6-21 秘訣

 一色に夕の性格などを言い当てられたのはまだ分かるとして、まさか未来人のことまでバレてしまうとは思わなかった。ヤスの時とは違って自ら話した訳ではないにしろ、後で夕にしかられることが増えてしまった訳で……まぁそれは、無事に叱られることになってから考えよう。


「にしてもよ、何もかもが筒抜けとは、まったく大したもんだぜ」

「おや、照れてしまうねえ」

「半分皮肉なんだがなぁ」

「なればこそ、なお心地良し」

「はぁ……なんつーかもう、さすがだよ……」


 ここまで丸裸にされれば、いっそ清々しいまであり……ここはバレてしまったことを悔やむよりも、むしろこれをチャンスに変えてみてはどうだろうか。そう、一色のスーパー頭脳をもってすれば、この難事件に対して新たな打開策を提示することも可能かもしれないのだ。


「ちなみに……何か分かるか?」


 ひなたの話を聞かれていたので、一色にならばこれで真意は伝わるはず。


「いやいや、それは無茶というものではないかい? 未来人なんてトビキリの反則技を出されてしまったら、推理も何もないだろうに。第一その辺の凡夫ぼんぷならまだしも、キミが必死に考えた内容を超えるほどの助言など、そうそうできはしないさ」

「そ、そうなのか……だよなぁ……」


 現代からすれば魔法のようなものなので、さすがの一色でもお手上げだった。……それはそうと、一色の俺への評価が妙に高いのはナゼだ……何かすげぇムズムズするわ。


「ただ、こうしてキミが頼ってくれたのに、何も出ませんでしたは少しばかり悔しいので……そうだねえ、助言――と呼べるほどのものでもないが、ひとつ?」

「おお! 何かあるのか!?」


 わらにもすがりたい状況なので、どんな些細ささいなことでも知りたい。


「うむ。こんな反則技に対抗できる、由緒正しき秘訣ひけつと言えば?」

「……?」

「んもう、にっぶいなぁ……こちら方面は本当にとことんだね、キミは」


 一色はヤレヤレとあきれて首を振ると、


「キミのハート。そのくらいのものさ」


 ドヤ顔でそう告げて、俺の左胸をツンと押してきた。


「え…………ぷっ、あっはっは」

「ど、どうしたのだい? そんなおかしな事を、言ってしまったかい?」


 突然爆笑し始めた俺へ、当然ながら戸惑いの表情を向けてくる一色。


「わりぃわりぃ。いやな、ロジカルの権化みたいな一色から、まさかそんなフワフワの女の子みたいな答えが出てくるとは思わんくてな……ちょっと面白くてつい、くくく」

「むぅぅ! ほんっとーーーに失礼だなあ、キミは! こう見えて乙女心もちゃんとあるんだぞ! 特にキミのような元能面機械人間にだけは、言われたくないものだねっ!」


 ほおを可愛らしく膨らませ、ぷんすかと怒っておられる。陽キャモードならともかく、この真面目さんモードでされるとギャップがスゴイ。


「そ、そうだな。せっかく相談に乗ってもらってるのに、文句みたいな事言ってすまん」

「はあ……本当に解っているのかい? そんな調子では、その子に嫌われても知らないよ?」

「うぐっ」


 仰っしゃる通りで、こういう話では夕にも怒られっぱなしだ。でもそういった経験が皆無なので、女心に疎いのは大目に見て欲しい。


「ま、その程度のことで嫌う子では、絶対ないけれどね。むしろ――」

「え、何でそんなことが言えるんだ?」


 夕だって怒る時は怒る――いや、嫌うとは違うか。つまり……どういうことだ?


「ふん、つい今しがたキミが大爆笑していた乙女心の話さ。これはキミのような朴念仁ぼくねんじんのぽんぽこぴーが知るにはまだ早い! もう少し勉強してから出直してきたまえ!」

「えぇぇ……」


 こんなもんどこで勉強しろってんだよ……あっそうだ、夕に直接――


「聞いてはいけないよ?」


 ――はダメらしい。いやぁ危ないところだった。


「キミのことだから、下手をしたらわたしから聞いたことまで包み隠さず伝えかねない。邪魔どころか親切で馬に蹴られるのは、御免ごめんこうむりたいものだ」

「ハハハ、そんなことスルわけナイダロー? 一色サンは心配性ダナー?」

「……はあ、そうかい。親切が役に立たなかったようで何よりだよ。これはもう、一度ガッツリ怒られた方が、それこそ勉強になるかもしれないねえ……」


 一色はあきれを通り越してあきらめたという表情で、ゆっくりとかぶりを振っている。……悲しくなるからヤメテ!


「それはさておきだ、キミも随分と難儀な恋をしているもので……少しばかり同情するよ」

「いや待て。さっきはひとまずスルーしたけど、そんなんじゃないって。大切な子とは言ったが、恋愛的な意味はないぞ? ひなたとの会話、バッチリ聞いてたんじゃないのかよ」

「ん? そんなものはただの時間の問題だろうに。ひ~ちゃんの心を見通す超感覚に間違いは無いし、何よりも先ほどのキミの怒りは相当のものだったのだぞぉ? それこそ、最愛の恋人を馬鹿にされたと言わんばかりの剣幕だったとも。だからこそ、わたしも本当に酷いことを言ってしまったと、心の底から猛省したのだからね」

「……」

「さらに、その子はキミに激しい恋心を抱いているのだろう? となれば、キミが恋愛に不得手ゆえに遅々ちちとして進まないだけで、時間が経てばすぐにでもそう言った仲になるさ。そんなもの、未来人でなくとも分かる約束された未来だね」

「ぐぅ……」


 呆れ顔で次々と正論の弾丸を打ち出す一色に、一切何も反論できず蜂の巣になる俺。


「はい、まだ異論があるなら聞こうじゃあないか?」


 得意げにこちらを指さす一色は、「あっても即座に論破してあげるけどね?」と言わんばかりだ。


「……あーもう、ねぇよ!」

「よろしですし~♪」


 俺が完全に降参する様を確認した一色は、瞬時に陽キャモードになって、大層満足げに勝利のピースを向けてくるのだった。

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