6-32 期待 (第3幕前編 最終話)


「……まったく、騒がしいヤツだぜ」


 俺はヤスが走り抜けていった家の門を眺めながら、あきれ混じりにつぶやく。


「ふふ、ほんとね。でも、靖之やすゆきさんにはすごく感謝してるわ。パパもでしょ?」

「んだなぁ」


 二人でしみじみとヤスのありがたみを味わう。


「……」

「……」


 だが話が一旦途切れると、夕がまた少しモジモジし始め、こちらも落ち着かなくなってきた。

 むむぅ、ヤスが居なくなって二人きりになると、こうしてちょっと微妙な雰囲気になるのかよ……。くっそ、あいつは潤滑剤にもなってたかぁ。馬油バーユ少し置いてって欲しかったぜ。


「こほんっ」


 そこで夕が軽くせき払いをし、空気を変えようとしてきた。助かります。換気大切です。


「…………さてと、あたしたちも中入って、つづきしよっか?」

「え!? ……あっ、あぁ。そうだな!」

「?」


 話の続きを、だよ! 何考えてんだこのヤロウ、ほんと落ち着けや! あーもう、偶然にも夕のセリフが被ってしまって、夢がフラッシュバックしちまったわ。まさに恥ずかしさの極み。


「よーし、未来の話、楽しみだなぁ!」

「うん? そう言ってくれると、こっちも話し甲斐がいがあるわね?」


 ちょっと不思議そうな顔をしているが、さすがにバレてはなかろう。こんなん万一にでも夕に悟られたら、どうなることやら……危ないところだったぜ。

 そうして一安心しながら家に入り、廊下を移動すると、後ろから夕が付いてくる。

 そして茶の間に入ろうとしたところで、


「………………………………あっ」

「どした?」


 後ろの夕から声が漏れたのが耳に入り、振り返ってみる。

 するとそこには、急速に顔を紅潮させていく夕が居るではないか。


「あのっ!」


 え、うそ、これ、もしかしてバレたやつ?


「そっ、そそ、そういう意味で言ってないよ!?」


 おうふっ。さすがに夢の中身までバレやしないはずだけど、勘違いしたことは気付かれちまったぞ? ほんっと鋭い子だなぁおい!?


「いやいやいや、解ってるって! お、俺が勝手に取り違えて一瞬驚いただけ!」

「うん、うんうん! そうよね! ご、ごめんね? 紛らわしい言い方しちゃって!?」


 赤い顔で両手をブンブン振る夕につられて、俺の動悸どうきもブンブン加速していく。


「いいって、いいって!」

「でも、えっと、そのぉ!」


 宇宙驚天動地祭コスミックテンパリフェスティバルの開・催!

 うおーい、どう収拾付けるんだコレ!?


「夕!」

「はい!」

「大丈夫!」

「はい!」


 俺の言葉に首が取れるほどの勢いでうなずき返す夕。

 一体何が大丈夫なのか自分でも良く分からんし、夕も勢いだけで頷いてるよな?


「全然、全く、気にして無いから!」

「はっ、はい! …………ハイ?」


 よし、これで祭りは仕舞いだ! スタッフさーん、撤収してくださーい。


「ふぅ……」

「――ってそれはそれで、むぅぅ……」


 いやぁ、そんな不満そうな顔されましても。もう後夜祭も終わりましたし?


「…………………………………………………………そっちのつづきでもいいのに」

「なぁぁっ!?」

「あっ、あ、やっぱ今の無し! 無しで! そう! ムードとか大事だもんね!?」

「っっっ!」


 そのムードとやらが良い状態を想像して、また動悸が高まってしまう。

 せっかく仕舞えたと思ったのに……どうして片付けた物をすぐまた出すのかなぁ、この子はさ!?


「だぁもう! お互い恥ずかしいだけだから、この話ヤメッ! ヤメだぁ! 終了っ!」

「うんうん! そうね!」


 夕は忙しく首を振って、今度こそバッチリ同意してくれたようだ。

 いやほんとこれ、続けても誰も得しないやつよ? 自爆テロはやめてね? 俺はひたすら平和を愛する男、宇宙大地なんだよ。目指すはピース&ピースからの二個二個Wピース。


「「……」」


 そうしてまた二人で見つめ合って、静かになってしまった。


「「っく……」」


 でもその沈黙がなんだか可笑しくなってきて、


「ぷふっ」「ははは」


 ついには二人そろって吹き出してしまった。


「もーなんなんだろうねぇ? ふふっ、おっかしいの♪」

「まったくだぜ、ははは」


 この名状しがたい気持ちは何だろうな。えらくフワフワしてどうにも落ち着かないけれども……不思議とそれも悪くないと感じる。


「でも……不思議とそれも悪くないなぁってね?」

「え! ――っくく」


 俺が思った事と全く同じ事を言い出した夕に、再び笑いがこみ上げてきた。

 まったく、似たもの親子かっての――いやまぁ未来じゃ娘なんだろうけどさ?


「えっ、え? あたし変なこと言ったかしら?」

「いやいや、なんでもねーよ。秘密だ」

「ん~? ――もぉ! もったいぶらず教えなさいよー!」


 先ほどの照れも薄れたのか、夕はぷっくりほおを膨らませて文句を言ってくる。こりゃあ、放っておいたらまたポコポコとたたかれそうだ。


「そうだなー、未来そっちの秘密を聞いてからな?」

「あっ、言ったわね? よーし、そうと決まれば早速れっつごー!」


 夕は片手を振り上げて、茶の間の中へと行進していく。


「……」


 そこで俺は……今朝から待ち望んでいた元気な夕を、またこうして見られたことが本当にうれしくて……その姿をただぼーっと目で追ってしまう。


「……ああ、よかった」


 今回の騒動は終始辛いものであったが、それでまた一つ夕とのきずなが深まったのを感じており、こうして喉元のどもとを過ぎた今となって思えば、これも怪我の功名だったと言えるのかもしれない。夕との関係がこの先どう変わっていくのかは想像もつかないが、それはきっと……とても良いものになるのだろうと期待してしまう。


「ほーら、パパーはやくー!」


 すでに定位置に座った夕は、こちらに片手を突き出して催促してくる。


「そんな急かすなっての。まったくよ……ふふっ」


 そうして俺は、少々むずがゆくも暖かな気持ちを抱いて、まだ見ぬ未来へと一歩踏み出すのであった。



――――――――――――――――――――――――――――――――


第3幕前半部までお読みいただきまして、誠にありがとうございます。


大地君が成長して嬉しい! 早く未来の話が聞きたいぞ! などと思っていただけましたら、ぜひとも【★評価とフォロー】をよろしくお願いいたします。


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https://kakuyomu.jp/works/16816452220140659092#reviews


第3幕後編では、いよいよ彼女や未来の秘密が語られる……という体でイチャイチャおうちデートとなります(笑)。

その前に、今回グッと距離が縮まった夏恋ちゃんのスペシャルエピソードが挟まれますので、そちらと合わせてどうぞご期待ください!

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