7-04 拉致

 俺とマメは主催であるライダーなーこと合流し、これで残りの参加メンツはヤスとひなたと沙也さやの三人となった。


「あ! ちょちょっとぉ~荷物取りに行ってくるね~?」


 なーこがそう言って校舎へ歩き出そうとするが、


「自分が取って来るッス! 置き場所はどこッスか?」


 すかさずマメが奉仕精神を発揮。早速と稼ぎにいきますなぁ。


「えっ? んーとぉ~、手芸部室前に~食材と食器類~? ……でも~悪いよ~?」

「えーと……ほら、一色さんは主催ですし、集合場所に居た方がいいかと!」

「ん~、それも~そうね~? じゃぁ~お願いね~♪」


 手柄を立てるために上手く口実をつけるとは、マメは結構知恵が回るのかもしれない。必死さゆえかもしれないが。


「俺も行こうか?」


 かなり量が多そうなので、手伝った方が良いと思っての申し出だったが、


「む。宇宙こすもは………………ここに居てくれ」


 マメは俺となーこを交互に見て少し悩んだ末、助力を断ってきた。


「ん? マメがそういうなら、任せるが……?」


 さっき俺となーこの仲を気にしていたことからすると……手柄を独り占めしたいものの、二人きりにさせるのは嫌で迷った、のか? んなこと心配せんでも、そんな気はさらさらないし、そもそも俺程度がどうにかできる子じゃないってのに。


「んじゃ行って来るッス!」


 マメが元気良く駆け出して行くのを、二人で並んで見送る。


「……本当に良かったのかい?」


 マメが校舎内に消えたところで、素に戻ったなーこから声がかかった。見れば少しばかり申し訳なさげな顔をしているので、昨晩のメールと同じく夕についてだろうと察する。俺が気にするなのニュアンスで軽くうなずくと、「ありがと」と素直なお礼が返ってきた。


「一応誘ってもみたけど、遠慮するってさ」

「んまあ、流石に居辛かろうよ。ただ、彼女にBBQの情報は開示していると……ふーむ」


 なーこは目をつむって眉間みけんを指でトントンとたたくと、ニヤッと悪い顔になった。あっ、また何かはかりごとをしてるなぁ、この子は!


「――おや?」


 そこでなーこが唐突に一歩踏み出すと、目を細めて遠くを見始めた。


「ふむ。沙也ちゃんが家から出たみたいだね」


 その視線の先を見れば、二百mほど離れたところを一人の少女が歩いており、どうやらその子が沙也らしい。そうなると沙也の家はその辺りで、物凄ものすごく学校に近い……通学時間が短いのは純粋にうらやましいな。


「そろそろ起こしに行く頃合いと思っていたけれど、その必要がなくて良かった」

「待て待て、もう十一時半前だぞ? いくら何でも寝てるってことはないだろ」

「ふふっ、あの子のねぼすけっぷりを甘く見てはいけないよ。しかも休日ともなれば、出不精の彼女には往々にしてあり得る事さ」

「へぇ……」


 そうして雑談しながら到着を待っていたのだが……なんと、待ち人はほとんど進んでいなかった! あの子、歩くのがめっちゃくちゃ遅いんだが!?

 そうして亀のごとき歩みで中ほどまで来た時、沙也もこちらに気付いたらしく、駆け足(?)に移行したものの……みるみるうちに減速し、結局到着までに一分くらいはかかった。ハイ、あなたの百m走のタイムは六十秒です! おめでとうございます!


「ぜぇ、はぁ……疲れた……」


 おまけに辿たどり着いた時には、盛大に息を切らしているときた。この子、どんだけ体力ないんだよ……ああそうか、きっと近いという理由で銀高うちにしたんだろうな。それで今からどこかも知らないBBQ会場まで移動するわけだが、こんな体力で本当に付いてこられるのか――ってかそもそも自転車はどうしたよ?


「やっほぉ~、さーやちゃん♪ わしゃわしゃ~♪」


 俺の懸念をよそに、なーこが沙也へ飛びつくと、実にうれしそうに頭をナデクリする。その沙也は、「……やめて」と言いつつズレた瓶底びんぞこ眼鏡とヘッドフォンを面倒くさそうに直すものの、口元はどこか嬉しげに見える。この二人――というより手芸部メンツは本当に仲が良いようだ。


「……おはよ、夏恋なこ


 沙也は一歩下がると、気だるげに朝のご挨拶。なーこのねぼすけ発言の通り、やはり今しがた起きたばかりなのだろうか。先ほどの亀のごとき歩みは、寝起きで身体が温まっていなかったから……だと思いたいなぁ。


「うふふ~、BBQ楽しみだね~♪」

「……どういうこと?」

「あっれ~? 言った~よね~?」

「……ランチって聞いた」

「そう~だね~?」

「……お店じゃない?」

「BBQスペースを貸してくれる~お店だね~?」


 なるほど、「ファミレスでランチしようね~」みたいなノリで、引き籠もり娘を言葉巧みに誘い出したわけか。流石は策士なーこ、なんてキタナイ!


「……話が違う……帰る」

「もぉ~、そんなことぉ~言わず~?」

「……」


 そのまま無言で家へ引き返していく沙也だったが、その背後になーこが近付いて行く。

 どうするのかと思いきや、沙也の両脇りょうわきの下に手を差し入れると……


「んひゃっ!」

「うそだろ!?」


 ひょいと持ち上げた。いわゆる「たかいたかい」の体勢だ。

 俺が驚きの声を上げるのも無理の無いことで、沙也は見たところ四十㎏くらいだろうし、それを直立状態から腕力だけで持ち上げるなんて男子でもかなり難しい。ましてや小柄な女子のなーこにはまず不可能なはずだが……一体どうなってるんだ?

 さらになーこは、ジタバタする沙也をバイクの後部座席に無理やり座らせる。そこですかさず沙也の足を車体に押し付け、バイクキーを取り出して付属のボタンを押した。すると……


「!? え……なにこれ……」


 後部座席にまたがる沙也の足首付近で、車体側面から金属のリングがせり出し、その両足首を足枷あしかせのように固定してしまった。――ほらぁ、やっぱ魔改造してる!


「うそ……外れない……?」


 沙也は自身の両足に装着されたリングを外そうとするが、びくともしないようだ。


「うう……夏恋、おろして……」

「さぁ~一緒にいこ~ね~♪ たっのしぃ~ばーべきゅぅ~♪」

「…………はぁ……まったく夏恋は……いつもこう……」


 沙也は無駄な抵抗と理解したのか、最後部に備え付けられたキャリーケースにくたっと背を預け、カバンを抱え込んでふて寝してしまった。お気の毒に。


「ははは……もはやどっからツッコんだら良いか分からんのだが?」


 鮮やかな少女強制拉致らち・収容の一部始終を見届けた俺は、あきれながらなーこに声を掛ける。


「くくっ、これのことかい?」


 なーこはそう言いながらこちらに近付くと、沙也と同じように俺を持ち上げてみせた。


「ちょ、お前マジですげーな!」


 この体勢にされることなんて、普通は幼少期くらいにしかないぞ?


「一体どうやって――ん、腕に何か仕掛けが?」


 実際に持ち上げられて気付いたが、なーこの腕から小さな機械音がする。


「ご明察。軽量型パワードアーム――正確にはパワードショルダーを着けてるのさ!」


 なーこはそう言って俺を降ろし、サイバーパンク風パーカーの左袖ひだりそでのジッパーを肩口まで上げる。するとその腕はひじより上が金属パーツに覆われており、メタリックな輝きを放っていた。――おおお、衣装と相まってめっちゃ格好良い……ちょっと着けてみたいかも。


「ちなみに?」

「自作」

「ですよねー!」


 もうそれが当たり前過ぎて驚かなくなってきた。


「沙也ちゃんが逃げ出すのは想定済みだったけれど、わたしは非力な女の子なものでね。捕まえるために下準備をしてきたのさ。ついでに会場でも色々と役に立つだろうからね?」

「はぁ……手の込んだ義手を使った手段なこって。こりゃおげだ」

「くふふっ、お


 俺が呆れ顔で小さく万歳してダジャレを言えば、なーこはクツクツ笑いながら俺の手の平をクルリと裏返し、一枚上手うわて小洒落こじゃれた返しをしてくる。


「にしてもブレねぇなぁ」


 友達を遊びに連れて行くためにパワードアーム着けてくる天才バカは、宇宙広しと言えどもお前だけだろうよ……メカ自慢したかっただけ説もあるが。


「おーーーい!!!」


 そこで後ろの遠くの方から呼び声がかかる。振り返ってみれば、ヤスが物凄いスピードで自転車をいでこちらへ向かってきていた。


「大丈夫か大地っ!?」

「え? 何が?」


 横倒しにタイヤを滑らせて急制動し、慌てて安否を確認してくるヤスだが……何を心配しているのか全く分からない。


「いやほら、今なーこちゃんに……」

「ん……あぁ、何でもねぇよ」

「そ、そうか。大地が大丈夫ってならいいけどさ?」


 どうやらつるし上げられた俺を見て、なーこにボコられているのかと勘違いしたようだ。まったく、なーこの恐ろしさは暴力じゃなくて知力だってのに……なんてこと考えてたら、今は普通に物理でもボコられるな、ハハハ。



―――――――――――――――――――――――――――――――

目堂沙也の立ち絵(再掲) https://kakuyomu.jp/users/mochimochinomochiR/news/16817330648342400820

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る