第7話 回復魔法と理不尽
「大丈夫ですか?! じゃないか! 申し訳ない!」
慌てて叫んだ。
「このような威力になるとは思わなかったが大丈夫だ、すぐに治る。」
しばらくすると光の粉のようなものが集まってきて手がもとに戻った。
あまりにも現実感がないので治った手を見ていると
「まさか強化無しだと手が吹っ飛ぶとは思わなんだ」と言ってがははと笑った。
「肉体強化は百人力の力を手に入れ、神の目を持ち、風より早く走る力のことだ、1発だけ強い攻撃をだせるというのもいいが、長期戦には向かない。
どこをどう強化したいか思いながら魔力を込めて呪文を唱えよ」
治った手をにぎにぎさせながらヴィク教官が言った。
「百人力、百人力、百人力・・・」
右手に力が付くように祈りながら強化を、とつぶやいた。
今度は光らなかったが手の感覚が変わった。
ヴィク教官はふむ、とうなづくと刃を引いた剣を持ち、
「その木剣でわたしの剣を弾き飛ばして見せよ」と言った。
はい、と答え横薙ぎにできるよう真横に構えて1歩で届く間合いを図ると全力で踏み込んだ。
制御できていない力でヴィク教官の分厚い胸に全力で頭突きをしてヴィク教官と一緒に3メートルほど引っ絡まって転がってしまった。
「ああああああ、すみません! すみません!」
仰向けに倒れたヴィク教官はむせながら立ち上がり
「いや、今回は大丈夫だ、強化は申し分ないが制御ができてないな、お前は相手に合わせて強化具合を調整できるようにする訓練をすることだ、雑魚に全力で魔力を使う必要もないし、訓練で毎度人を飛ばさなくて済むからな」
そう言ってベンチに座り、全員集合、と言った。
あまりいうことを聞かずだらだらと集まってくる様をみて、全力疾走!
と一喝し、慌ててみんなが駆け寄ってきた。
「この時間は知ってのとおり肉体強化による戦闘訓練も行うが、肉体強化無しでの戦闘訓練も行う。
強化と言っても元が強いほうが強化されるし、肉体強化でごまかさずに正しく戦う術を覚えることができるからだ」
そしてニッと笑い
「この時間のほとんどは素振り、走り込み、慣れてきたら試合形式でということになる。」
「肉体強化は言われるまで禁止だ、では今日は練兵場の外周を10周したあと時間いっぱい素振りをすること。」
「やる気がなかったりしたやつは次回5周追加だ。よし、行け!」と言って手を叩いた。
みんなダラダラしているとは思われないような程度で走り始めた。
昔から運動は得意な方ではなかったがこの体は弱すぎる。
なにか病気なんだろうか。
もしそうならまずい、と思うが考えるのも億劫になってくる。
イレーネも走れてないが私よりましだ。
勝てるのはふとっちょのラウルと虚弱そうな眼鏡君くらいだった。
もしかしてビスチェの締め付けのせいで呼吸が浅いのかもしれない。
イレーネの後ろに張り付きペースメーカーになってもらう。
何も考えずただ黙々と足を動かすマシンとなり乗り切った。
イレーネが少し遅くなったから乗り切れてなかったかもしれない。
心の中でイレーネに深く感謝をした。
走り終わりヴィク教官の所へ行くとペドロやロペス達キラキラ軍団は木剣の素振りをしていた。
「正面の相手の頭を打ち据えるつもりで上から正面に剣を振り下ろすんだ」
手本を見せベンチにどっかりと座り込むとキラキラ軍団のフォームに指導を入れ始めた。
イレーネと並んで木剣を構え力いっぱい木剣を振った。
心の中でピタリと止まったはずの木剣は振り下ろした勢いのまま地面をしたたかに打ち据えて私の両手にダメージを与えた。
力がなさ過ぎて木剣に振り回されて途中で止められないというのは初めての経験だった。
イレーネも「んんんんっ」と声にならない叫び声をあげて何とか地面につけずに済んでいた。
すこし遅れてラウルと眼鏡君が戻ってきて素振りを始めた。
ラウルは少し振れていたが眼鏡君は私と大差ない感じだった。
それから数回振ったが虚弱軍団はヴィク教官の頭を抱えさせ、
ギリギリ振れる程度の強化をかけてもらいなんとか乗り切った。
鐘がなり今日はもう終わりなので大講堂に行けと言われ各々だるそうに移動し始めた。
ペドロが
「女は力がないから木剣より短いのかもっと軽い武器があればいいのな」とフォローらしきことを言っていた。
イレーネはほんとにねーと言っていたが私は好きでこの体でここに来たんじゃない!
と叫びたくなったがぐっと奥歯を噛んで我慢した。
様子が変だったのかイレーネが様子を気にしてくれた。
ちょっと疲れちゃってと答えてとぼとぼと歩き出した。
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