6-67 一言
ブツを丁重に処分して部屋に戻ったところで、
「おおっ?」
携帯が震えて一件のメールが届いた。
夕かヤスのどちらだろうかと考えつつ、ひとまず画面を開いてみる。
えーと、差出人は……な、なーこだとぉ!? ナゼ俺のアドレスがバレ――ああ、そういや今朝道場で連絡先交換してたっけ。
これがなーことの初メールになるが、言い方を変えればクラスメイト女子からの初メールでもある。そう聞くと、ごく普通の男子高生は色々と期待してドキドキワクワクする状況なはずだが……あのなーこからとなれば、どんなトンデモ内容が送られてきたのか不安で、違う意味のドキドキが
かと言って放置という選択肢は絶対に存在せず、そんなことをすれば後々に百倍マズイことになるのは目に見えており――明日の俺の危険が危ない。BBQされちまう。
それで恐る恐る開封ボタンを押してみれば、
『来られるかい?』
と素のなーこの口調で、たった一言だけの内容だった。身構えていただけに、割と拍子抜けである。
これは単純に文面のまま
なので俺は、
『大丈夫だ』
とだけ返して、上手くいったこと暗に伝える。
するとすぐに、
『流石は私のお友達』
とまた一言だけ返ってきた。それで今度は、夕の件の解決に加えて一通目の裏の意図を読めた事、まずはそれらへの賛辞だな。さらに短い中で敢えて「お友達」と言っていることからすると、解決したのなら休日は一緒に過ごしたいだろう中で友情を重んじて来てくれることへ感謝、と言ったところで……和歌か! そしてそれらを俺が読み解けると判断して、この簡素な文を送ってきた訳だな。
「お前さんはエスパーかよ……」
その俺から漏れ出した
『キミは分かりやすい』
と追加のメールが届いて、心底ギョッとする。
まさか見られている!? と大慌てで周りを見回し……冷静になって流石にそれはないなと思い、肩を落としてため息をついた。
「はいはい、ひねくれマスターさんには敵いませんよっと」
こんな
◇◆◆
宿題の続きをしたりBBQ用の準備をしたりして過ごし、服の乾燥が終わったところで着替えて自室に上がる。明日は遠出の体力仕事となれば、早く寝ておいた方が良いだろう。
そうして布団に潜り込んで目を閉じれば、思い浮かぶは当然夕のこと。今朝の騒動から始まり、今日一日で夕に関わる様々なことを知った――いや、知ってしまったとも言うべきか。昨晩に懸念していた通り、それは夕の心に近付けたという純粋に
「選択、か……」
俺のことはひとまずおいておくとして、夕の気持ちはどうなのだろうか。夕からすればゆづは自分でありながらも他人、そして平行世界の住人に過ぎない。つまり夕は、願いを
「――っく」
そう考えたとき、激しい痛みが胸を走り抜けた。
その選択は、二度と夕には会えないということだ。想像しただけでもこのザマなのに、本当に俺がそんな選択をできるのか? 俺の心に再び火を灯してくれて、ずっと側に居ると言ってくれた小さなヒーローを、本当に手放せるのか? 幸い死ぬわけではないが……夕が永遠にこの世界から居なくなることに、本当に耐えられるのか?
「俺は……どうしたらいいんだ……」
結局のところ、俺が夕をどう思っているのかなのだが……正直分からないのだ。大切に想っていて側に居て欲しい子だし、返しきれない程の恩義があり、完璧過ぎる程にハイスペックで誠実で素敵な子なのだが……確実に言えるのは家族愛、恩義、尊敬、そう言った感情だ。肝心の、「好き」って何なんだろうな……今まで女の子を好きになったこともないし……うーむ、難しい……。
「ふぁ~」
今日一日あまりにも考え過ぎたのか、すでに脳が限界にきており、もの凄く眠い。
まぁ、幸い夕は待ってくれているんだ。もっと夕と同じ時を過ごして、じっくりと考えていくとするか。急いては事を仕損じるとも言うしな。
そうして俺は、一抹の不安と期待を胸に、深い眠りに就くのであった。
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