9.昇格

 抗争の後、其の功績を認められ、太宰さんは幹部の末席に名を連ねた。

 幹部に成ると、直轄の部下を一人、雇い入れて佳いことに成ってる。其のお話は別の時に。その子を巡って私と太宰さんで一悶着有ったことも確かだし、私達の関係が少し変化した事も事実。

 世話人、秘書、恋人、愛人、性玩具……何れが正しいのかは解らない。けれど、変わらず太宰治の隣に私は座した。

「つまぁんない!」

「太宰さん書類撒かないで!」

「だって……つまぁんない!!」

「嗚呼!もう……!」

 幹部様の気紛れ。取引の書類、報告書、企業の資料、何でもかんでも投げ捨てた。木の葉が舞うようにヒラヒラ、ひらひら。いっそ綺麗。

「こんなの退屈だよ」

「退屈って云ったって……じゃあ、何なら退屈じゃない?」

「そうだなあ……」

 顎に手をやり、真剣に考え始めた。

「不発弾の処理とか、愛人と正妻に挟まれて狼狽える人の仲介とか、手癖の悪い小悪党懲らしめるとか」

「不発弾は太宰さんが触ったら起爆しそうだし、絶対やらせてもらえない。不倫の仲裁なんて下手したら延焼するでしょ?貴方にも火の粉掛かりそう」

「素敵じゃない?」

「何が」

「私の所為で延焼する人間関係」

 態と誤解させるような言い回しをして、女の争いが過激化するのを楽しむんだ……。

 漸く書類をきっちり元の順序に並べ終えて、執務机の上に置く。すぐに手が伸びてきた。

「ばら撒かない」

 思わず書類を手で押さえた。

「もうしないから」

 少し口を尖らせて寄越せと書類を引っ張る。またばら撒かれたとしても後で片そう……。そう思って自分の端末の前に座した。

「嗚呼、そうだ首領に頼まれてた事があった……」

 首領の右腕として、新設の部門を作ったり、新たな企業を取り込んだりと多岐に渡る。

「ねえ、地下室行こうよ。こいつ、まだ小突き回してないでしょ?」

 さっきの山から取った紙を、摘まんで、振る。それとほぼ同時に、携帯端末が音を立てた。

「ちょっと待って……はい、尾崎です。母様、どうしたの?……嗚呼、あの、丁度太宰さんが様子みたいって。うん、はい、了解しました」

 電話を切ると上司が「それ云ったではないか」という顔をしていた。

「母様から。その捕虜の口を割らせろって」

「了解した」

 口許が、詰まらなそうに、邪を含んで歪んだ。

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