7-07 変装
「ほい、買ってきたぜー」
なーこの巧みな勧誘術に感心していたところで、背後からヤスの声が聞こえて振り返る。ヤスは片手に飲みかけのペットボトル、もう片手にコンビニ袋を下げており、中には飲み物がたくさん詰まっていた。俺は「サンキュ」と言って一本受け取り、
また一緒に戻ってきたマメの方は、早速となーこに駆け寄って戦利品を渡しており、外行きスマイルでお礼を言われて喜んでいる。だが、いつもと微妙に違うなーこの笑顔から察するに、乏しい戦果――好みの飲料ではなかったようだ。まだまだ道は遠いな。
「なぁなぁ大地、あのチッコイのは……参加者? 誰かの弟とか?」
十m近く離れた所でソワソワしている少年を、ヤスが指さしながら聞いてくる。
「参加者だが、ただの通りすがりの少年」
「……は? どゆこと?」
「それがなぁ……なーこが脅――お優しくご勧誘なされて、何故か一緒に来ることになった」
途中で寒気が走ったので言い直す。マメの相手をしながらでも、バッチリこちらの話は聞いているようだ。コワイコワイ。
「ちょ、なにそれ。意味わかんないんだけど」
「俺もだっての」
「……ま、僕は別にいいけどさ? でもあっちはなんか困ってそうじゃね?」
「だよなぁ」
こうして俺たちから離れて立っているのも、気まずくて仕方ないからなのだろう。少年の百三十㎝ほどの背丈からするに小学校高学年程度、よほど社交性のある子でなければ初対面の高校生達の輪になど気軽には入れまい。
「とりあえず声でもかけてあげ――んん? なんか変わった格好……小学校じゃ流行ってんのかな?」
言われて少年の姿を見れば……サスペンダー付きハーフパンツに
それで二人でどうするか悩んでいたところで、
「お待たせしてすみませぇ~ん、遅くなりましたー!」
最後の参加者であるひなたのご到着となった。本人は遅くなったと言いつつも、ちょうど十一時半なのでジャストオンタイムだ。
自転車から降りるひなたを見れば、長袖ワンピースに薄手のカーディガンを重ね、つば広の帽子を被っており、全体的にふわっふわした上品かつ可愛らしい装い。また、肩から袈裟懸けされたポシェットには、普段は髪飾りにしているうさぎのヘアピンが付けられている。
「ひ~ちゃ~ん! 会いたかったよぉ~!」
「わっひゃぁっ!」
ひなたはこちらに向き直るなり、なーこから熱烈な抱擁を受けることとなった。
「もっ、もう! いつも学校で会ってますし、大げさですよぉ?」
「えへへ~、ひ~ちゃんには~いつでも会いたいのだよぉ~♪」
「まったくなーこちゃんは……うふふ、もちろん私も
「やったぁ~! ひ~ちゃん大しゅき♪」
なーこにとっては愛しのお姫様のご登場という訳で、普段よりテンション増し増しだ。ちなみにその一部始終を目撃したマメヤスは、まるで尊いものでも見たかのように手を合わせて拝んでいる。お前ら、ほんとブレないな。
「こんにちは、天馬さん、マメさん――っ大地君!」
「いやー、その私服もすっげぇ可愛いね!」「こんにちは。えーと、小澄さん」「よ、よう」
なーこから開放されたひなたは、俺たち男子組三人へと目線を向けて、順に挨拶を交わしていく。それで俺と目が合った際にはふわりと微笑んでくれたのだが、何故かその後キュッと口元を引き結んで
「……さぁ~て、これで全員集合~したね~?」
そこでなーこ幹事が周りを見回してメンバーを確認するが、
「――って少年! そんなとこいないで~、こっちきなよ~?」
一人離れて立つ少年に気付き、呼びかけながら駆け寄る。
「ちょちょっ、押さないでください!」
少年はジタバタ抵抗するものの、なーこのパワードアームズに両肩をガッチリ
そうしてこちらの三mほど前まで来た時……
「え!?」
俺は驚きのあまり少し声が漏れ出てしまった。
「大地?」
「いや……気のせいだな」
不思議そうにするヤスに小声でそう返すと、俺はひとまず目を
そして再び目を開き、目線を徐々に下げ、すぐ前に立ち止まった少年の姿をつぶさに確認していく。
そうだよ、背丈が近く妙に女の子っぽい仕草だったり、会いたいなという気持ちが俺にあったりで、他人の空似をうっかり見間違ってしまったに違いな――やっぱ夕じゃねぇか!!!
「ナゼダ……」
「さっきからどした?」
「んっ、なんでもねぇ」
不思議とヤスは気付いていないようなので、念のためその愛らしい顔を再度じっくりと見てみる。
ぷっくり
俺はまさに動揺の極みにあったのだが……そこでさらに、夕の横に立つなーこが一瞬ニヤリと笑った。――おい待て、お前まで何かする気なのか!? 頼むからもう勘弁してくれ!!!
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