7-11 寄道

 俺の祈りが通じた訳ではないとは思うが、先頭のなーこバイクが急減速すると、開けた公園と歩道の境界辺りに停車した。前の自転車組も続いて隣に停めていくので、我ら宇宙号一行もそれに習う。

 ひとまず降りて、全員でなーこの周りに集まったところで、


「クレープ~! たっべよぉ~!」


 バイクの上のなーこが唐突にそう言って、園内の出店でみせを指さした。その出店ののぼり旗には、『銀河親父のクレープ ~ビッグバンを感じろ!~』と書かれている。


「わぁ~、ここすっごく有名なお店ですよね! 私も来てみたいと思ってたんですよ~。でも、県外からも大勢のお客さんが来られて超満員って……あれ? 意外と空いてますね?」


 こういった超有名店には大行列が付き物だが、見たところ五人ほどしか並んでいない。


「ひ~ちゃん、そっれだよ~!」


 なーこは指先を不思議がるひなたに変えて、


「いつもは~大行列だよ~? ほんとは臨時休業日みたいだけど~ナゼか開いてる~? だから~、がっらがらの~チャンスチャンス~♪」


 続けてカウンター横の張り紙を指した。そこには、『やっぱ開店するぜ! おめぇツイてるな、食ってけ!』と達筆でデカデカと書かれており……店名のセンスや気分で臨時休業を取り消すことからして、豪快で大雑把な店主のようだ。そういうところも、ウケているのかもしれない。


「おおー! これは大チャンスですねっ、な~こちゃん!」

「ね~♪」


 女性陣はもう食べる気満々のようだ。


「待て、今からBBQ行くのに間食して大丈夫か?」


 そこで男性サイドとして、至極真っ当なツッコミを入れておく。松阪牛が俺たちを待ってるんだぞ。


「向こうで準備してるうちに~、すぐお腹すくよ~? デザートは~べっつばらぁ~♪」


 ご飯の後のデザートが別腹なのはまだ分かるが、別腹の先取りはアリなのか……? ただ、BBQで食べ始めるまでに、まだしばらく時間がかかるのは確かだ。

 横の夕を見てみれば、直前までのねモードはどこへやら、サングラスの隙間すきまから見えるひとみはキラッキラ星になっている。……そうだよな、この子ってば割と食いしん坊キャラだもんな。夕も凄く食べたそうだし、ここで寄り道に付き合うのも悪くないか。


「僕もクレープ結構好きだし、別にいいぞ?」「一色さんとクレープ……イイ」


 他の男性陣からの反対意見もないようなので、俺も同意を込めてうなずいておく。


「……んあぁ~~おはよ」


 そこでなーこの背にり付いていた眠り姫がお目覚めとなり、ヘルメットを外して軽く伸びをすると、前髪に隠れた瓶底眼鏡をクイと上げて両目を指でコシコシしている。


「にっかいめの~おっはよ~」

「……着いた?」

「まだだよ~? クレープ! たっべよぉ~!」

「……無理」

「ん~、沙也ちゃんは~、少食だもんね~?」


 あの運動能力からすれば、燃費はとても良さそうなものだ。例えば動かない動物代表とされるナマケモノは、一日たった八gの葉で必要カロリーを摂取できるらしいので、そういうことなのだろう。


「じゃ~、はんぶんこで~どうどう~?」

「……ん。一口なら」

「沙也さん、私とも分けっこしましょ?」

「……ん」

「い~ね~! 三人で分けっこ~しよ~ね~♪」


 女性陣は出張手芸部の女子会とばかりに大盛り上がりであり、これも旅の醍醐味だいごみとも言えるかもしれない。以前はこういう華やかな雰囲気は苦手だったが、今は悪くないと感じており……やはり心に余裕ができたからなのだろう。そう思って、心の中で夕へ再度のお礼を言っておく。


「んじゃ大地、ジャーンケーン――」

「ホイ」

「くっ」


 突然ジャンケンを挑んできたヤスを返り討ちにする。


「クラシックなヤツで」

「うーい」


 俺たちの間では、自販機の飲み物などをジャン負けで買いに行くのが慣例だ。


「一色さん! 何が良いですか!?」


 マメはなーこの分も買ってくるのが当たり前と言った様子であり、相変わらずの忠犬っぷりを見せつけている。


「いいの~? あっりがと~マメ君♪」


 なーこの方も扱いに慣れてきたのか、特段遠慮することもなく素直に千円札を手渡している。着々と悪女の道を歩んでいるようだ――と考えた瞬間に、鋭い眼光を飛ばしてきた。……お前さん、全方位に目でも付いてんの?


「今日の気分は~…………マーズ=レッド! お願いね~?」

「了解ッス!」


 前回の教訓を活かしてなのか、今度はお任せにはしなかったようだ。……うーん、俺の方はヤス任せで大丈夫だったかな? 一番ベーシックなものを選ぶだけだし、いくらヤスでもミスらんだろうけど。

 マメは注文を聞くなり良い笑顔で駆け出して行き、なーこはよそ行き笑顔で手を振ってあげていた。


「朝君、一緒に行こっか? あっ! もし手持ちがなかったら、買ってあげますね?」


 その間に、横でひなたが夕に話しかけていた。

 すると夕は、俺となーこを一瞥いちべつずつした後、


「……うん。でも、お金はあるから平気だぞ」


 ひなたと買いに行くことにしたようだ。


「はーい。じゃぁ、お手手つなぎましょうね♪」

「ちょちょっ、ボクを子供扱いするなぁ!」


 早速と夕の手取って歩き出すひなたに、顔を少し赤らめて抗議する夕。少年の姿であっても、やはりひなたには苦労させられるようだ。ただ、手を振りほどこうとしないところからすると、ひなたの優しさをうれしくも思っているのだろうな。

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