7-44 活躍

※問題文再掲

『恋報われぬ正直者、新たなる愛に目覚めれば、の誠実なる愛を胸に、今こそれを届けんとす』

―――――――――――――――――――――――――――――――――


 この場所に求めるチューリップはないと考えた理由を、不思議そうにこちらを見てくる皆へと告げる。


「さっきなーこは、『ここは手渡し』と言っただろ。もしこの答えの場所が丘の上にあったら、二箇所手渡しすることになるからな」

「え……なーるほ!」「確かにっ!」「わわっ、全然気付きませんでしたぁ」「……夏恋なこ並の鋭さ」「にぃちゃん、カッコイイっ!」


 すると周りは納得顔をして頷き、大きな拍手を送ってくれた。


「……いやぁ~だいちくん~、びっくりだよぉ~? まさかあの一言を~上手く突かれるとは~、ね? これは一本取られた~、かなかなぁ~? …………ウフッ、イイネ、フフフ♪」

「ハハハ、たまたまだからさ……」


 初めてなーこの予想の上を行けたのは物凄く嬉しいが、それで何やら押してはいけないスイッチを押してしまったかもしれない。……あとでヤクザに絡まれてボコボコにされませんように。


「──ごほん。それと今、もう一つ分かったことがある。この情報がなーこ出題者の想定外だったなら、他に見つけやすくする何かが用意されてるかもしれん」

「んむ、ありえそうだ」

「……夏恋なら特に」

「ああ。それで例えば、こうして丘の上という高いとこに置かれた設問となるとだ…………ちょい見てくるな」


 先ほど丘の頂上をしばらく歩き、登ってきた方と反対側の階段近くまできていたので、その下り口へと駆け寄る。そこから連なる下り階段を目で追っていくと……期待した通り、その先の麓には色とりどりのチューリップで描かれた絵が並んでいた。


「やはりか」


 仮に俺がなーこの発言に気づかずに、皆で闇雲に上を探していたとしても、これならばいずれ誰かがふとした拍子に見つける、もしくは上で探すのを諦めて降りようとした時にすぐ目に入る。ノーヒントの物探しでは運が悪いとどうにもならないので、なーこなら必ず見つかるように配慮していると読んだが、案の定だった。


「あったぞー!」


 ベンチに居る皆へ呼びかけつつ振り向いたところ、


「──お見逸れした」

「うおぅビビッたぁ!」


 すでにヤクザ忍者が背後に立っており、早速と絡まれてしまった。超速フラグ回収。


「ここまで読まれるとは……これはゆーちゃんもれ直した――そう、『アイを取り戻せ』も少し前進したのではないかな? くくく」

「えっ!? あー、あの妙チキなタイトルはそういう意味だったのか」

「ま、それだけではないがね。いずれにしろ、引き続き期待しているとも」

「お、おうよ」


 意外とあっさりヤクザから解放されたところで、呼びかけた皆も側までやって来た。


「おお~、スッゲー!」

「いい眺めだなっ、にぃちゃん!」

「わわわ! とっても素敵なチューリップアートですねっ♪」


 各々が丘の下を眺めて感想を口にしており、特に花好きのひなたは、目をキラキラ輝かせてお花を振りいている。


「さては、これをお花博士に見せたかったのも?」

「にひ~、そだよぉ~」


 そもそもこの謎解きオリエンテーリングは、こうした見どころ巡りも兼ねているのだろう。名幹事名幹事。


「……気に入ってくれたぁ~かなかなぁ?」

「はいっ! こんな素敵な景色をありがとうございます、なーこちゃん♪」

「えへぇ~、ひ〜ちゃんに喜んでもらえて~、あたしも嬉しみしみ~♪」


 これほどの量の花を贈ってみせるとは、また随分と粋なことをする……俺も見習わなくてはな。


「……でも、割と近くでこんな素敵な催しをしていたのですねぇ」

「ん、俺はともかく、お花博士が存在すら知らなかったのは確かに意外だな」

「できたの今年だしぃ~? ひ~ちゃんが昔居た頃は~なかったよぉ~。……イメージアップ戦略~だろーねぇ~」

「あ……そうでしたか。それは良い取り組みですね」


 見ればアートの周りは家族連れやカップルなどでにぎわっており、そのイメージアップ戦略は成功しているようだ。なので、そう答えたひなたの顔がナゼか少し悲しげに見えたのは、きっと俺の気のせいだろう。


「よしっ、あそこに次の謎解きが隠されてるんだな──って、あん中からキアイで探すん? ……ぶっちゃけキツくね?」


 結構な広さにかなりの数の巨大アートが描かれているので、ヤスの言うように力技で探すのは当然無理だ。


「おいおい、だからこその色だろ? もう忘れたのか?」

「たはは、そだった。えーと、赤白黄色に、あとピンクだっけ」

「おう。んで、その四色全部を使ってるやつじゃないかな」

「あー、なるほ」


 それで眼下のアート群を皆で眺め、該当するものを探していったところ…………見つかった。


「「「……」」」


 そう、見つかりはしたのだが……


「……とても沢山、ありますね」

「……だな」


 見つかり過ぎた。四角、円、渦巻き、段々状など、様々な形の絵が十枚以上並んでいるが、その半数はこの四色のチューリップで描かれていたのだ。


「だぁもー! 減ったことは減ったけど、これじゃぁまだ多すぎだっつーの!」

「ああ。となるとだ……」


 そもそもこのなーこが、答えを絞れないような中途半端な謎解きを作るとも思えないので、俺たちが特定のための情報を見落としているのかもしれない。そう考えて今一度問題文を思い返してみると…………ああそうだ、チューリップと色という情報に変換はしたが、元は一つの短い恋物語だった。そうなると……もしや色の順番も厳密に指定している、とか?

 それで物は試しと、色順も意識しながら候補の絵を順番に見ていくと…………おおお、あったぞ! 完全に一致する唯一解が!


「分かった、あの手前の渦巻きだ!」

「……その心は?」

「外側から中心に向かって、黄・白・ピンク・赤の順に色が変わっていて、それは元の文章の順番と一致してる。だからあの渦の中心が、目指すゴールに違いない! どうだっ!?」

「よろしですし~♪ おっみごとぉ~、ぱちぱちぱちぃ~」

「うっしゃ!!!」


 序盤でかなり苦戦した分、こうして正解できた時の喜びもひとしおだ。


「さっすがにぃちゃんっ、大活躍だなっ!」

「いやいや、これもお花博士あってのもんだしさ?」

「えへへ。それと天馬さんのご活躍もですね!」

「お? それほどでも……あるけどなっ!」

「ハハッ、部長らしいぜ。こりゃオレも頑張らねばだ」

「……ん、私も」


 そうして三問目も協力プレイで見事撃破した俺たちは、その喜びを皆で分かち合いながら、丘を後にするのであった。

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