7-26 撮影

 メンバー全員がそろったところで、配膳はいぜん、サラダの盛り付け、火力の微調整、串焼きのセットなどに、皆で手分けして取り掛かる。ただし鬼の料理長殿は別枠で、パエリヤの入った小型フライパンを火にかけつつ、運んできた具材を丁寧に盛り付けている。なお、アヒージョはすでに完成しているらしく、鉄板端に置かれたスキレットで保温中だ。

 ややあってパエリヤ以外の準備が整ったので、皆が自前の飲料を持って席に座った。クレープの時と同じ順で、俺の右隣から時計回りに夕(立って調理中)、俺、ヤス、マメ、その対面になーこ、ひなた、目堂めどうとなり、見かけ上は男女に分かれている。ちなみに俺の前には鉄板、左側には金網となるが、金網に並べて焼かれる十五本ほどの串を、マメとなーこがクルクル回して面倒をみており……言うまでもないが、マメはすごうれしそうだ。


「――よーし、完成だっ」

「おお~!」「鉄人の技だなっ!」「キレイだねぇ~!」「まぁ素敵!」


 そこで夕がパエリヤを中央付近に置けば、周りから大歓声が上がる。先ほどまではただの紅一色のお米だったが、エビなどの魚介類や串切りレモンにアクセントの三つ葉など、色とりどりの具材が芸術的に盛り付けられており、完璧なパエリヤの顔に仕上げられていた。……うーん、なぜこれだけの盛り付けセンスがあって、画力が絶望的なのか謎だ……微妙に違う才能なのかなぁ。


「ほんとはご飯取り分けてから、各自で具材乗せた方が楽なんだけど……見栄え重視というか、パエリヤっぽさも大事だしな?」

「さっすがあっさ君~、分かってるぅ!」


 俺がノリで作った時のパエリヤは、ザ男料理といった雑な見栄えだったし、こうして完璧なお手本を見せてもらえて良かった。


「よぉ~し、食べる前にぃ~、皆で記念写真~撮ろぉ~!」

「おっ、いいじゃん!」

「撮りましょう!」

「そいじゃぁ~、みんな串持ってぇ~」


 なーこは程よく焼けた串を、ホイホイと順に手渡していき、


「あっち~見てねぇ~?」


 テーブルから三mほど離して設置された、三脚付きの立派な一眼レフカメラを指差す。……え、いつの間に用意してたんだ? 


「おお~? あっさ君~、そこ切れちゃうからぁ~、もっと寄ってねぇ~?」

「……ん?」 


 位置的に普通に入るんじゃ……と思ったところで、


「おー、分かったぞ。――えいっ♪」

「ちょっ……」


 隣の夕が身体を寄せて、ぎゅうっと腕を絡めてきた! あーもう、突然来られるとドキドキするからヤメテ! ――いや、突然じゃなくてもだけど!

 まったく、なーこは全力で楽しんでやがるな……と思っていたら、


「じゃ~、3・2・1・だいちぃ! で撮るね~?」

「……は?」


 今度もまた良く分からないことを言ってきた。


「「「おっけーい!」」」

「まじかぁ……」


 い行で終わるからって、人の名前を勝手に使うんじゃねぇよ。あと皆ノリ良すぎだろ……これがBBQパワーか。

 なーこは満足げにうなずき、ポケットからリモコンを取り出すと、さっそく掛け声を始める。


「よ~し、用意はいいかなぁ~? 3! 2! 1!」

「「「「「「「だいちぃ!」」」」」」」

 

 パシャッ!


 串を掲げたりピースしたりと、各々のポーズで撮影された。


「――ぷふっ。一斉にだいちて……おもろ」

他人ひとの名前で面白がるんじゃねぇ!」

「あだっ」


 無礼者をシバいて、周りからクスクスと笑いがこぼれたところで、


 パシャッ!


 再びシャッター音が鳴った。


「えっ?」

! ……なぁんてねっ?」


 驚いてなーこを見れば、イタズラが成功した子供のような顔をして、パチリとウインクを返してくる。……なるほど、皆の自然な笑顔を誘うためにも、こんな妙な掛け声にした訳か。まるでプロのスタジオカメラマンが使うような撮影テクニックで、人心の把握と誘導が上手いなーこだからできる妙技だな。


「うふふっ。なーこちゃんってば、お上手ですね♪」

「えへへ~」


 しかも、先ほどのチンピラ撃退用に撮った時の恐ろしいセリフを、今度は皆を楽しませるという真逆の意味で言っており、ひなたが言うように二重の意味で上手いものだ。まったく、お前さんは大した名幹事だぜ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る