6-58 御八
シリアス話とスーパー
「さぁーて、そろそろおやつが冷えた頃かしら」
「おお!」
ついにお待ちかねのおやつタイムが訪れたようだ。
それで冷やすと言うと……ドリンク系のデザートなのかな? お菓子なんて作った事がないので、まったく想像がつかないが……まぁ、料理長特製のデザートなんだから、間違いなく美味しいはずだ。
「んじゃ取ってくるね~」
そう言ってパタパタを駆けて行き…………ややあって戻ってくると、その両手には二人分のコーヒーカップとスプーンがあった。夕はそれらをテーブルに乗せると、
「きょーおの~♪ おっやつぅは~♪ なんだろなぁ~♪」
両手の人差し指をフリフリしながら、楽しそうに不協和音を奏でる。恐らくは、このデザートが何かを予想するクイズという事だろう。……よーし、バシッと当ててやろうじゃないか!
そこで俺は、何かヒントを得るべく上からカップを
「えーと、まず乗ってるのは……生クリーム、かな?」
「せいかーい!」
「よしっ」
当たったものの、生クリームなんてうちに無かったはずだが……そう思っていると、
「牛乳とバターで作ったから、厳密には違うけどね? 味はかなり近いよ」
自作品だと教えてくれた。ほんと、さすがだよ。
「ふむ。生クリームを乗せるデザートとなると、中身は……」
そこで俺は容器となるコーヒーカップから連想して、
「コーヒーゼリー?」
そう答えてみた。単純に、コーヒーゼリー食べたいなぁ、という気持ちもあってのこと。
「ぶぶー、はっずれー。――んと、そっちでも良かったんだけど、ゼラチンが無かったからね?」
「うーん、はずしたかー」
「ふふふ。んじゃ食べて答え合わせといきましょ」
夕はそう言ってスプーンを渡してくる。
合掌してスプーンを中に差し入れると、生クリームのすぐ下には少し弾力のある何か。それを少量すくい上げると……淡黄色で滑らかな塊が見えたので、すぐに答えが浮かんだ。
「そうか、プリンだったか!」
「だよー」
そのまま口に入れると上品な甘さが口いっぱいに広がり、私はプリンですと言ってくる。
「……なんて、美味さだっ」
きめ細かな舌ざわりに、絶妙な甘さ加減のプリン、それに合わさる生クリームの濃厚な味わいがたまらない。甘党でなくても大絶賛するだろう。
「うふふ、喜んでもらえて良かった♪ ――でも、まだ終わりじゃないよ?」
「おお?」
そう言われて首を傾げつつスプーンを進めていくと……なんとカップの底から
「すげぇ……カラメルソースも入ってたのか」
「ふっふっふ」
てっきり生クリームがその代わりと思っていたが、まさかのダブル仕込みだった。もちろんカラメルソースなんてうちには――以下略。
期待とともに口へ含むと、香ばしい苦味が強烈なアクセントを打ち込んでくる。そのプリンの甘みとの相性など、もはや語るまでもないことだ。
総じて一分の
「……お前、パティシエにでもなる気か?」
「もぉ~それは褒めすぎだってばぁ、にへへ~」
俺の
「ついでに一個余分に作ったから冷蔵庫に入れてあるよ。だけど今日のパパは卵食べすぎだから、明日のお楽しみにしてね?」
「了解」
カルボナーラソースに卵焼きと、すでに結構食べてるんだったな。何にせよ作り置きまでしていってくれるとは、なんてデキル娘なんだ……。
「とは言っても若いし運動もしてるし、そこまで気にしなくても平気だけど……でもほら、あたしのが八つも下なんだから、パパには健康で長生きしてもらわなきゃだもんねぇ~♪」
それに女性の方が寿命が少し長いもんな、ハハハ――じゃねぇ! 脳内ノリツッコミしてる場合かよ!? ――はぁ、マズイな……ロウ活の成果なのか、夕の考え方に染まってきた気がするぞ?
「……それにしても、プリンってこんな短時間で作れるもんなんだな?」
冷やす時間は相応にかかってはいたものの、夕は十五分かそこらでプリン本体と生クリームとカラメルを作り上げている訳で……作り方を良くは知らないけど、かなり早いよな?
「ふふっ、またまたレンジ様の活躍かな?」
「…………レンジ様、便利すぎだろ」
「あはは。だよねぇ~」
そう言えば、昨日はジャガイモを急速加熱して時短していたっけ。俺は弁当や飲み物を温めるくらいにしか使ったことがなく、そもそも「調理器具」という認識すらなかったが……物は使いようという訳か。
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