7-59 報酬

 ついに最終問題を解き終えて、宝箱の開錠に成功した俺たちは、謎解きイベント達成の喜びをみ締めていた。


「っしゃぁ! はよ開けようぜっ!」


 そんな中、毎度お馴染なじみ出しゃばりヤスが、しびれを切らして宝箱のふたを開く。


「おおー! ……おお? 玉手箱?」


 すると中は白い煙に満たされており、それが外へ流れ出ると……ヤスはおじいさんになってしまいました――ということもなく、敷き詰められたカップアイスが見えてきた。具体的に何かを予想してはいなかったものの、アイと言われて食べ物が出てくるとは思わず、周りと首を傾げる。


「──ハイッ! とゆーことでぇ〜……デザートのア・イ・ス、奪還おめでとう〜! なぁんてね♪」

「「「……え!?」」」


 得意げにそう言ってウインクするなーこに、一同驚き顔でポカンと口を開ける。


「アイs……と?」

「え、ダジャレ!?」

「しかも俺らを散々悩ませた『デザート』が戦利品とはなぁ」

「……『砂漠』でオススメ?」

「いえ〜すっ! そのとぉ〜〜〜りっ!」

「あはは……」


 まさかダジャレでシメられるとは思わず、皆は苦笑いを浮かべるが……どこか満足げにうなずいてもいる。というのも、これはあくまでミッションの表向きの答えで、先ほどなーこが「それだけではないがね」と言った通り、本当に取り戻すべきアイは過程にあったからだろう。

 例えば俺にとっては、夕にカッコイイところを見せ、未来の俺に向けられていたアイに負けないようれ直させること。目堂にとってはイジメによって隠されたアイを取り戻し、さらにヤスへの恋心アイを自覚する――はさすがに偶然、かな? 他にも、なーこが秘めた想いアイをバラの花でコッソリ届けたことや、夕となーこがコソコソやっていた事もそうなのかもしれない。


「……アレだ。少年漫画でよくある、仲間と協力して培った絆が報酬~的なヤツ?」

「え、大地クッサッ! アオハルクサッ!」

「う、うっせぇよ」


 その色々をボカしてまとめてみたが……うん、ちょっと恥ずい事を言っちまったな。


「にしし、にぃちゃん照れてる〜♪ でもボクもそう思うぞっ!」

「うふふ。それにとっても楽しませていただきましたから♪」

「ああ。こんな素晴らしい催しをありがとうございます、一色さんっ!」

「ま、ぼかぁ知恵熱出そうだけど……面白かったぞ!」

「……さす夏恋」

「えっへへ〜♪ そう言ってくれてぇ〜、うれしみしみ〜♪ 」


 皆の笑顔を見て、幹事冥利みょうりに尽きるとばかりに喜ぶなーこだったが……


「――でもでもぉ〜? このアイス自体もぉ〜、スッゴイんだぞぉ〜? ふっふふん」


 一転ドヤ顔でそう告げると、アイスとデザートスプーンのセットを席に置いていく。だが目の前のそれは、蓋に「プレミアムバニラ」とクソダサフォントで書かれただけの簡素なパッケージであり、ごくごく普通のカップアイスにしか見えない。スーパーに一個百円くらいで売ってそうだ。


「えーと、何がスゴ――」

「こっ、これはぁっっ!!!」


 そこで菓子職人料理長パティシエールシェフが、驚き顔でカップアイスをささげ持つと、何やら熱く語り始めた。


「グリーン車限定販売の『禿田ハゲダさん家のスゴクカタイアイス』っ! しかもこれ、幻の数量限定プレミアムカップなんだけどっ!? うわ、うわぁ、実物初めて見たぁ……なーこさん、こんなのどうやって手に入れたんだっ!?」

「ふっふ〜、ひみちゅ〜♪」


 アイス素人には今ひとつピンと来ないが、夕がこれほど驚くとなれば、タダモノでないことは確かだ。もしかすると、これも例の闇取引で得たブツの一つなのかもしれない……うん、触れないでおこう。


「っしゃぁ、何でもいいから早よ食べようぜ!」


 隣のヤスが封を雑にがし、中から純白のきめ細かなアイス面が顔を出したところで、なーこから静止の声が入る。


「んや~、もんのすっごぉぉく、かった~いからぁ? ちょっちぃ待つべきぃ〜かなかなぁ~?」

「いーや、ぼかぁ今すぐ食べるねっ! 頭使いまくって糖分が必要なんだ!」


 ヤスは構わずスプーンをアイス面へ強引に突き立てるが……名前の通り途轍とてつもない硬さらしく、数㎜入ったところで止まる。


「やべぇ、マジでかってぇ! くっそぉ、アイスなんかに負けてたまっかっ! ふぎぎぎぃ」

「ちょ、靖之やすゆきさん、そんな無理すると──」


 ペキッ


「「「あ」」」

「えぇぇ、うっそーん……」


 なんとスプーンが付け根からポッキリと折れてしまい、ヤスは残ったタダの金属棒を力なく持ち上げて茫然ぼうぜんと眺めている。


「だからぁ〜言ったのにぃ〜?」

「いや、うん、そうなんだけどね? ここまでとは、普通思わんよね?」

「ふふっ、溶ける前は小豆棒より硬いんだぞ」

「……あの小豆棒以上? ……ならスプーンの敗北は必至」

「いやいや、金属に勝つアイスとかどんだけ……」

「まぁ俺もそう思うとこだが、現にお前のスプーンへし折れてんだよなぁ。信じられんことにも」


 試しにアイス面をスプーンで軽く叩いてみれば、カンッと良い音が鳴り、超高密度でかつ完璧に凍結していると分かった。……なるほど、宝箱内に満たされていた白い煙は、ドライアイスによるものだったのか。


「だーもう、こうなったらぶつけて削り取ってやる!」


 半ばヤケクソになったヤスは、立てたスプーンの柄に打ち付けようとアイスを振り上げており、もはや食べる事から倒す事にシフトしている……オメェはどこを目指してんだ。


「あのぉ天馬さん、側面の注意書きに『振り回すな危険』とあります、よ……?」

「なにぃ、先回りされたっ!? てかどういう状況を想定して書いてんの!? これアイスだよ!?」

「それな」


 うん、本当に食べ物なのか疑わしくなってきた。


「あー、実はサスペンスドラマで凶器に使われたことあるからなんだ。良い子はマネしないでネ、的な?」

「おいおい鉄人、そりゃ盛り過ぎじゃ──」

「あっ、それオレも見たぞ。履いてたストッキングに何個か入れて殴った後、大急ぎで食って証拠隠滅してたっけ?」

「はへぇ〜。消えるドライアイスはあるあるのトリックだけど、食って腹に隠すのは斬新だなぁ」

「んで腹下して名探偵にバレた」

「展開が雑ぅっ! トリック台無しぃっ!」

「……ふふっ……それ」


 そうして皆で雑談をしている間に少し溶け始めたので、縁側から削って食べ始めると……すぐに驚きの声を上げることになった。


「うんっまっ! いやぁ、こりゃ朝が騒ぐだけのことはあるなぁ」

「わああ、とぉっても濃厚ですね!」


 メチャクチャに硬い理由なのか、普通のアイスよりも凝縮されていて、一欠片でも口いっぱいに上品な甘みが広がる。うん、こいつはまさにプレミアムだ。


「……私の力じゃ……まだ削れない……無念」

「あらら、じゃぁ取ってあげますね。はい、あ~ん」

「……あむ……んま」

「わぁずるいぃ~! ひ~ちゃんあたしもぉ~!」

「うふふ、しょうがないですねぇ。なーこちゃんも、あ~ん」

「やたぁ! あむっ。むふぅ~♪」


 対面で女性陣がイチャイチャする一方で……


「ち、ちべたいいいっ! でもうまひいいっ!」


 左隣のヤスは先端だけのザンネンスプーンを指先で摘んで、冷たさと格闘しながらチマチマ食べている。やはりコイツはアイスと戦う運命にあるらしい。


「ふわあぁぁ」


 次いで右隣でつぶやく夕を横目で見れば、一口食べる度にデロンと顔を溶かしており、そのあまりの可愛さにこちらも顔が溶けそうになってしまう。


「……バニラ以外も~あったらぁ〜? よかったねぇ〜?」

「ソウカモナ」


 無理矢理難しい顔を作っていたところ、なーこが意味深な目線を向けてからかってきたので、肩をすくめて無難に返しておく。もし味が複数あったなら、また夕が目をキラキラさせて交換しようと言い出しかねないところだった。……まぁ何にしても、夕が幸せそうにしてくれてるのが、俺にとって何よりの報酬だったな。

 こうして俺たちは、美味しいアイスを片手に談笑し、表も裏も最高のクリア報酬をありがたく味わうのであった。

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