療はどうしたらいいでしょう」

 と手の甲を見せた。


「まあ、よく帰ってこれましたね、さすが召喚者という所でしょうか、今の時間なら神殿に神官もいるので癒やしの奇跡でもかけてもらいましょう」


「校医の回復魔術師でもいいのですが、女の子の手に跡が残るといけないので」と言って先を歩いて案内してくれた。

 兵舎から神殿への渡り廊下を通り2度目の神殿訪問をする。

 くねくねといろんなところを通りながら案内された場所は治療室とあった。

 ここに置いていかれたらもう帰れない。


「ワモン様のお客様が怪我をしたので治療していただきたいのですが」エリーが中の神官にそう告げた。


 告げられた神官は驚いた顔をして私の顔を確認した後こちらへと言って椅子を差し出した。


「怪我をしたのはどちらですか?」

 向かいに座った中年の神官へ左手を差し出した。

「怪我以外にも毒が少しあるようですね、どうされました?」


「毒?毒ですか!魔物化した猿と戦ったのです、こう引っ掻かれる時に左手でその手を弾いたのでその時に怪我をしたようです。」ジェスチャーで猿役と私の一人二役で演じて見せる。


「入学したての女生徒二人で撃退するとは今年は豊作ですね」と言いながら神官は祝詞を唱える。

 淡く光る光の玉出現させ患部に当てた。


 じわっと暖かい光の玉の中で細かい傷がふさがり内出血が消えていく

 治癒の奇跡ってすげーと思いながら呆けてみていると

 あっという間に終わってしまった。


「終わりました」

 と言って手をパンと合わせ擦り合わせた、ルーティーンか何かかな?


「ありがとうございました。おいくらですか?」

 と聞くと寄付で運営しているのでお気持ちでと言ってきた。

 お気持ち!とは言え今出せるものは銅貨45枚しかないのだ。


 色々考えたが銅貨5枚を寄付の投入箱に投下した。


 周りを見回してみると別の入り口の向こうに待合室があった。

 裏から来て優先してやってもらってしまったらしい。申し訳ない。


 治療室から出てエリーにお礼を言った。

「どういたしまして、お役に立てたら何よりです。」そう言って微笑んで部屋まで先導してくれた。


 なんか距離があるなぁとは思うものの帰る方法見つけたらさっさと帰るし仲良くなってもしょうがないと言えばしょうがないか、と思うことにした。


 エリーの案内のおかげで自室にたどり着き夕飯について聞かれた。


 食べてきたとはいえまだ夕方から夜になったばかりだとすると

 後からおなかがすくかもしれない。


 食欲があまりないので軽く食べられるものをお願いした。

 外出して汚れたからシャワーを浴びようとシャワー室に行く。


 魔力も扱えるようになったから自分でお湯も出せるようになっているはずだ。

 自分の体を見ないようにしてシャワーを浴びる。


 本当はちゃんと洗いたいが今のこの体が忌避すべきものな気がして、嫌なものを洗うような手つきで雑に最低限汗と汚れを流しシャワー室をでる。

 魔法が使えるようになれば髪も乾かせるようになるのだろうか。


 タオルが日本のものと違ってそんなに吸わないのだ、

 ドライヤーのないここでは自然乾燥に任せるしかないのだろうか。


 濡れた髪の毛が自然に乾くころ

 エリーがクラッカーとスープをサラダを持ってきた。


「ありがとうエリー、ところで質問なんだけど

 髪を乾かす道具とか魔法って無いのかな」


 エリーがテーブルに食事を並べて布をかぶせた。


「こちら後でおあがりください、髪を乾かす道具は貴族の中で少数ですがあるようです。

 道具がない場合は魔法で乾かすことになりますが、慣れないと水分が飛びすぎて大変なことになってしまいます。」


 そういってエリーは布を濡らしてくると熱風アレ・カエンテと言って布に手をかざした。


 手から風が出てタオルがひらひらとなびき乾いていっているようだ、ドライヤーの様な作動音がないのでよくわからない。

 半渇きのタオルを渡され早速使ってみる。


 左手でタオルを持ち、右手をかざし魔力を手に集めて唱える。

熱風アレ・カエンテ


 ゴッと音がしてタオルが黒焦げになりちぎれ飛んだ。

 エリーを見ると完全に引いていた。

 私は笑ってごまかす以外の手段を思いつかなかった

「あは、あはは・・・あはは・・・」

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