7.蛇尾
抗争が起きる理由に大小もない。今回のもそんな感じ。たった一人の異能力者が死んだことで、勃発した抗争。私たちの上司は戦場へ駆り出され、何日も戻らない日もあった。日夜を問わず銃声が響き、本部の玄関間には死体袋が並んだ。同時に設置させた簡易の救護室。其処の取り仕切りを任された。日を追う毎に患者の数は増えて、重症度も上がる。私達の部下も、死亡者リストに並んだ。
「よく触れるね……」
頭部を損傷した遺体を片付ける私の隣で同僚が呟く。
「使えないのは片さないと」
森先生からの命令。当たり処が悪ければ、死なずに生き残る。けれど、その分身体には不具合が残る。勿論、心にも。不具合はマフィアにとっては命取り。まだ使えそうな構成員、そうでない構成員の仕分けもしていた。
「おい尾崎、太宰は何処だ」
「太宰さん?部屋じゃないかなあ。多分お昼寝」
中也さんが、あの野郎、と言い捨てながら太宰さんを探しに行った。私も此の仕事をしながらだから、中々会えない。そう思うと、途端に会いたくなる。
でも、仕事は仕事。次々と運ばれ、同じように呻く構成員と向き合った。
「卯羅」
記念すべき百人目を自分の手で処理した時。後ろからの声と殺気に、振り向きながら異能を使った。
「太宰さん……」
「君に私の部下としての仕事を久し振りに命じるよ」
私の異能を片手で消しながら、少し怒った様子で命じた。
「珍しい。そんなに怒って」
「『大佐』が殺された」
現幹部の死。太宰さんや中也さん、幹部候補には美味しい話だ。其れ以前に、だ。
「其処で君にも手伝って欲しい」
「解った。相手は?」
「『白麒麟』だよ」
此の抗争の裏で暗躍する謎の異能力者。其れと対峙する事になる。即ち、私も死ぬ可能性が九割方保障された様なものだ。
太宰治が此の抗争に本格参入する。
死ぬことよりも、其の事実の方が怖かった。部下に此の場を任せ、太宰治の秘書の仕事に戻った。
抗争が始まってから七十二日目。帳簿の日数を初めて気にした。後何日続くのだろう。気付いたら百日を超えてしまうのかしら。
マフィアの異能力者による包囲網を敷いた広場。白麒麟と太宰治が対峙する。少し後ろに居る私からは、上司の顔を伺い知れない。
「石油採掘場の火災を鎮火させる方法を知っているかい?」
白麒麟が愉しそうに口を歪めた。爆発音。
「手始めに全ての組織の拠点を爆破する事にした」
マフィアの拠点楼閣の一つが此方へ倒れて来ている。其れと同時に無数の刺すような光が降り注いだ。
「異能攻撃……!一体誰が!」
太宰さんが叫んだ。
「君の誤算は二つだ」
白麒麟──澁澤龍彦が誤算を指摘し終えたとき、指摘を受けた張本人は私を突き飛ばした。自分の身体が後ろへ吹っ飛ぶのと同時に、雷鳴と、建物が地へぶつかる音がした。
私の目の前には、太宰治ではなく、大量の瓦礫が彼の身長を越えて鎮座していた。
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