7-51 親玉

 無事に最終問題を解き終えた俺たちは、ゴールとなるBBQ会場付近まで、ウイニングランとばかりに足取り軽く戻ってきた。辺りを見渡せば、BBQ料理を囲んで談笑する家族連れ、隠し芸を披露して盛り上がる中年男性達、缶ビール片手にふらふら歩く酔っ払いなど、それぞれが多種多様の楽しみ方をしており、まさに『香り立つ宴の地』の様相となっている。

 少し歩いて自分達のテントへと到着したところで、早速とミッションの『隠されしアイ』とやらを探そうかと思いきや……テーブルの上のいかにも怪しげな風呂敷包みが目に入った。


「……これ、だよな?」

「でしょう、ね」


 その怪しさに、どうしたものかと皆で顔を見合わせていると……


「――よっとぉ!」


 ヤスが何の躊躇ちゅうちょもなく包みを解いた。


「うおすっげぇ! 宝箱じゃん!」


 そうして風呂敷の中から出てきたのは、ザ・宝箱な意匠の二十㎝ほどの箱であり、恐らく『隠されしアイ』はここに入っているのだろう。

 それにしても、なーこはいつの間にここへ……ああそうか、丘に向かう途中で後ろから追いかけてきたのは、これを設置するために一旦戻っていたからだったのか。雰囲気を出すためにそこまでするとは、本当に凝り性な幹事だ。


「これ、開けていいんか?」

「いいよぉ~? ……開けられるならぁ~ね?」

「──おい大地、これ鍵がかかってるぞ!」

「お、おう、そうか」


 俺が確認している間にも、ヤスはワクワク顔で宝箱をガチャガチャさせており、元気にそう報告してきた。この警戒心の無さにはある意味感心するが、これがダンジョンRPGならヤスはトラップで死んでいる。


「……なるほどな。『開封の時を待つ』だし、封印──鍵がかかってるって訳だ。んで、謎を解いてこれを開ければゴールと?」

「だよぉ〜!」

「だぁー、謎解きまだあったのかっ!」「うむ、これが正真正銘の最終問題か」「……ラスボス」「最後まで皆で頑張りましょうっ!」


 つい先ほど脳内スクリーンにエンディングロールが流れ終わったばかりだが、そうとなれば気持ちを切り替えて真の親玉ラスボスに挑むとしよう。

 それでまずは謎解き文を探そうと、とりあえず皆で宝箱を回して調べていると……すぐに小さなボタンが見つかった。


「――ポチッとぉ!」


 相変わらず無警戒なヤスがノータイムで押すと、箱からカタカタと機械音がし始める。


「お、お、ナンダナンダ? 僕なんもしてないぞ!」

「いや、しただろ」


 皆が苦笑する中、ヤスが慌てて宝箱から手を離すと、その前面下部から電子パネルとガラスの筒がせり出してきた。


「「「おおお~!」」」


 その凝ったギミックに皆が驚きの声を上げ、特に機械工学にも造詣ぞうけいの深い夕は目を輝かせて拍手する。良くぞこんな仕掛けをと思うが……以前に絡繰からくり人形を作れると言っていたので、絡繰り箱も同様にという訳だろう。さすなこ。

 それで飛び出てきた電子パネルを見れば、赤色のデジタル数字で『000』と表示されており、その各桁の下側には数字の操作用と思われる小さなボタンが配置されていた。またパネル中央最下部には、『解』と書かれた大きめのボタンもあり、恐らくは決定ボタンなのだろう。対してガラスの筒の方は、中に細く丸めた紙が透けて見えており、これが最後の問題用紙に違いない。


「……紙に書かれた謎を解き、出てきた番号をパネルに入力して、この『解』のボタンを押せば開くんだな?」

「だよぉ〜!」

「ははっ、おもしれぇ」


 うんうん、このいかにもな仕掛け、分かってるなぁ。男の子はみんな大好きに違いない。


「……ということだ、ヤス。勝手に押すなよ?」

「お、そいつはフリか?」

「んなわきゃねぇだろっ!」

「あだっ」


 はたいてやると、すでにボタンへ乗せていた指を渋々とどけるヤス。ボタンを見たら押さないと気が済まない病気なのか、コイツは。


「てかさ大地、ちょっとズルいかもだけど、これ順番に押しても当てれるよな? 僕まえに自転車の鍵の番号忘れた時、それで開けたことあるぞ!」

「そりゃ時間さえかけたら開くが……謎解きガン無視の力技だなぁ」


 ここまでの謎解きの難易度を考えると、もしヤス一人で開けるとなれば、それしか手がないだろう。


「あはは~、そんな手がぁ〜通じるとでもぉ〜? 三回間違えるとぉ~……」


 あー、ATMみたいにロックがかかる訳か。さすがはなーこ作の絡繰り箱、セキュリティも万全だ。


「爆発するよん☆」

「なんだとぉっ!?」


 そいつはちょいと過剰防衛過ぎませんかね? まったく、マッドなサイエンティストやエンジニアは、何かにつけてすぐ爆発させたがるから困るぜ。宇宙を爆発させかけた子も横にいるしさ。


「爆発しても~、リトライできる~けどねぇ~?」

「──よしっ、ヤスGO! 好きなだけ押せ! みんなは退避だ!」

「ちょま、僕を地雷原へ走らせて安全確保するのはヨクナイ!」

「お前なら野生の勘で当てられる! 自分の強運を信じろ!」

「いやいや、三桁で三回チャンスってことは……たった3%だよ!?」

「0.3%だっての。ま、大差ない」

「大差ですがぁ!? 残基十倍いるから!」

「……生きるか死ぬかデッドオアアライブ……二つに一つ」

「ん、半々なら悪くない賭け――ってならないよ! 目堂さんまでしれっと僕をだまそうとしないでっ!」

「……ふふ」


 よしよし、ヤス弄りのシメは目堂で安定してきたか……あとは若い二人に任せて、俺はそろそろ引退だな。

 そうして暗い過去を背負う目堂がクスクスと楽しげに笑う様を眺め、俺は温かな気持ちで頷くのであった。

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