第12話 魔物と見様見真似格闘技
「あれは?」
猿のような動物から目を離さずにイレーネに聞いてみる。
「たぶん魔物化した猿ね、
警戒心が薄くなって狂暴になっているはずだから気を付けて」
ギッギッと鳴き声を上げながらこちらに近寄ってこようとしている。
「逃げた方がいいんだよね?」
猿から目を離さないようにして後ずさりしながら聞いてみる。
「もちろん、でももう無理ね、猿に走って勝てっこないもの」
そういってナイフを構えた。
そんなもの持ってきてるなんて!
私はなんの用意もせず丸腰で来た自らの無能を呪った。
しかもロングスカートとワンピースの二人組だ。
とはいえ身体強化がある分無いよりましか。
出せるだけの魔力を出して強化をする、
切羽詰まった状況の方が強化が全身に回っているようだ。
魔物化した猿がイレーネを標的にして飛びかかっていった。
イレーネはさすがに守らないと、
そう思い全身に魔力をみなぎらせて強化を!とつぶやく。
魔物化した猿が右腕を振り上げる。
イレーネはナイフを構えたまま恐怖のため硬直してしまっているようだ。
全力で地面を蹴り猿に接近する。
スカートがバサバサして邪魔くさいし、飛び蹴りをするとめくれてしまう。
そうするとスカートのせいで視界が遮られる。
だれだこんなもの作ったの。
前だけでも、とスカートを抑えて視界を確保しながら猿の脇腹に蹴りを入れてイレーネに対する攻撃を妨害することに成功した。
体勢が悪かったので思ったより浅かったかもしれない。
蹴り飛ばされた猿は背中から木に衝突し地面にどさりと落ちた。
「平気?」そういってイレーネの背中を叩いた。
ビクッと肩を震わせこっちを向いてうなづいたが表情に血の気がなかった。
恐怖に染まった瞳は立ち直るのに時間がかかるだろうということは容易に予想がついた。
猿をみると多少のダメージがあるらしくのっそりと起き上がってこっちを見た。
今度は私がターゲットらしい。
「イレーネ、木の陰に隠れて合図したら止めおねがいね」と、いってイレーネからゆっくり離れてうまく背後を取れる位置取りを探す。
ギラギラと赤く光る眼で私を見据えたまま
ゆっくりと回り込むように近づいてくる。
さっきの蹴りで警戒心を植え付けられたらしいが一撃で仕留められなかったのが悔やまれる。
次は当たるかどうか。
見よう見まねでファイティングポーズをとる。
左手を前に出し右手を引き体重を後ろに乗せた。
たしか左手は心臓より上に上げた方がいいんだったか。
拳は親指を握りこむと骨折する。
猿は木を蹴りながらとびかかってきた。
さっきと同じように右手を振り上げ爪でひっかくつもりか。
左手で猿の右手を外側に弾く、手の甲に衝撃が走り、
恐ろしく痛いが気にしていられない。
猿の腹ががら空きになる。
握りこんだ拳を思い切り突き出す。
突き出した拳は猿の胸に届きドンと鈍い音を響かせ猿を2mほど吹っ飛ばした。
動かないがまだ生きているようだ。
とどめを刺さなくてはいつ復活して追ってくるかわからない。
が、動かなくなったことに一瞬気が抜けたのか眩暈がしてきた。
とてもじゃないけど立っていられないがへたり込むわけにはいかない。
私は力を振り絞って叫んだ。
「イレーネ!とどめを!」
それが本当に最後の力だったらしく意識を失ってしまった。
どれくらいたったか名前を呼ばれて意識を取り戻した。
眩暈はまだ残ってるがだいぶましになったようだ。
「カオル!カオル!よかった。急に倒れちゃって!」
「ありがとう、ごめんね、猿はとどめ刺した?」と聞くとイレーネが指をさした。
指の先には胸にナイフが刺さったまま倒れている猿がいた。
眩暈を我慢しながら体を起こすと空を確認した。
明るさがあまり変わってないところをみると
倒れてた時間は30分も経っていない様だった。
「お手柄だね、また変なのが来るといけないから帰ろうか」
イレーネに手を借りて立ち上がった。
「カオルがいなかったらだめだったよ、ありがとう」
「私も必死だったからねー、なんとか二人で乗り切れてよかったよ」
薬草を忘れていないことを確認し帰ることにした。
「イレーネ、ナイフいいの?」と聞くと
「近寄るの怖いの」とイレーネが答えた。
「そっか」と苦笑いした。
今度だれかについてきてもらって回収したらいいだろう。
せっかくの服も砂埃にまみれてしまった。
眩暈は残るが命には代えられないので大急ぎで街道まで戻る。
疲れから何もしゃべる気にもなれず歩くのも辛く
行きの2倍近く時間をかけて街に戻った。
ハンターギルド入り口の総合案内の人に薬草の換金を、と告げて
換金の窓口に案内してもらう。
「今日さっそく行ってきたんですね、でも採取の割にボロボロですが何かありましたか?」
受付の人が薬草を数えながら有様について聞いてきた。
この人は目がいくつついてるんだろう。
「魔物化した猿に見つかって命からがらでした」とイレーネが答えた。
「採取だけだったから武器なくてどうしようかと思いましたね」と私が答えた。
「よく逃げてこれましたね」
「いえ、倒しました、ナイフもとどめ刺してそのまま置いてきちゃって」
「そうですか、がんばりましたね、銅貨100枚になりますが、
50枚ずつでいいですか?」
運がよかったではなくがんばったと言ってもらえて地味にうれしい。
もう二度とあんな目に会いたくはないが。
「はい、それでお願いします。」とそれぞれに10枚5セットの銅貨が詰まれる。
革袋に入れて腰につける。
みんな腰にぶらぶらさせているが盗まれないのだろうか。
イレーネとハンターギルドを出て帰路につく。
朝は元気に歩いてきたこの道を疲れ果てた今歩いて帰るのがつらい。
イレーネは平気なんだろうか、とイレーネを見ると心配そうにこっちを見ていた。
「ん?なんかついてる?」と聞いてみるとイレーネは
「歩くの辛そうだからどこかで休憩してから帰る?」と提案してくれた。
「魔力切れたし、疲れたし喉乾いたしお腹すいたしそうしよう」
と言って朝と同じ店に向かった。
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