6-42 滅亡
つい調子に乗って夕先生に
「先生っ、そのダークエナジーってのは何でしょうか?」
「ウム、ヨロシイ。……――こほん、そいじゃ続きいくわね?」
夕はノリ良く渋い声で答えると、すぐに仕切り直しとばかりに人差し指をピンと立てて、出来の悪い生徒への解説を再開した。
「あたしたちが居るこの宇宙空間には、現時点では正体不明の
「りょう、かい?」
俺の知識が足りなさ過ぎて、夕も説明に苦労しているようだ。面目ねぇ。
とりあえず難しいところを端折ると、その闇エナが五年後には夢のエネルギー資源として使えるようになるということかな。
「例えばこんな風に、一見何も無いところから~」
そこで夕はちみっこい左の
「ほいっ」
飴玉がジェネレートされた。包み紙によるとダークマター味――恐らくコーラ味なのだろう。
――って今の普通にすごない? 全然仕掛けが分からんかった。この子ってば手品の才能もあるの? それとこれ……説明を盛り上げるために事前に用意してくれてたんだろうな。
「とまぁこんな感じでね――」
「待った」
中のダークマターを口に放り込んで説明を続けようとする夕に、すかさず手を挙げて「お待ちっ」返しをかけてみる。
「質問ですか、だいちくん?」
「おうよ」
話が進まないことは大変申し訳ないが、これは絶対に確認しておかないといけない。
「ここまで来て今さらなんだけどさ……こんな未来の超重要機密情報を俺が聞いてもいいのか? そりゃあ、夕が大丈夫と判断したなら平気なんだとは思うけど……ほら、映画とかであるみたいに、未来が変わって……バタフライエフェクトだっけ? そんで例えば夕の存在が消えたりしないのかなとか。タイムトラベル素人としては少し心配?」
「良い質問です!」
キメ顔でズビシと指差して先生ムーブしてくるのは別にいいんだけど、飴ちゃんで
「もうちょい先の話だったんだけど、パパがすっごぉく心配そうな顔してるし、軽く説明しておくね? ――にゅふふふ」
「おう、助かる――ってその顔ヤメロ!」
俺が夕の心配をしたからなのか、本当に
「――こほん。結論から言って、それは大丈夫。あたしにとってここは平行世界だから、ここであたしが何をしようとも、あたしの居た世界に影響はないの。だから、元の世界に
夕のうっかりで宇宙が滅亡されちゃかなわんが、そこは大丈夫ということか。
「ふむふむ。
「うん。そもそもね、ここであたしの居た世界の歴史と異なることをする……つまりパパと会った時点で確実に歴史が変わっているわけで、とっくに世界は分岐してるの。だからパパが言うように、今さらなのよね~」
「……なるほど」
夕は昨日、未来でもタイムトラベルを観測した例はないと言った。それは、夕の世界の宇宙大地は未来からきた夕と出会っていないことを意味しており、こうして俺が夕と出会った時点で確実に歴史が変わっている。それで整合性を保つために世界が分岐したということだろう。
「んとまぁ……並行世界の存在はあくまで仮説だったけど、こうして世界は滅びず、あたしも無事に生きてるから結果オーライね! 科学の進歩にリスクはつきものよ!」
メガネ幼女先生がさらっと爆弾発言をして、挙げ句に「あたしってばラッキーラッキー♪」とか
「おい待て! 仮説が間違ってたら宇宙がアボンしてたってことかよ!?」
「えへへ~」
「えへへじゃねぇよ!」
そんな可愛らしく言っても誤魔化されんぞ?
「やってることが完全にマッドサイエンティストじゃねぇか……」
まさかあの夕との
「まぁまぁまぁ、落ち着いて。存在の確証はないにしても、ちゃんと保険はあったから許してね?」
「ほ、けん?」
宇宙災害保険? 「あなたのお住いの太陽系に万一のことがございましたら、当社が誠心誠意復旧のサポートをいたします。タイムトラベルの前には是非ご加入を!」ってか。うん、宗教勧誘のがまだマシだな。
「ええ。というのも、もし平行世界が存在しない場合は、そもそも歴史を変える行動を取れないの。具体的には過去に飛ぶことができな――くはないけど、少なくともパパとは会えないはずよ。向こうのパパと議論してそういう結論になったの」
夕は小難しそうな顔をして
「ん……難しいことは良く分からんが、有識者達がそういう見解ってなら……まぁ、いい、のか?」
「うん。そこは任してちょうだいね?」
どう考えても一介の高校生が是非を判断できる内容ではない。それに学者うんぬんをさて置いても、他でもない夕がそう言うのだから信じられるというものだ。そう思った俺は、静かに頷き返すのであった。
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