6-47 半分
ドタバタ宇宙おもち騒ぎも完全収束したところで、一息とばかりにコーヒーを
「――はっ!」
そこで、解説の途中から壮大に脱線していた事を思い出す。
「話の途中だったんじゃないか?」
ひとまずは相方さんに再開の意思を伝えてみる。
「?」
そんな小首を傾げて目をパチパチするほど、突拍子も無い切り出しじゃないだろうに。さてはお前も完全に忘れてやがったな。吸い付くのに夢中になり過ぎだろ……。
「ワームホール使ったら過去に飛べるって話の続きだよ」
「!? あはは、冗談よ、冗談! パパがあたしの話に興味を持って、どーか続きを聞かせて下さいませーって言い出すまで待ってたのよ。……忘れていたわけじゃ、ないからね?」
なるほどなるほど。それじゃぁ、夏だ! と言わんばかりに泳ぎまくっている黒目さんはいかに?
「……」
じとっと見つめてやると、夕は目を逸しつつ口笛を吹いて誤魔化そうとしているが、「ふすぅ~ふっすぅ~」と虚しく風が抜けるのみである。実年齢二十歳で口笛が吹けないとは、ちょいとばかし不器用なのでは……絶望的に音痴なことを考えると、音を奏でる事に関して身体がとことん向いてないんだろうなぁ。
ただこのままでは脱線から戻ってこられないし、それと少々気の毒に思えてきた。ここは夕のご要望通り下手に出て、先を促すことにしよう。
「そうだよな、うん。俺がどうしても聞きたいので、是非とも話の続きを頼むよ」
「ふっふっふ。よ~し、どんとこぉ~い!」
先ほどまで視線攻撃を受けていたからか、両腕を前に「ぼうぎょ」の構えを取る夕。
「いや、解説するの俺じゃないんだが?」
「あはは、そうだった」
ぺろっとあざとく舌を出して構えを解く。
「――コホン、それでは授業を再開しますよ?」
夕はメガネをクイクイと押し上げると、すまし顔をする。その唐突に出てくる先生キャラ、途中で忘れるくらいならやらなきゃいいのに……。
「さてだいちくん、ワープと聞いて思い浮かぶことは?」
「んー、ワープというと……SF映画とかでよく出てくる、ぐにゃーんて曲がってるやつ? ――っああそうか、あの映像はさっきのワームホールの中を表していて、位置によって時間が変化してるからぐにゃぐにゃしてたって事か?」
自分のぐにゃぐにゃにフヤケた
「実にぐにゃぐにゃした答えだけど、それで大体合ってるわね」
どうやらイメージとしては間違っていないらしい。厳密な定義とかになれば、恐らく俺には理解できないだろうけど。
「すると、未来で夕はそのワームホールとやらに飛び込んで、過去――つまり今現在にワープして来たということでいいのか?」
そう自分で言ったものの、何か引っかかる。
「んー、半分だけ合ってるかな」
案の定と、正解ではなかったようだ。
「半、分……」
使うか使わないかの二択だと思うけど、半分だけ正解ってどんな状態よ? 半分だけ……身体の一部だけ……? ――あっ、そうか。さっきの考察内容と
「それはね――」
「待った! 一つ思い付いた事がある」
「え、そうなの? ――っとその顔は自信ありげね?」
「ん、あくまで予想だけどな」
期待した眼差しをこちらに向けてくる夕に、先ほど立てた予想を言ってみる。
「夕はさっき二十歳と言ってたけど、でも身体は小学生なわけだよな。となると、ここに来る時に身体が縮んだか……もしくは中身――意識だけがここへ来ているかだと思うんだ」
「おお……」
この夕の感心した様子からして、ここまでの予想は当たっているようだ。
「そこで今朝の件だが……あの時の夕は俺のことを覚えてなくて、夕が絶対に言うわけがないことを言ってたから、すぐに中身だけが別人だろうと判断した。ちなみに俺とヤスは、とりあえずで『ダレカ』と呼んでる」
「……そっか」
まだ少し引きずっているのか、夕は少し悲しそうな顔になった。もう気にしなくて良いんだぞという気持ちを込めて、軽く頭を
「んで、夕が昨晩に交代と言ってたから、意識がそのダレカと定期的に入れ替わっていると予想してたわけよ。それを踏まえると、後者の予想――意識だけが未来から飛んできて今の夕の身体に入っている説の方が、辻褄合いそう。そして、そのダレカは『夕』と呼んだ声に反応したので、この時代の夕だと推測している。それは……勘だが、自分の過去の身体の方が入りやすい――どころかそこにしか飛べないからではと思った。――という訳で、肉体と意識のうち意識だけを未来から飛ばしたから、さっきは半分正解って言ったのかなぁ、と?」
「……」
俺の考えを言い終わったものの、目の前の夕は口をぽかんと開けて放心している。
えっとこれは……合ってるのか合ってないのか、どっちよ?
「ど、どう?」
またパパが変なこと言ってるしぃ、と
「――はっ! ごめん、パパがあまりにカッコイイもんだから
ぽかんから復帰した夕が、想定外の事を言い出した。
「ちょ、なにそれ!」
真顔でそんな事言われたら照れるっての!
「んやぁ……大体の予想はついてるって言ってたけど、まさかここまで正確に推測してたなんて……まだ全然説明もしてないのに……ほんと今のパパを甘く見過ぎてたよぉ。当然だけど、やっぱりパパはパパなんだなぁって実感して……あたしもう感動しちゃったぁ」
「そ、そうか?」
「うん!」
今日はヤスと散々考察したのと、あとなーこ先生のご指導の賜物もあるのかもしれない。これで夕が尊敬している未来の俺に、少しは近付けたのだろうか。
「ということで、パパの予想は……だーい・せー・かーい!」
今度は恒例の
「……ええと、それとね?」
「ん?」
急に手を止めた夕は、落ち着いた声でこう続けた。
「さっきあたしが取り乱した時にも言ってくれたけど……あんな酷いこと言われたのに信じてくれて、凄く嬉しかった。もっかい、ありがと」
そう言って微笑む夕の柔らかな両手に右手を包まれて、俺の心臓がバクンと跳ね上がってしまう。
「お、おおう!? ま、まぁな? それは…………うん」
そうしてその理由を濁したものの、
「……あたしの愛が伝わったからぁ?」
夕にしっかりと補完されてしまった。しかもさらに手を強く握って、頬まで赤くしている。
「っぁ! お、お前なぁ!」
夕といいヤスといい、何でぼかしてる所をあえて言うの?
「だ、だってぇぇ……さっきパパが自分で言ったんだよ? もうすっごく嬉しかったんだからね!? それこそ何回でも言って欲し――」
「分かった! 夕の言いたいことは分かったから、もうそのくらいにしとこうな?」
包まれていない方の左手を夕の目の前に出して、ドードーと抑える。またテンパリ祭自爆テロが再発してしまってはたまらん。平和維持活動にご協力いただきたいところ。
「う、うん」
夕はまだ言い足りないようで渋々といった様子だが、納得はしてくれた。ご協力、誠に感謝する!
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