7-33 智力

「ミッションタイトルわぁ~……『アイを取り戻せ!』だぞぉっ!」


 意味不明なタイトルコールに唖然あぜんとする一同をよそに、なーこは懐から一枚の紙を取り出すと、こちらに差し出してきた。俺が受け取って紙の表を見ると、そのタイトル名が可愛らしい丸文字で書かれている。


「ようわからんミッションだが……この紙に書かれた謎を解けばいいんだな?」

「そゆこっとぉ〜♪」


 とりあえずやるべき事は分かったし、それで謎のタイトルの意味もいずれ解ってくる仕組みなのだろう。

 まずはと紙を受け取った俺が、代表として内容を読み上げる。


「んじゃ、読むぞ。『Aは甘く、Bはやや甘く、Cはかつて甘く、Dは在らず。Cに十二、Bに十五、Aに二十一、Dに二十三、Aに八、Cに二十四、Bに十四、Dに六、Aに七、斯様かように歩めば道開かれん』だとさ」

「おおお、本格的な謎解きだな! これは腕がなるぞー♪」


 夕は両こぶしを握ってぴょんぴょん跳ねており、開幕からテンションマックス状態…………はぁ~可愛い。ありがとな、なーこ様。

 そうして二重の意味で拝んでいたところ、


「でもさ大地……これが解けても道が開かれないんじゃ、意味なくね?」

「……と言うと?」


 ヤスが妙な事を言い出し、周りが不思議そうな目を向ける。これは単純に問いを解くだけでは次には進めない……ということか? つまりヤスは、まだ俺達が読み解けていない真の題意に気付いてる? ほぉぉ、やるじゃねぇか。


「いやだってさぁ、『開かれん』ってあるじゃん?」

「だな」

「開かんのかーい! ってな?」

「そこかよっ!?」


 まさかの問題文を理解していないパターンだった。ヤスは古典も赤点常習犯だしなぁ。


「古文だと『開かれるだろう』的な意味だ!」

「え、なにその紛らわしいの!」

「紛らわしいのはテメェだ! 無駄に混乱させやがって!」

「アダッ」

「ぷふっ」「うふふ」「……安定の漫才」


 ヤスを軽くはたいたところで、女性陣から笑いがこぼれた。良かったなヤス、アホなおかげでモテモテだぞ?


「はぁ……気を取り直して解こうか」

「そだね――と言っても、僕にはさっぱりだけどさ。だって問題文が難しすぎるから!」

「せめてスタートラインには立ってくれや……」


 ただ、すごく難しいのは間違いなく、周りも頭をひねって考え込んでいる。流石はなーこ作の謎解き、一筋縄ではいきそうもない。


「一色さん、ヒントをもらえないでしょうか!?」

「だぁめぇ~、あっげなぁ~い♪」


 なーこが指先で小さくバッテンを作ってベぇ~と舌を出すと、ヒントはもらえずとも満足そうにほうけるマメ。愛想は貰えて良かったな。


「……難しい……ひなたは?」

「むむむぅ~、私こういうの苦手なんですよぉ。――ねねね、朝君は何か思いつかないかなぁ?」

「んーと、ABCDと四種の文字に従って歩むってことは、四種で作られる方向を示すもの――たぶん方角の東西南北にそれぞれ対応しているのかと。それで、味? という変なヒントから文字と方角の対応を推測して、指定歩数だけ指定の方角へ進めば、次の謎解きが見つかるってことだと思うぞ? だけどこの味と方角とのつなげ方が難しくて……むむぅ……」

「おいおいぃ……」


 あのさぁ夕、謎解きが楽しくて仕方ないのは分かったし、そりゃ大いに結構なこった。俺も嬉しいさ。だがお前は小学生のていなんだから、智力全開放したらどう考えても周りに怪しまれるぞ?


「えとえと、んーと…………なるほどぉ! ――って朝君すっごぉい! みなさんみなさん、この子、天才少年なのかもしれません!」


 ほれみろ。


「む、料理以外もできるのか……やるな」「……本当に小学生?」「もしかして僕負けてね?」


 言わんこっちゃない。まぁ、言ってないんだけどな。

 それとヤスよ、お前はもしかしなくとも余裕で惨敗だ。


「――っあ! ……えーとぉ……そう! 前に同じ問題を聞いたことあったんだ! うんうん、たまたまのラッキーラッキーだぞ! ハハハ……」


 なーこのオリジナル問題だっての……周りも納得してない顔だし、どうすんだよ?


「――ありゃぁ~被っちゃったかぁ~! ツイてたねぇ~あっさくんっ!」

「う、うん!」


 そこでなーこがフォローを入れてくれて、何とかごまかせた感じになった。その後なーこは、俺にパチンとウインク――ああ、うちの娘が毎度すまぬよ……ぐぬぅ、借りがどんどん増えていく!

 さらになーこは、夕の隣にスススと移動すると、


「(わたしの自信作を楽しんで貰えて、とても嬉しいよ。でもほどほどにね? わたしに借りなど作りたくはなかろう? くくく)」

「(くにゅぅ……はい……)」


 そうささやいてスススと戻って行った。残された夕は、悔しそうな顔で歯噛はがみしている。

 うーむ、二人の頭脳バトルに立ち回りの上手さも含めるなら、今のところなーこが一歩リードか……夕サポーターとして少し悔しい気持ちもあるが、相手が智の悪魔なーこでは仕方ないとも思う。だが純粋な謎解きの面では誰よりも早く進められているので、まだまだ勝負は分からないぞ、頑張れ夕っ! ――いやまぁ、応援ばっかしてないで自分も解かないとなんだけどさ?


「それで、えーとぉ……味と方角を結びつけたら良いんですよね?」

「そ~かも~しれぬのぉ~?」


 再び謎の老師風キャラになって、曖昧あいまいな答えを返すなーこ。たとえ愛しのひなた相手でも、心を鬼にしてヒントは出さない方針のようだ。


「途中で味が変わった方角や、在らず――味がしない方角? があると? 難しいな……」

「さすがのだいち殿も~、苦戦しておるようじゃのぉ~? ふぉっふぉっふぉ~」


 だから何だよそのキャラは! 面倒くさいやっちゃな!


「あーもう、方角の味ってなんだよ! ……まぁ僕的には、南が一番甘そうで北は甘くなさそう?」


 ヤスは思い付くがままにしゃべっている。だが、こういう謎解きは思わぬことがヒントになるので、とにかく意見を出し合っていくブレインストーミングが有効だ。もちろん、こいつは分かってやってはいないと思うが。


「うーん、お前の言いたいことは分からんでもないが……あまりに主観的で曖昧だな。謎解きである以上は、ちゃんと理屈が通ってないと?」 

「だーよなぁ~…………――あっ! 甘いってことは、食べ物なんじゃ? てことは……甘いのを探してみたらどうよ? なっ?」

「んんん?」


 ヤスの提案の意味が分からず、皆で首を傾げる。これは一体どういう意味だろうか。

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