7-03 二輪
食器のついでに夕の遠隔攻撃で火照った顔を洗って冷やすと、自室へ戻って身支度を始める。
行き先は聞いていないが、BBQとなれば山か川……そうなれば虫も多いと思い、まだ少々暑いかもしれないが
そう言えば、食材やBBQ関連用品など何も持っていかなくて良いのだろうか……と思ったところで、携帯が震えた。見ればなーこからのメールであり、
『荷台は空で』
と相変わらずの一言でジャストアンサー。一家に一台エスパーなーこ。
「ははは……」
もはや笑うしかない。お前さん、やっぱどこかから見てるよね!?
実際のところは、昨晩に質問がなかったので、俺が出る間際の支度で思い至ると予想してのメールなのだろう。このまるで見ていたかのような
いずれにせよ、こちらは手ぶら、向こうで用意された荷物を運ぶだけで良いらしいので、
『助かる』
と感謝を込めて一言だけ返しておいた。向こうはこちらの自転車の荷台の有無は知らないと思うが、こうしてそれに言及しないことで、有ることを伝えられたはずだ。
支度が完了したところで、ちょうど十時。行きは下りのため十分程度で着くので、まだ出るには少々早いところだが、出発しておくことにした。六人もの団体行動ともなれば遅刻は厳禁だし、多少のアクシデントがあっても良いようにしておきたい。
俺は軒下に置いてある青のマイ自転車「
◇◆◆
坂を下り、繁華街を抜けて少し進むと、集合場所の銀河丘高校が見えてきた。のんびりと漕いだが十五分もかかっておらず、徒歩と違って随分と楽なものだ。……まぁ、逆に帰りの坂は徒歩以上にキツイ訳だが。
歩道も無い校舎前の狭い道を進めば、遠くに見える校門前には一人の男子と一台の自転車。まだ集合二十分前と大分早い時間であり、まさか先客が居るとは思わなかった。
顔が分かるほどまで近づけば、その主はマメ。俺はその隣に自転車を横付けて降りる。
「おお、
少し驚き顔で話しかけられた。
「まぁな……というのもあれだ、な――一色に頼まれて渋々ってやつだけど」
頼まれたというよりも、脅迫されたに近いかもしれないが。
「えっ、もしかして……一色さんと仲いい、のか?」
「いや、仲が良いかと言われると……どうだろう? まあ、少なくとも友達ではあるかな?」
「へ、へー」
それなりになーこの人となりは知れたと思うし、握手を交わしてお友達にもなったものの、仲が良いかと聞かれると少々疑問ではある。それでマメは、人付き合いが皆無だった俺に友達なんかが居ることに驚いてる? 失礼なヤツだな! 確かにそうだけどさ!
「そうか……オレだけじゃなかったんだな……」
「何が?」
「いや、なんでも」
なーこの被害者は自分だけではなかった、という意味かな? そうだね、
「……」
「……」
一応は同じ部員として共に活動はしてきたものの、友達として遊ぶこともなかったので、正直マメと何を話して良いやら分からず……妙に気まずい。
「…………あー、他の連中はまだ来てないんだな」
とりあえず間を
「ああ、そうだな。ちょっとどこかへ行ってるとかでもない」
「……ん?」
この口ぶりからするに、結構前から待っているのだろうか。
「お前さ……いつからここに?」
「あー、いやぁ……」
マメは言葉を濁すと、こう続けた。
「それがな、楽しみ過ぎて早くに目が覚めちまってさ? 家に居てもウズウズするだけだったんで、ここに来たのは……十時半頃だな!」
「早すぎんだろ!」
「だよなー、ハハハ!」
いくらなんでも一時間前はおかしいだろ、デートかよ。お前さん、どんだけこのBBQを楽しみにしてたんだっての。
それで楽しみと言えば、マメの自転車の荷台には大きな箱が積まれており、BBQお楽しみグッズを用意してきたとでも言うのだろうか。
「それは?」
壁に寄せられた自転車を指差して、暇つぶしも兼ねて聞いてみる。
「ああ、これはな――」
ペペペペペ
マメが荷物の説明をしようとしたところで、こちらに向かって一台のミニバイクが走ってきた。生憎と車種は分からないが、車体の下半分を赤、上半分を白としたデザインであり、女性が好みそうな可愛らしいバイクだ。
車通りも少ないということで堂々と真ん中に陣取っていた俺たちは、邪魔にならないよう壁に寄っておく。バイクはそのまま前を通過するかと思いきや……
「ちょ、えええ!?」
なんと華麗なブレーキターンを決めて自転車に横付けしてきた! 普通のミニバイクがする動きじゃないぞ? えーとそれで、学校に用があるとなると、休日出勤の先生――いや、それなら専用の駐輪場があるし、こんなテクニカル駐車もしない……一体何者よ?
正体不明のライダーを不審に思っていたところで、そのバイクから小柄な女性が降り立った。見ればその女性は、黒と蛍光色からなるサイバーパンク風の奇抜なパーカーを羽織り、手にはシックな皮グローブを装着し、山ほどステッカーの
次いでその女性が手慣れた仕草でカコンとスタンドをかけ、身体を前傾してヘルメット外すと、頭頂部の
「マジかよ……」
なーこだった。まさかバイクで来るとは――ってか免許持ってたんだな。進学校ということもあり、うちではかなり珍しい……あーそうか、
ふぅと一息吐いてこちらへ目を向けたなーこへ、とりあえず挨拶しようとしたが……
「一色さんっ! こんにちはっ!!!」
先んじて元気なマメの挨拶が入った。驚いて隣を見れば、緊張した面持ちで直立不動である。
「やっほ~マメくん。来てくれて~ありがとねぇ~!」
「おっ、お誘いいただいて光栄ッス! そのお召し物も最高にクールッスね!」
さらには片手を額に当てての敬礼である。マメのことを良くは知らんが、少なくともそんな珍妙なキャラではなかったよな? 一体どうしたよ? 中身はヤスなのか?
「ぷふっ、なぁにそれぇ~? マメくんってばおもしろ~い♪ あとありがとっ♪」
「っ!」
陽キャモードで笑顔を振りまくなーこを見て、マメの顔が一瞬で赤くなった。
「たのし~ばーべきゅーに、しよーねぇ~?」
「まっ、任せてくださいっ!」
――あーそういうことかぁ……さっき言っていた「楽しみで」は、なーこと遊びに行くのが楽しみで仕方なかったって訳な。そりゃ一時間前に来るのも――ってやっぱ早過ぎだろ!
それにしても、マメがなーこをね……言葉を返させてもらえば、実に意外だな。そりゃ間違いなく良い子ではあるんだが……本当になーこでいいのか? お前にこの
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