7-43 視野

※問題文再掲

『恋報われぬ正直者、新たなる愛に目覚めれば、の誠実なる愛を胸に、今こそれを届けんとす』

―――――――――――――――――――――――――――――――――


 皆が期待して注目する中、ひなたが元気良く答えを発表する。


「これは、チューリップのことかもしれません!」

「「「え?」」」「……あ、そゆこと」「だなー」


 俺マメヤスが困惑顔で首を傾げるのに対して、目堂(溶解中)は言われて思い至った、夕はとっくに答えが分かっていたという様子だ。

 それで一体何がどうなってチューリップに……例えば童謡で、咲いた咲いた、並んだ並んだ? いやいや、問題文に全然関係ねぇよな。むむむ、こりゃマジでサッパリ分からん、完全にお手上げだ!


「えーと、俺にはつながりが全く見えないんだが……?」


 俺の降参宣言に合わせてマメヤスがうんうんとうなずき、それを見た夕がヤレヤレと首を横に振ったところで、ひなたがその意外な答えを教えてくれた。


「実はですね、この問題文に出てくる言葉は全部、チューリップの花言葉になっているんですよ」

「お、おおー! 花言葉かぁ──ってこんなあんの!? いやぁすまんな、花言葉なんて俺は全然知らんもんで、ハハハ」

「僕もぜんぜんっ!」

「恥ずかしながら、オレもだな。せいぜいバラが愛ってことくらい?」

「……男子らしい……あっ!」


 溶けていた目堂がつぶやきと共にガバっと顔を上げると、合わせて周りも納得顔で頷く。


「ははっ、確かにこれは『女子推奨』だ」

「……ん」

「あーそっかぁ、そう言われたら分かるんだけどな~」


 ヤスがボヤいた通り、「花言葉」から「女子が有利」への連想はまだできるが、その逆は幅広過ぎてなかなか難しいものがある。


「そうなりますと……アタリでしょうか、なーこちゃん?」

「よろしですし~♪」

「わぁ、やったやったぁ~! えへへぇ♪」

「ん~、ひ~ちゃん、すっごぉ~ぃ! よぉ~しよし~、う~りゃうりゃ~♪」

「わひゃぁっ! もぉ、くすぐったいですよぉ~」


 ここぞとばかりに抱きついてでまくるなーこだが……もしかすると、ひなたが花言葉に詳しいことを知っていて、この問題を作ったのかもしれない。想い人の大活躍が見られる上に、こうして大っぴらに愛でられるという、なーこにとって最高の展開になるのだから。


「いやぁ、またまた小澄さんに助けられちゃったなぁ」

「ああ、女子らしい活躍を見せてくれたよな。もし俺ら野郎三人だけで挑んでたら、完全に迷宮入りしてたところだぜ」

「うんうん、小澄さんはまさに女の子代表! って感じだもんなっ!」

「……そうだけど……むぅ」


 目堂の複雑そうな顔は、「その事実は認めるけど、ヤスに言われるのはムカツク」と言ったところだろう。これも乙女心というやつか。


「それで俺ら野郎共は全然分からんし、ちょいと解説頼めるか、お花博士殿?」

「うふふっ、はい!」


 ひなたはコホンと可愛らしくせき払いをして、詳しい説明を始める。


「まずチューリップは、色ごとに花言葉が違うんです。例えば一つ目の『正直者』と『報われぬ恋』は黄色のチューリップですが、二つ目の『新たなる恋』は白色になります」

「へぇ……これは人に贈る時、うっかり色を間違えるとヤバイやつだな」

「ええ、そうですよぉ? 大地君も特に大切な方へ贈られる時は、気をつけてくださいね? すっごーく叱られちゃいますから、うふふ」

「お、おうよ」


 大切な人と言われて、右隣の夕を横目でチラ見してみると……どういうことか少しねているようなオーラをこちらへ発してきていた。……な、なぜだ。まだやらかしてないぞ?


「そ、それで残りは?」

「はい。三つ目の『誠実な愛』はピンク色で、最後の『愛の告白』は赤色になります」

「オッケー、ありがとう。そうなると問題文は……黄、白、ピンク、赤、そう読み替えできる訳だな?」

「ですです!」


 よし、この三問目も無事にゴールが見えてきた。


「じゃぁまずは……さっき宇宙こすもが言ってたみたいに、この四色の共通項を探してみるか?」

「ああ。それでこの四色の共通項となると……黄は赤と緑、ピンクは赤と白で作るし、赤が共通? いやダメだ、そもそも白がいたか。こりゃ違う」

「ですねえ……あっ、逆に四色を全部混ぜてみてはどうでしょう?」

「おお! でも俺は実際絵の具で混ぜないと、何色になるかなんて──」

「──朱色……減算混合で」

「はやっ! さすが神絵師」

「……違うって言ってるのに」


 俺は作りたい色を目指しても「コレジャナイ……何色が足りないんだ……いや逆に混ぜすぎたのか?」と迷走するのが常で、美術の時間にはかなり苦労したものだが……他称神絵師の目堂は、思い描く色を自由自在に作り出せるのだろうな。まさに才能というものだ。


「だが朱色、英語だとヴァーミリオンだっけ? どっちにしろ、場所の特定には繋がらなそうだなぁ」

「うむ……宇宙は他に何かいい案ないか?」

「んー……」


 過去に解いたことのある謎解きを思い返して、期待の目を向けてくるマメに、使えそうなパターンを提案してみる。


「それぞれの頭文字を取るとか?」

「おっ、それだ! えーと、黄・白・ピンク・赤だから、き・し・ピ・あ……ん? ピンクを桃と読み替えると、き・し・も・あ……んーー? 意味のある言葉にはならないな」

「他に音読みでは、お・は・と・せ……英語にしてみますと、Y・W・P・Rですが……これらも単語にはなりませんねぇ」

「……アナグラムも……なさそう」

「むぅ、この解き方でもなかったか」

「……他には?」

「いや、俺はもうネタ切れだ。皆で探していこう」


 問題文の情報量からして、あと一歩でゴールだとは思うのだが、その最後の一歩がなかなか進めない。

 そうして、上手い解き方が見つからず皆で頭を捻っていたところ、その様子を静かに見ていたヤスが口を開く。 


「……なぁなぁ、なんか皆で小難しいこと考えてっけどさぁ」

「ん?」


 そして予想だにしなかった一言。


「チューリップならその辺に咲いてんじゃね?」

「「「あ」」」


 一同唖然あぜんとなった。


「そ、れ、だぁぁ……」

「なんてこった、こんな単純なことに気付けんかったとは……」

「うん、ボクら無駄に難しく考え過ぎてたなぁ……」

「なんだかそういう雰囲気になっちゃってましたよねぇ……」

「……それ」


 場の流れとは恐ろしいもので、俺たちはいつの間にか机上の謎解きに囚われてしまっていたが、これはリアルイベントなのだから、出てきた答えが周りに存在しないかを真っ先に確認すべきだったのだ。なまじ連帯感の強い集団が視野狭窄きょうさくおちいると、「皆もこの方針で考えてるしこれでいいんだよね」と思ってしまって、容易には抜け出せないということか。


「てか部長、あんたスゲェよ」

「……それ」

「マジで助かったぜ、ヤス!」

「おっ? ハハハ、皆がピンチの時は僕に任せときなっ!」


 大口を叩くだけあって、こうして空気を読まず斬新な切り口で一石を投じてくるヤスは、この謎解きにおいて貴重な存在なのかもしれない。……まぁ、大抵はトンチンカンなことを言い出すがな。


「よっしゃ、んじゃ次はチューリップ探しだなっ!」

「はいっ! でもこの樹木公園は結構広いようですし、みんなで手分けして探しましょうか?」

「おっ、それがいいね」

「……回復中……捜索は困難」

「あはは、目堂さんらしい。ま、僕が君の分も探してくっから、ゆっくり休んでて」

「……ありがと」

「あいよっとぉ、んじゃ僕はこっちの方面――」

「いや待て」

「どった、大地?」


 そこであることを思い出した俺は、早速走り出そうとしているヤスを引き止める。


「その必要はない。ここでは絶対見つからん」

「え、なんで? こんなにいっぱい花あるんだし、探せばチューリップだってありそうじゃね?」

「ええ、チューリップはちょうど花盛りですし」

「ん……にぃちゃんは何でそう思うんだ?」


 ここで意外なことにも、夕となーこまで皆に混じって首を傾げている。たまたま気付いたとは言え、この二人の意表をも突けたとなれば、実はスゴイことなのでは……そうワクワクしつつ、その理由を告げる。

 

「さっきな──」



―――――――――――――――――――――――――――


 さて、大地君がここでは見つからないと考えた理由、ぜひ推理してみてください! もちろん、大地君しか知り得ない情報を使うことはなく、大地君以外のメンバーや読者様も推理可能でございます。

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