6-08 落差 ※挿絵付
更衣室で弓道衣に着替えて射場に入ると、まだ部活開始前ではあるが、一般客に混ざる形で数名の部員が練習を始めていた。早く来た者は自由に練習しても良いので、とりわけ熱心な部員は、開店ダッシュとばかりに道場が開く時間にきているのだ。俺とヤスもそれなりに早く着く予定だったが、途中であんなことになってしまったので、もう巻藁練習をする程度の時間しか残されていない。
それでまずはと壁に掛けて保管されている沢山の
続いて射場の隅にある部員用の矢筒置き場から、保管されている自分の矢筒を探し出し、
昨日は弓道部の方へは来ていなかったので、小澄を道場で見るのはこれが初めてになる。その来なかった理由は……恐らく俺のせい――いや、単純に手芸部の方に用事があっただけかもしれない。いずれにしろ、
そう思いつつ改めて小澄を見れば、
その小澄はちょうど
そうして一つ一つの動作をつぶさに観察すると……予想通りではあったが、俺含む他の部員達と比べて練度が
小澄は弓を打ち起こして左右へ引き分けると、弦を放すまでの数秒間の
そうして小澄の
パーン!
的紙を鋭く突き破る音が響き、周りからは小さく感嘆の声が漏れる。
(挿絵:https://kakuyomu.jp/users/mochimochinomochiR/news/16818093084514784680)
それはもはや必然と言える的中だが……驚くべきは、当たった位置がなんと
そう感服して頷きつつ、対となる二本目の矢──
「「!?」」
バッチリと目が合ってしまった。こっそりという訳でもなかったが、じっくり観察していたのがバレると……うーむ、妙に気まずいぞ。
だが小澄レベルの弓道人ともなれば、人に見られている程度で何も変わらな――ってぇぇなんでだよ!? さっきとは別人かと思うほど、動きがぎこちないんだが!?
その後もロボットのような動きで弓を引き分けて、全身がぷるぷると震える「会」からの、不恰好な離れとなった。
ボシュッ
そうして射られた矢は、的に当たらないどころか、的場まで届く前に
え、待ってくれ? まさかのハケ、だと!? 初心者だったり借りた弓を使ったりならともかく、小澄ほどの技量ではまずありえんことだが……まぁ、あんなロボット状態で射ればハケりもするか。
その小澄は的前から速やかに下がると、この距離でも分かるほどに顔を赤くして、いそいそと矢取りに出ていった。上級者なのにハケってしまった事があまりに恥ずかしくて、今すぐに矢を回収して証拠隠滅したいのだろう。その気持ち、分かる。
それでこれは……どう考えても俺が見てたせいだよなぁ。ほんと悪いことした。
「弓道部しゅーごー! 今引いてる人で終わりー!」
後で合わせて謝っておこうと考えたところで、部長ヤスの号令がかかり、部員が「
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます