7-56 裏読

※問題イラスト再掲

https://kakuyomu.jp/users/mochimochinomochiR/news/16818023214019444487

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 空欄部分へのあぶり出しによって、ベン図という新たな情報を得た俺たちは、早速その使い方について話し合っていた。


「なぁ大地、このすげぇベン図様が指してるなんかとなんかの『共通部分』が、鍵の番号になってるって事でいいんか?」

「お? そうだな」


 どうやらヤスは、ベン図をマスターしてくれたようだが……あの雑な説明でよく理解できたものだ。


「んでまぁ、円の片方は『砂漠』で確定として、問題は相方が何を指してるかだな」

「えーと、この『砂漠』と対になるものと言いますと……」

「……左の『デザート』」

「そうなりそうですね!」

「んー……」


 皆が『デザート』案にうなずいており、一見すると妥当な線に見えるのだが……何か違う気がする……その違和感は一体? よし、これは選択肢の絞り込みとして重要な事なので、一旦俺は抜けて良く考えてみよう。


「それで『砂漠』と『デザート』の共通項なぁ……砂漠地方のデザートと言えば、デーツとか?」

「えっ、砂漠でデート?」

「いやいや、部長は――ってか普通は知らんよな。デーツは茶色くて甘いドライフルーツなんだけど、あー……アレ何の実なんだろ」

「ナツメヤシの実だぞー。健康にもいいけど、糖分多いから食べ過ぎはカロリー注意かな?」

「おおっ、やっぱ少年は詳しいな。んでオレは売れ残りを食ったことあるんだが、干し柿みたいな味で結構イケるぞ」

「「「へぇ~」」」


 さすがは夕とマメ、料理や食料品の知識が豊富だな──っと俺は俺の仕事をしよう。

 それでベン図に『デザート』が入る違和感か……そうだ、ここは試験でよく使う戦法「出題者の立場で考えてみる」を試してみよう。なーこがこの条件でベン図を描くなら……………………ああそうか、それで妙に感じたのか。よーし、見えてきたぞ!


「でもマメさん……『デーツ』を数字にするのは、ちょっと厳しそうですけど……?」

「あー、そうだよなぁ。それと言い出したオレが言うのもなんだけど、砂漠のデザートはデーツだけじゃないし、有名ってだけで選ぶのも?」

「……決め手に欠ける」

「ええ。そうしますと、『砂漠』と『デザート』の他の共通項を探――」

「あー、待った待った」


 皆が『デザート』のまま突き進みそうな様子だったので、両手を前に出して一旦話を止めた。


「おっ、大地が動きだした。なんかひらめいたか?」

「閃きって程じゃないかもだが……少なくとも食べる方の『デザート』は相方じゃないと思う」

「えっ、そうなんです?」

「たぶんな」


 違和感の正体について整理し、さっそく皆に考えを伝えてみる。


「このベン図は、右側の空欄の中に縦向きに描かれてるだろ? だけどもし、この『デザート』と『砂漠』の共通項を答えとするなら、ベン図は横向きにしてその二つの枠の中間位置、それか二つの枠を包むように大きく描くと思うんだ」

「えーとぉ……ああっ、言われてみると少し不自然ですね」

「たしかに、『砂漠』だけ贔屓ひいきされてる感あるよな」

「……ん、美しくない……夏恋らしくない」


 なーこの親友もそう言うのだから、やはりこの読みは当たっていそうだ。

 そうして納得顔で頷く皆へ、この推論の補強となるもう一つの根拠を示す。


「それと、ベン図が見えてない段階の俺らが、もしこの空欄へ『砂漠』とか書き込んでたら、図と文字が重なってゴチャゴチャになっちまうよな? そんな面倒な状況をこのなーこが想定しないはずないんだが、それでもあえて空欄内に図を描いたってことは、必ずここでないとダメな理由があるんだろ。んで仮に相方が『デザート』だと、さっき言った通りそんな理由なんて無いし、やっぱり違うんだ。そしてこのベン図の位置が意味する事が解れば、本当の相方も見えてくるはず……どうだ?」

「「「おおお~!」」」


 言い終わるなり皆から歓声が上がり、拍手までされてしまった。ただ、目堂とマメは妙に悔しそうな顔でもある。


「ふぉっふぉ~、さすがは大地くんじゃぁ~! 素晴らしい考察じゃのぉ~?」

「ハハハ……」


 謎の老師からもお褒めの言葉を賜り、恐悦至極でありますな?

 さらになーこは、俺の隣に寄ってくると、妙に色のある声で囁いてきた。


「(ここまでわたしをってくれて……ああ、嬉しいよ。こうしてキミに心をのぞかれるのは――ン、あはっ、ゾクゾクしてしまうねえ? モット、視て欲しいなあ? ウフ、フフフ♪)」

「(ちょまっ!? たまたまだって……)」


 その妖しい瞳で見つめるのはやめようか! ほらぁ、みんながいぶかしげな顔してるしさ!?


「――よ、よーし! ベン図の位置を踏まえて、皆で良く考えてみよう!」

「「「おー!」」」「むぅ~」


 唇をとがらせるアブナイあでの悪魔を、シッシッと横に追っ払い、強引に話を本題に戻す。


「空欄にベン図があって、その空欄には『砂漠』が入っていますから……『砂漠』から連想される、『389』以外の数字になる言葉を探せば良いのでしょうか?」

「おっ、またまた僕の出番だな? 砂漠と言えば……オアシス、ラクダ、砂嵐、蜃気楼しんきろうあり地獄、えーと他には――」

「いや待て、『砂漠』からの連想まで候補を広げたら、無限に出てきて特定できん。あとそれだと『砂漠』の派生物になるし、『砂漠』本体と並列関係にないから、そいつらを一緒にベン図へ入れるのはどうもチグハグ感がある。あくまで、『砂漠』そのものを表す別の言葉でないとダメだろう」

「あ、そうですね……」「ちぇぇ~」


 せっかくやる気になっているヤスには悪いが、船が砂丘を登る前にかじ切りしないといけない。


「『砂漠』そのものでしたら、元の英語の状態の『desertデザート』はどうでしょうか? これを英語の数字に……むむぅ~、どうしたら良いのでしょう?」

「そうだなぁ……俺は文字数で『6』にするくらいしか思いつかんが、それだと『389』と共通部分が無い」

「ダメそうですねぇ……」


 もし他に英単語を数字へ置き換える方法があるとしても、俺たちだけでは分かりそうもない。


「……他の和訳は?」

「ええと、確かdesertデザートには、動詞で『見捨てる』のような意味もありますね」

「『見捨てる』か……数字化は無理そうだし、そもそも他は全部名詞で統一されてるんだよなぁ」

「……残念ハズレ」

「あー、さっきからケチばっか付けてすまんな」

「……違うものは違う……それでいい」


 こうして皆で意見を出し合ってはみたものの、どれも明確な否定材料があり、なかなかこれと言った答えが見つからない。


「むむぅ~、ベン図が縦に描かれている理由が分かると、候補探しのヒントになりそうなのですが……」

「それな。んでオレにはサッパリだが、宇宙こすもなら何か閃いてたりは?」

「いや、こいつは俺も同じくサッパリでなぁ」


 あまりにサッパリ過ぎて放置していたが、どうやらこの謎と向き合わないといけないようだ。それでわざわざ縦向きにしたということは、意味があるのは確実なのだが、そもそもベン図の向きに意味を持たせること自体が難しい。無理やり意味付けするとなると……二つの集合へ入れる情報の方向に関するヒント、とか? 空欄の上側は『眼鏡』だが、下側には何も無いし……うーん、違うよなぁ。くっそぉ、マジで分っかんね!

 そうして手詰まり感が漂っていたところで……


「あー、ちょっといい? ぼかぁ英語苦手だし、ぶっちゃけ全然付いてけてないんだけどさ……」


 ヤスが自信なさげに手を上げると、思いがけないことを聞いてきた。


「そもそもこの絵――」

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