Interlude The eyes in the sunshine (9)+あとがき

 その後二人でそろって部室に帰ると、三人は黙々と作業に勤しんでいた。

 そのため邪魔をしないよう静かに長机に近付いていくと、


「おかえりぃ。えろぉ長いトイレやったなぁー、ん~?」


 最初に気付いたさっちゃんが声を掛けてきた。


「ふふっ。おかげ様で、なーこさんととっても仲良くなれましたよ♪」

「そかそか。えーやんえーやん」


 満足げにそう言った彼女は、席に着いたひ~ちゃんの頭を師匠特権とばかりにでくり回している。この二人の意味深な会話からするに、彼女もわたしの真意を察していたようだ。


「なんだい、やはり気付いていたのだね」

「さぁて、なんのことやろなぁ~?」

「くくっ」


 彼女は目を逸らして素知らぬ顔をしており、「うちらに心配かけへんよう内緒で何やしとったんやろ? そら黙っとかななぁ?」と言ったところだろう。さっちゃんのこういう粋なところ、本当に大好きだ。

 だがそれはそれ、これはこれと言うことで、彼女の横に立つと……


「その気付くと言えば、わたしに何か言うことはないかい? 怒らないから言ってみたまえよ? ん〜?」


 作ったニコニコ顔をチョイチョイと指してみせる。


「んー? 何ゆーてん――あっちゃぁ、ばれてもーたんかいなぁ。せやけどまぁ、もったほうちゃうかぁ? なはは」

「ほほう」


 バレても焦りの一つも見せないとは、流石はさっちゃん、相変わらず肝が座っている。あとこの様子からすると、残り二人のどちらかに黙っているよう頼まれた口だろうね。

 次いで部長の方へとニコニコ顔を向けてみる。


「ぴゃっ! あ、あーしは知んないかんねっ!?」

「へえ」


 それは知っていると言っているようなものだよ、目を合わせてくれない部長殿。

 だが、この発言と慌てようからするに、彼女もイタズラの片棒を担がされただけであろう。

 すると、自ずと首謀者は決まってしまう。そう、対面で素知らぬ顔でキーボードを打ち続けているマイペース少女、沙也さやちゃんである。


「ふふふ……沙也ちゃん、お楽しみいただけたようだね?」


 そこで何かしら言い訳でもしてくるかと思いきや、


「……ひなた……言っちゃだめなのに……可愛い夏恋が見れなくなる……」


 彼女はそうつぶやいて、ヤレヤレと小さく首を振るだけである。

 ふむふむ、どうやら黒幕殿も反省の色が無いご様子。

 まあ黒幕とは言っても、別に悪事と呼べる程のことはしていな――いや待て、黙っておこうと結託するのは流石にイジワルが過ぎるよね!?


「あうぅ、ごめんなさい。なーこさんが少し気の毒になってきて、そのぉ……」


 そしてとが無しの子が一番反省しているというね。もう頭が痛いよ。


「ひ~ちゃんは悪くないのだよ! 悪いのはこの子ら、特に沙也ちゃんさ! ふふふ……」


 わたしはそう言いながら、対面席にいる悪い子代表のそばへと詰め寄って行く。


「!? まずい……撤退……――はうっ!」


 沙也ちゃんが慌てて立ち上がって逃げ出そうとしたので、わたしは素早く前に回り込み、ぎゅっと抱きついて捕獲する。さあ、悪い子は持って帰って仕舞っちゃおうねー。


「はーなーしーてー」


 彼女はじたばたするが、まるで抵抗になっていない。つい先ほどの、ひ~ちゃんに捕らえられたわたしのようなものだ。もちろんわたしも体力に自信は無いが、部内最弱――どころか学内最弱とされる沙也ちゃんが逃げられる道理はない。彼女は体育で「一」以外取ったことが無い、由緒正しきもやしっ娘なのだから。

 無事捕獲した彼女をわたしの席に仕舞い、隣のさっちゃんに押さえておくように指示すると、共犯者として多少は反省しているのか素直に協力してくれた。良い心がけだね。


「さて沙也ちゃん。人の顔を見て楽しんでいたのだから、自分が見られても文句は言えないはずだね?」


 そこでわたしは、常時ポケットに忍ばせてある髪留めを二つ取り出す。そう、かねてよりたくらんでいた、沙也ちゃん改造計画を実行に移す時が来たのである。


「……だめ……それだけは勘弁」


 彼女は髪留めの意味を察したのか、さっちゃんの腕の中でぷるぷるし始める。


あきらめたまえよ、くっくっく」


 そしてわたしは悪い顔を作って、彼女の目元まで隠れた前髪を左右に分けてめる。

 普段の彼女はいわゆるメカクレ娘なのだが、これでメカクレナイ娘に大改造されてしまった。


「うわああ!」


 彼女は慌てて顔を隠そうとしたので、がっちりと両腕をつかんで阻止する。


「ほうら見たまえよ! 綺麗きれいな瞳がしっかり見えて、百倍可愛くなった!」


 メカクレな彼女もそれはそれで可愛らしいが、やはりこちらの方が良い。


「いやぁほんまそれやで」「わわわ、素敵です!」「うんうん、いつもそうしたらいーじゃんよ?」


 どうやら皆からも同意が得られた模様。やはりわたしの見立てに狂いはなかったようだ。劇的ビフォワーアフターを成し遂げた匠の心境と言ったところである。


「では、今後部活ではこの格好で居ること!」


 流石に外でもというのは、人見知りな彼女の精神が耐えられないだろう。それに、わたし達だけでこのメカクレナイ娘を独占して愛でたい気持ちもある。


「……うう……夏恋……無慈悲」


 それと、今は少々無理をさせるけれども、これで少しずつでも社交的になれればと思う。相手に暗い子と思われると、それだけでコミュニケーションの敷居が上がってしまうのだから。もちろん本当に嫌がっているのなら別だが、隠す物がなくなった彼女の瞳を見れば……うん、きっと大丈夫だと思う。とはいえ、ひねくれ者のわたしは真意を語らず、ただ恥ずかしがる彼女を眺めて、ひとりニヤニヤさせてもらうのだけれど。


「うふふっ。お優しいのですね」

「な! ――くくっ、キミに隠し事はできないねえ」


 微笑みかけてくる彼女に、肩をすくめて返す。

 ああ、やはりこの子には敵わないなぁ。

 でも、一番大切なものだけは、しばらく隠させてもらうけれどね?


「……それ……私の台詞」


 そこで沙也ちゃんが、ボソッと呟く。


「ふむ? ――ああ」


 なるほど、今まで隠していたモノも一切合切とね。


「くくく、上手いではないか」

「せやな、こりゃ座布団一枚やでぇ。ほいで高くたこーなって、よけぇ隠れられへんなぁ~。ま、目ぇもようけ見えるよぉなったことやし、なんしか具合えぇんちゃう? なっはは」


 さらにさっちゃんの絶妙な合いの手が入り、皆が笑い出すと……連られて当人の沙也ちゃんまでもが、クスクスと笑い始めるのだった。


 ああ、日向のように暖かくて、本当に素敵な場所。

 太陽のような彼女を迎えて、なおさらそう思う。

 ここに居られるわたしは、幸せ者というものだ。

 願わくば、このような穏やかな日々が続かんことを。

 

 ――そういう訳で、わたしの瞳が黒いうちは悪さなどさせないよ。さあて、明日のお仕置きを楽しみにしていたまえ、ライバル君? くっくっく。






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 こんにちは、餅餅餅です。ただの幕間ではありますが、ちょっとしたオチまで付きましたので、あとがきとばかりにシャシャリ出て参りました。


 さて、初の夏恋視点のエピソードはいかがでしたでしょうか。彼女は3幕の長い対話を経ても依然と底知れない子というイメージが強いかと思いますが、そんな彼女の頭の中……こんなことになっていたのです!

 まず彼女は圧倒的に思考量が多く、特に序盤は地の文で埋め尽くされてしまい……私の想定を遥かに超える量になってしまいました。また、3幕では淡白な彼女でしたが、ここではしっかりと乙女なところも見られたかと思います。そもそも私が百合なんて書けるのかと思っていましたが……書き始めたら意外と楽しくなってきて、それなりの形にはなったのではと思っております(でも百合プロの方々からお叱りを受けないか不安ではありますが!)。

 他にも、本編は読みやすくを第一にラノベらしい砕けた表現としていますが、この幕間では割と真面目な書き方にしており、少々違った風味のハピスパを味わっていただけたのではと思っております。


 ところで、タイトルの「The eyesアイズ inイン the sunshineサンシャイン」ですが、ダジャレも含めて複数の意味を持っておりまして、色々と考えてみていただくと面白いかもしれません。

 序盤の推理パートでは、夏恋にとっての日向sunshineである手芸部を不埒に覗き見る大地君に対する、彼女の鋭く厳しいeyeを表しています。

 メインパートでは、夏恋がsunshineeyeに惚れて恋(≒eye)に落ちることを表しており、もちろんこれが一番重要な意味です。

 シメパートでは、手芸部sunshineで仲間達が夏恋に向ける可愛いイタズラのeye、メカクレナイ改造を受けた沙也のeyeを表しています。

 また全体としても、sunshineは「夏」の暗喩、eye≒恋ということで、これは夏恋のストーリーですよという意味もあります(そもそもの夏恋の名前の由来を考えると自然とそうなりますが)。他にも、目、太陽、光、影など関連語句を意図的に沢山使っていますね。

 皆様も面白い解釈を思いつきましたら、是非教えてください!

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