6-24 計画

 こうして一色と握手を交わしてご挨拶もしたということで、確かに友達同士になったのだなと実感が伴ってきた。これまでには色々とあったけど、新たな関係の始まりを素直に喜びたいものだ。

 感慨深くそう思いつつ一色を見れば、まだ少々照れが残っているのか、ややうつむき加減になって常時よりソワソワしているようにも見える。……うん、その気持は分かるぞ。

 ただ、こうして弓道もせずにぼーっとしていても仕方ないので、本題に戻る――前にさっき少し気になったことを聞いておくとしよう。


「なあ」

「――わっ! ……なんだい?」


 急に話しかけたからか、少し驚かせてしまったようだ。なんかすまん。


「えっとな、こんな時期に手袋、それに他にも豪勢な装備を着けてるなぁと思って?」

「ああ、これのことかい」


 一色はそう言って、腰の両サイドに装着した工具が詰まったポーチをポポンと軽快にたたく。


「これはだね、以前にさっちゃんと共同製作した特別品なのさ」


 さっちゃんと言うと、関西弁で裁縫名人の子だな。感動したひなたがいきなり弟子入りしてたっけか。


「で、どうだい?」


 一色は上半身をひねって、少し得意げな顔をしてポーチを見せつけてきた。

 ええと、これは装いの感想を聞かれてる……で合ってるよな?

 ということでじっくりと観察してみると、ズラリと並んだ工具類が熟練エンジニアといった趣であり、格好良いというのが正直な感想だ。また、パステルピンク&グリーンの色合いに加えて、うさぎのバッジなど可愛らしいものがいくつも付けられていたりもするので、女の子らしさも兼ね備えている不思議な格好とも言える。


「んー……俺はファッションとかはあんま分からんけど、似合ってると思うぞ」

「え!? あ、ありがと…………――いやいやまさか、キミが素直に褒めてくれるとは思わなかったよ、くっくっく」

「さいですか……」


 一色は一瞬だけしおらしさを見せたかと思いきや、すぐに通常運転に戻った。お前は褒められるの下手クソかよ。


「あーそれで、そんな格好してるのは何か作りに? そういや確か、工作名人だったよな」

「ん、そうだね。わたしはモノ部――ものづくり部にも入っていて、今日は一仕事しにきたのさ」


 なるほどな。それで通学途中に俺達を偶然見かけて、道場まで尾行してきたってわけか。


「ちなみに?」

「明日使う小物を少しね。それで集合時間は十一時半、自転車で正門前によろしく」

「いやマテマテ」


 唐突に本題に戻されて一瞬置いてかれたが、言ってることがおかしいのは分かるぞ。


「何をするのかも聞いてないし、そもそもまだ行くとも言ってないんだが?」


 さも当たり前のように話を進めるのはやめて欲しいぞ。コンセンサス取りましょうね?


「まさかキミぃ、この流れで一緒に遊んでくれないとか、言うのかい? ……寂しいな……お友達……なのに? チラッ」

「くっ……そりゃズルくないか?」

「フフン」


 一色はしてやったりと言った顔で、ニヤニヤしている。

 うーん、悪意は微塵みじんもないんだけど……やんわりと策にめてくるというか、いろいろ上手く使ってくるよなぁ。こういうとこはやっぱ一色だわ。


「はぁ、お前には一生勝てる気せんわ」

「へえ、一生付き合ってくれるのかい?」

「んなこと言ってねぇよ!」

「あはは――っとぉそれでぇ~、明日は~みんなでキャンプ場でばーべきゅぅ~、だよだよぉっ?」

「…………なんで?」


 脈略が無さすぎて、思わず疑問が口から出た。だってほら、一色のことだしバーベキューにも何か深い意味があると思うじゃんか?


「意味なんてぇ~楽しいからぁ! それだけぇ~だよぉ~?」


 うーむ……この様子じゃ、本当に一緒に遊んで楽しみたいだけ、なのか?


「もちろんわたしにとっては、ひ~ちゃんが主目的ではあるよ。でも同時に、特に楽しませたい人らが居るのさ」

「というと?」

「まず沙也さやちゃんかな。普段は引きこもり体質だから、こういうアウトドア系の遊びに誘いたいと思っていたのだよ。あと、キミもこういうイベントに参加しない口なのだろう?」


 一色はそう言って、最後に俺をピンっと指差してくる。


「そうだな――っておいまさか……その四人で、なのか?」


 そのメンツでバーベキューとか……いろいろとキツない? 主に俺の心労が。


「ん~? キミが女の子に囲まれたいところ残念なのだけれど――」

「おい、まだそれ引っ張るのか!?」


 こいつのことだし、もちろん皮肉百%だ。皮も肉もBBQまでとっといて欲しいもんだね。


「ごめんごめん、もちろん冗談さ。それで、力仕事用の男手という意味でも、ヤス君とマメ君を誘ってすでに了承もらってるよ」

「え……ヤスが?」


 俺と同様に一色の恐ろしさを知ってるヤスが、そう簡単に誘いに乗るか? 何か弱みでも握られたか……いや、それなら俺に相談するだろう。そもそも一色はヤスに警戒されてることを当然知ってるから、直接誘わずに絡め手を使うはず。例えば、一色が主催であることをヤスに知らせないとか……あぁそうか。


「……マメを使って謀ったな?」

「キミぃ、人聞きの悪いことを言うものではないよ? ヤス君に伝えるように、マメ君に頼んだだけさ」


 そうして一色は立板に水とばかりにスイスイしゃべりながら、目もスイスイ泳いでいる。なるほど、天は二色を与えずということか。マジでグッジョブゴッドだな!


「お前が参加するとは言わずにだろ? ついでに高級肉あたりで釣ったか?」

「へえ……やっぱりキミ、色恋以外はなかなか。くっくっく……ああぁ、楽しいねぇぇ?」


 ヤッベ……偶然イイパンチが入って、うっかり加虐かぎゃくスイッチ押しちまったか!?


「だーもう、いちいち興奮すんじゃねぇ! お前とやりあう気はないって言ってるだろうが!」


 あやしくギラギラした目を向けてくる一色に、俺は両手を振りながら戦意がないことを必死に主張する。


「アハハ、そんなこと言わずにさぁ! もっとオハナシしようよぉ、ネ!?」


 ええい、こんっの知的戦闘狂インテリヤクザめ!

 さらにズイズイと詰め寄ってくるので、


「落ち着けや!」


 メンダコのような両触角をチョイと摘んで止める。


「あいたっ」


 え、待って、神経通ってんの? まあ、少し引っ張られて痛かっただけだろうけど。


「――こほん、失礼。キミと遊ぶとついつい楽しくなってしまってね?」

「さいですか……」


 キミ、だよな。そんなんいくら楽しくても自重して欲しいわ。


「それで……よろしく頼めるかい? 皆で楽しく遊ぶためにさ」


 これは、一色に敵意は無いことをヤスに伝えた後に、一色が来ることを伝えておいてくれという意味だな。なんでそこまでせにゃならんという思いはあるが、現地でヤスがパニックになったら余計面倒だし……それしかないのか。


「はいはい、了解了解。頼めるかと聞きながら、逃げ場用意してねぇくせによ」


 さらに、俺ならヤスを簡単に説得できるから、俺と和解するだけで済むという一石二鳥計画だったわけね。はは、馬より先に将を落とすってか? つくづくとんでもねぇ子だなぁ。


「あはは~、おこっちゃぁ~、や~よぉ~?」

「はああぁ……」


 でも相変わらず白一色しろいっしきの雰囲気だから、純粋にヤス達とも遊びたいだけなんだろうな。目的が完全に良い子ちゃんなのに、何で手段がそんなにひねくれてんだよオマエは……。

 それによくよく考えると、これは俺と和解する前の計画なわけだ。つまり、今朝の件で緊急敵対モードになっただけで、一色は元々俺と和解するつもりだったということか? 何だよそれ……もっと分かり易くできんもんですかね!?


「お前ってさ、ほんっと素直じゃねぇな」

「む! それはお互い様だろう? ね、『似たもの同士』クン?」

「……はは、そういやそうだったな」


 今日は度々出てきた言葉だったが、こうして一色のことを良く知った今では、より深い意味で納得してしまうのだった。

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