6-25 社交
出番の無かった悲しげな相棒を
「おつかれさん」
「ハ、ハイッ、
「ははは……」
ビクッと肩を
「ま、気を付けて帰れよー?」
「「ぇ!?」」
せめてとこちらは気さくに返したところ、二人は驚き顔で見合ってから後ろを向き、肩を寄せて内緒話を始めた。
「(……ねねね、みーちゃん。さっきもそうだけど、今日の宇宙先輩、なんだかすっごく、優しくない? どうしちゃったんだろ?)」
「(わわっ、そんなこと言っちゃ失礼だよぉ。きっと中身は優しい人なんだよぉ)」
オイちっちゃい方の子、そりゃ見た目が怖いって言ってるのと一緒だぞ? 君も大概失礼だからね?
「――こほん」
「「ぴゃっ!?」」
少し脅かしてみれば、二人は小動物のような声を上げ、
「えーと……」
それで尋ねてみようとしたが、どちらの名前も出てこない。そう言えばこの二人組は、少し前にヤスから名前を聞いた気がするが、何と言っていたか……みーちゃん……うーん、やっぱ思い出せない。ま、別に名前じゃなくても聞けるか。そう思ったところで……
「(徳森&大三郎)」
いつの間にか潜んでいた
「あー、徳森と大三郎…………君?」
こうして最後が疑問形になるのも無理はない話で……童顔で百四十センチ程しかない背丈、肩下まで届く髪に女性用弓道衣、おまけに仕草や話し方まで女子風とくれば、どこからどう見ても男子には思えないのだ。ヤスに騙されているか、もしくはヤスも騙されているのではと、不安になってくる。
「わぁっ、まさか先輩が覚えて……びっくりだねっ、みーちゃん?」
「だよねぇ――ってぇ、あゎゎ、し、失礼しましたぁ!」
「ははっ、気にすんな」
現に忘れていた訳で、こちらこそすまない。
「んで、近所?」
「「?」」
家が近いので着替えるのが二度手間だからかと思い、服とカバンを指差しながら尋ねたが、不思議そうな顔をされた。……おっとぉ、一色と会話し過ぎたせいで、これで伝わると思ってしまった。ま、一色なら聞く前に察して答えそうだけど、ハハハ。
「いや、弓道衣のまま帰るんだなぁと」
「「ああー!」」
二人はポンと手を打つと、次いで大三郎の方が気まずそうな顔で説明してくれた。
「そのぉ、ボク着替える場所がなくてぇ……」
「え、普通に男子更衣室で――あー、うん、ダメだな」
「そーなのですよっ! みーちゃんは女の子なのですからっ!」
もしこんな子が隣で脱ぎ始めたら、事情を知っていてもギョッとなるし、知らない人なら大慌てで追い出そうとするだろう。それに徳森の言葉からすると、女装趣味などではなく心も完全に女の子らしいので、そもそも本人が耐えられない話だった。
「とは言え、女子更衣室でって訳にもいかんしなぁ」
これ関連の話は、最近よくニュースで耳にするが、なかなかに難しい問題だと思う。
「んー、みーちゃんなら、みんなオッケーって言いそうだけどねぇ?」
「ダメだよぉ、もりちー。もしそうでも、他の一般女性が来たらどうするの?」
「――いやいや、ぶっちゃけ絶対バレないっしょ」
「わっ、部長! お疲れ様でぇ~すっ♪」「あ、お疲れ様ですぅ♪」
「おつおつ~」
そこでヤスが俺の背から顔を出すと、ツッコミを入れつつ二人と仲良く挨拶。
「んでさ、こんな可愛い子を見て、男かも? とか絶対ならんから平気だってば」
「か、可愛いだなんてぇ、えへへぇぇ──って、それでもダーメですよぉ! その女性が後で事実を知って傷ついちゃったら、どうするんですかぁ? そんなのボクもすごく悲しいですよ……」
「あっ、そっかぁ」
なるほど……こうして女性目線な考えがごく自然に出てくるとなると、やっぱり心は完璧に女の子なんだなぁ。
「そもそもですねぇ、先輩? バレなきゃいいって考え自体が良くないですぅっ!」
「スンマセンッシタ」
後輩女子――ではなくて後輩男子にド正論で叱られる部長の図……割とよく見る。
そうして何ともややこしい話ではあったが、二人ともが着替えずに帰ろうとしている理由は分かった。
「……ふーん、徳森は友達想いなんだな」
「ええと…………あっ、はいっ! みーちゃんだけだと目立っちゃうのでぇ、ウチも着替えずに帰ってるのですっ」
「いつもありがとねぇ、もりちー」
「いいってことよぉ、わが友よぉ。なんちて?」
「んやぁ~、徳森ちゃんいい子だねぃ」
「えへぇ、もっと褒めて褒めてぇ、ぶっちょ~♪」
「うんうん~。えらいねぇ~、徳森ちゃんわぁ~」
キャルンと馴れ馴れしくすり寄る徳森に、ビョルンと顔が伸び切るヤス。そのままバチュンと千切れてしまえば良いものを。
それから二人が仲良く帰って行くのを微笑ましく見守り、こちらも更衣室へと歩き出したところで、隣のヤスがボソリと呟く。
「ん~~、こいつぁ感慨深いなぁ」
「何がだ」
「いや、大地が後輩女子とフツーに会話できてんのがさ。ほら、二人だってビックリしてたじゃん?」
「まぁ、そうだな――ってオメェ、それを確認するために潜んでやがったのかよ」
「おお、さっすが鋭い! ……で、こりゃぁ、また夕ちゃんにガチでお礼言っとかないだぞ?」
「んなもん、もちろん分かってるっての」
こうしてまた伝える事が増えて、夕と再び会えることをより一層願うのだった。
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