7-12 薬味
そうして買い出し組が消えてなーこと二人きりになったので、すぐ側のテーブル席で待機することにした。周りを見渡せば、沢山並んだテーブルにはまばらに人が座っており、カップル達や家族連れが楽しそうにクレープを
椅子に腰掛けてふぅと軽く嘆息したところ、
「くっくっく、道中もお楽しみいただけているようだね?」
対面のなーこがテーブルに
「いやもう、ほんっと勘弁してくれよ……お前のイタズラのせいでエライ目に遭ったんだぞ? どうしてくれる!」
「くくっ、なればこそ丁度良かったであろう?」
「…………ああ。ははっ、そりゃどうも!」
どうやらここへは、
「まあ、それにそう悪いことばかりでもなかったのでは? ん~?」
「えっ?」
意味深に問いかけながら、首を傾げて下から
「ほら、
「あ……それは、そう……だな」
ああやって抱きつかれれば、気恥ずかしさもあるが、もちろん嬉しいに決まっている。あと、この嬉しそうな様子からして、やっぱりなーこは女の子の方が好きなんじゃ……マメの道行きは険しそうだ。
「おやおや、意外や意外、素直なものだね? ……なるほど、ようやく自覚したって訳かい」
「え………………まぁ、うん」
なーこには隠しても無駄なので、正直に話しておくことにした。誠実に向き合えば、誠実に返してくれる子だ、悪いようにはしないだろう。
「おお! 一歩前進おめでとう、と一応援団員として祝辞を述べておこうではないか」
「やめい、恥ずかしいわ!」
パチパチと大仰に拍手を送ってくる応援団なーこに、ツッコミを入れざるを得ない。悪いようにはしないかもしれないが……こうして冷やかしてはくるよな! 知ってた!
「となれば……」
そこでなーこは、急に真剣な顔をして、こう続けた。
「伝えられない理由があると。難儀なことだね」
「え…………なっ!? そう、だけどさ。いやぁ、お前マジですげーな!」
夕にまだ告白できていない事実、さらには背景に重大な問題を抱えていることを、瞬時に察せられてしまった。恐ろしくもあり、頼もしくもあるというものだ。
「ふふん。この程度の推理、クレープ前さ。特に本人を見た後ならばね?」
「たしかに……」
対面していない夕についてあれ程の精度で推理できたなーこなのだ、多少とはいえ本人と会話した今となれば、まさに朝飯前のクレープ前なのだろう。
「そう、いくらキミが極めつけのヘタレでも、二百%イエスが返ってくる
相変わらずの名探偵っぷりに
「それが許されない程の厳しい状況……未来人ともなれば、そういうこともあるのだろうね……」
まるで自分のことのように、辛そうな顔をするなーこ。やはり、本当に友達思いの優しい子だ。
「よし! 本当に困った時は、いつでもわたしを頼ってみたまえ。できる限りの助けになろうではないか」
なーこは胸を張ってポンと
「ああ、その時は是非ともお願いするぞ」
もちろん俺と夕で考えるべき問題だが、頼れる友達が居るというのは本当に心強い。
「それはそうと、友情に見返りを求める訳ではないけれども……キミの方もそれなりによろしく頼むよ」
「……善処する」
そうだよな、協力関係でもあるのだから、
――そう思った矢先ではあるが……今日の夕の行動についてかなり困っており、早速アドバイスが欲しいところだったりする。他のメンツ、特に夕が居ないチャンスなので、聞いてみるか。
「えーとその、早速で悪いんだけど……」
「――目的だね?」
この察しの良さよ。もう話が早い早い。
「んむ。ぶっちゃけ俺はどうしたらいいんだコレ……はぁ……」
「あはは、キミのそんな困り顔が見られるなんてね。これは苦労して二人をBBQに誘った
なーこは口元に拳を当てて、何とも愉快そうにしている。
「茶化すなっての!」
「おっと失敬、目的だね。もちろん予想は付いているが、ふーむ………………」
よーし、なーこが夕を見ながらガリガリ長考し始めたぞ! いやぁ、かつてはひたすら恐怖を覚えたこの間が、これほど頼もしく感じるとはな。あ、増設メモリとか要ります?
「おや」
そこで店に並ぶ夕がこちらに振り返り、一瞬目が合ったかと思うと、慌てて前に向き直った。……あいつは何がしたいんだ。
「……なるほど、予想通り――いや、予想以上に効いているようだね。
「ん? 何か分かったのか?」
どうやら名探偵なーこの推理が終わったようだ。
「ああ、別口も含めて色々と。あれはだね――」
期待を込めてなーこの答えを待つが、
「ひ~み~ちゅ♪」
「んな!」
突然ニコニコ陽キャモードになって、まさかの黙秘!
「おいおい、そりゃないぜ……」
「まあまあ、そうガッカリしないの。キミは
その俺の残念がる様子が大層お気に召したのか、
「例えばだね、キミがこうしていることにも意味があり、良いスパイスとな? 教えるのは野暮というものだし、それにわたしの楽しみが減っては困るのだよ」
少しだけとばかりに意味深な助言をくれた。
「はぁ」
でもさっぱり分からん。どうやらなーこには夕の意図が分かってるようだけど、この様子じゃこれ以上の助言は望めなさそうだなぁ……元大魔王様先生は実にお厳しいことで。
「ま、良い男ほど女の子に困らされるものだよ。頑張って愛しのゆーちゃんのために思い悩んで、ついでにわたしも楽しませてちょうだいな、少年? なんてね。くくく」
なーこは人差し指を立てて、不敵に笑う。
「ったく……」
夕にしろなーこにしろ、ほんと楽しそうに俺をからかいやがって……あと少年て、お前も同い年だからな? んでもまぁ、そういう歳に見合わない
「ふふっ。もちろんキミ達を応援すると言ったことに嘘偽りはないし、これもその一環さ。そこは信じてくれたまえ。なにせ――」
「『お友達』だもんな?」
「よろしですし~♪」
嬉しそうに微笑むなーこを見て、その言葉は正に嘘偽りのないものだと、改めて思うのであった。
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