物理魔法少女ふぃじかるササミちゃん

今井三太郎

第一勁「物理魔法少女ふぃじかるササミちゃん来々!」

「きゃーッ、いっけなーい! 遅刻遅刻ゥーーーッッッ!!!」


 いまプロテインバーをくわえ時速45kmで公道を疾駆しっくしている彼女の名前は佐々木ささきあさみ。

 クラスのみんなからは『ササミちゃん』と呼ばれているよ。

 チャームポイントは肩幅だよ。


 そんなササミちゃんも今日から小学四年生。

 だというのに、ササミちゃんったら朝のトレーニングメニューをおかわりしちゃったせいで大事な始業式に遅れちゃいそうなんだ!


 うっかりさん!

 これは怠惰だよ。



 アスファルトを蹴割けわりながら風を切るササミちゃん。

 そして彼女の前方には鳴り響くチャイムの音とともに、今まさに閉ざされんとする校門が!



「いやーーーん! 待ってよォーーーうッ!」



 しかしササミちゃん、またもやうっかり。

 ササミちゃんと校門の間に横たわるのは地域最大の主要幹線道路、天下の国道1号線だよ。


 さすがは交通の要衝だね。

 まるで雨上がりの一級河川のように、車が濁流となってとどまるところを知らないよ。

 とてもなみの小学生が渡れるものではないよ。



 けれどそこはササミちゃん。



ッッッッッ!!!!!」



 鍛えしあげ抜いた豪脚ごうきゃくで大地に圧をかけると、2メートルちょっとの体躯たいくが宙へと舞い上がったよ!

 片道三車線車(幅員22メートル)の国道だって、ササミちゃんの跳躍力からしてみれば障害物にもなりゃしないね。

 東海道も所詮しょせん塵芥ちりあくただよ。



 ところがどっこい、今日は始業式!

 同じく駆け込んできた男の子がササミちゃんの放物線上に割り込んできちゃった!



「あっ! あっぶなァーーーい! 避けてェーーーーーッ!!」

「ん? なんだ……ンゴッハョ!?」


 ガギョルッ! ズルサササササササアアアアア!!!!!



 その衝撃たるやまるで列車の衝突事故だね!

 さしものササミちゃんとて空中では慣性の呪縛から逃れられないんだよ。


 ササミちゃんの仕上がり切った肉体の全力ボディプレスを側面から受けた男の子は、全身の関節をあらぬ方向にじ曲げながら校庭に深いわだちを描いたよ。



「はわわ! ごめんなさいですぅ!」

「こらァーッ! 佐々木あさみ、またお前かーーーッ!」

「ひぇぇん! わざとじゃないんですぅー!」



 始業式早々級友おともだち捻殺ねんさつするなんて、とんだお転婆てんばだねササミちゃん。

 案の定、生活指導の先生から雷を落とされちゃったね。



「ご……っ……ごぷっ…………ごぽぉ……」



 そのとき、ササミちゃんに弾き飛ばされびくんびくんと痙攣けいれんする男の子の口から何かが出てきたよ。

 血泡けっほうに混じって黒いモヤモヤが出てきたかと思うと、あっというまに人間の形なっちゃった!



「ぐふぉっ……よもや我が憑依ひょういを見破るとは……! 人間どもをあなどっておったわ……!」



 人の形をした真っ黒な影は、アバラを押さえながらよろよろと立ち上がったよ。


 その頭にはなんと、とがった角がにょきっと2本生えているよ。

 あからさまに現世うつつよの者ではないね!


 こいつの名前はデスエビル。

 人の心の弱みにつけ入り、肉体を乗っ取っていろんな悪さをする闇の住人だよ。



「くっ、はやく新たなしろを見つけなければ……! ええいこのさい誰でもいい! そこの毛深い教師、貴様だァーーーッ!!」

「ひぇーーーッ! お助けーーーーーッ!」



 デスエビルは生活指導の先生に狙いを定めると一目散いちもくさんに走り出したよ。


 これは大変だ!

 先生の肉体に憑依するつもりなんだ!



 だけど今日は日が悪かったね。



「そうはさせないわ! ッ!!!!!」

「なにッ!? オッギュルルルルワ!!!!!!!」



 ――豪肘ごうちゅう一閃いっせん――。


 デスエビルの真っ黒な体はうずを巻くようにねじじり込まれた物理エネルギーによって、微塵みじん粉砕ふんさいされたよ。



 そう、なにを隠そうササミちゃんの正体は……。


 世の闇に巣食うデスエビルたちから人々を救う“魔法少女”なんだ!



「やだいっけない! 私ったらつい本気でけいっちゃった!」



 魔法少女のけいには邪悪な者をはらう力があるんだよ。


 さすがササミちゃんだね。

 今回のデスエビルは一片いっぺんの原型も留めていないよ。


 偶然とはいえこれはお手柄だよササミちゃん。

 なにはともあれ、これにて一件落着だね。鎮魔ちんま鎮魔ちんま



「くぅーーー、助けられてしまった! ありがとうササミちゃん!」

「どういたしまして、先生!」

「けど遅刻は遅刻だぞ。減点いち!」

「えーッ!? そんなァーーーッ!」



 うーん残念!

 魔法少女としての活躍は校規とは無関係なんだ。


 ササミちゃんの新学期はまだはじまったばかりだよ。

 まったく先が思いやられるね!



 みんなは時間に余裕をもって登校しようね!




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