部下と部下

 太宰さんが幹部と成った日。私は捨てられた。

 その代わりに、野良犬のような子を連れてきた。目付きの鋭い、血色の悪い子。

「太宰さん……」

「先ずは身支度を整えてやってくれ 」

 風呂場へ連れていき、シャワーを浴びせる。可哀想なぐらい痩せている。

「名前は?」

「僕は……芥川」

「芥川くんね。私は尾崎卯羅、太宰さんの……」

 私は太宰さんの何に成ったのだろう。直轄の部下はこの子。じゃあ私は?

「卯羅?服置いておくから」

「……はい」

 芥川くんを着替えさせ、太宰さんの元へ。

「では、芥川くん、改めて。君は私の直轄の部下、つまり一番の部下になる」

“一番の部下”は私だった。昨日までは。

「君の異能は、この組織で大いに役立ち、君もその力を認められるだろう」

 目の前の子に、淡々と言葉を掛ける。 演説が終わり、仮眠室へ行くように指示する。

「今日ぐらい佳いだろ?」

 何時もの様に、誘ってくる。拒絶するように、彼の胸を押し返した。

「その前に答えて。私は、貴方の何?」

「そんな事が重要?」

 笑いながら答えた。さも不思議な様に。

「云わなくては駄目?」

「ちゃんと、貴方の口から聞かせて」

「なら、云うよ。伝えるよ。君は私の付き人、秘書」

 あと一つ云おうとした。でも発語の途中で、辞めた。そして、別の言葉を選んでいる。

「君は、君には、私の後ろで控えて居て欲しい。振り返れば居て……いいや、何でもない」

 それって……それってもしかして……

「だから、君は私の秘書」

「秘書……」

「前線になんて、出したくない」

「え?」

 忘れて、と額に口付けられた。

 私達の関係が、少しずつ変化しようとしていた。

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