5-24 返事
夕が帰った後、台所で洗い物を終えた俺は、次いで洗濯機を動かそうと脱衣所に来ていた。ちなみに我が家の洗濯機は洗乾可能のドラム式なので、寝る前にセットすれば朝には着られる状態になっている優れ物、心強い相棒だ。
「……あー、しまったなぁ」
投入口を開いて洗剤ボトルを傾けるが、中からは数滴しか出てこず、この量では洗濯にならない。ただ幸いにも、まだ一日分の着替えはあったはずなので、横の衣類
明日の部活の帰りにスーパーへ寄り、枯渇した食材と合わせて買わないといけなくなったので、忘れないうちに携帯にメモしておいた。
家事を終えて二階の自室に入り、ベッドに寝転がれば、思い出すのはやはり夕のこと。
「また明日、か」
別れ際に自分の口から自然に出た言葉だが、こうして夕と会う約束をするような日が来るとは、出会った時には夢にも思わなかった。さらに夕とは、義理ですらないけれど、「家族」のような関係になったのだ。昨日は
「……にしても、未来人とはなぁ。想定外すぎんだろ」
またこれほどのトンデモ事実を打ち明けてもらえるほどに、夕との
――ありがとう 大好きだよ
「うぐわあぁ!!! うううおおおぉ!!!」
夕から受けたド直球の愛の告白と、その時の
「ほんとなんなんアレ、破壊力高すぎだろ!? 俺を殺す気か!?」
まさに台詞、表情、声、仕草の全てが特攻クリティカルヒットといったところで、危うく思考放棄して夕の全てを受け入れそうになっていた。正直なところ、よくぞ耐えたものだと思う――ってまぁ、耐えたら怒られたんだけどさ?
それで夕は、宣言通り恋人昇格を目指して、今後あの調子でグイグイ攻めてくるのだろう。しかも娘として堂々と好きなだけ会い来きて、それで一緒に居るほど仲良くなっていく……んー、これ詰んでね? まず何より厄介なのが、俺の方もそうなったら別にそれでもいいかも……なんて思い始めてしまっていることだ。
「まいったなぁ……」
だがこれも今に始まったことではなく、夕は最初からずっとそうだったのだ。出会い頭のプロポーズや、ご飯作ってくれたり、孤独を癒やしたいと言ったり、あと……
それがこうして夕との
「……あー、このことだったか」
毒と言えば、前にヤスが電波がどうたらと話していたが、あれは「夕の好意に何で気付かねぇんだ、バッキャロウ!」と
「にしても、明日からどんな顔して会えばいいんだよ……」
気恥ずかしいのはもちろんだが、別の問題もある。俺のことはマルっとお見通しの夕には、俺が夕の気持ちを理解したことなどすぐにバレる訳で……一般論からすれば、早く返事をしなければならないのだ。
ただ、夕に甘えているようで実に情けない話だが、急かされないような気もしている。明確に言葉にしにくいのだが、夕はある意味達観しているというか……自分は悔いのないように全力を尽くすだけで、その結果は後から付いてくる、みたいな? 夕風に言えば「パパが落ちるまで愛の弾丸をひたすら打ち込み続けるんだから関係ないわ! あ、完全降伏したら言ってね? にしし♪」ってとこか。おいおい、ただの
そもそも返事をしようにも、俺自身が夕をどう思っているのか良く解らないのが困りものだ。もちろん人間的には好きだし、こうして夕から好意を向けられるのは凄く嬉しい。だが、先ほど夕も「こういうことを期待しちゃいけない」と言っていたように、恋愛どころか人との関わりすら断ってきた超コミュ症の俺には、まだ自信を持って伝えられる気持ちなどただの一つも無いのだ。そんな状態で中途半端に夕へ返事をしては、これほどまで一途に俺を想ってくれている夕に失礼だと思う。
ただ明日になれば、なぜ夕がここまで俺を好きでいてくれるのか、その訳をついに聞けることになるのだろう。それを知ったとき、果たして俺は、夕に対してどのような感情を抱くのだろうか。知りたい気持ちは大きいが、同時にそれを知ってしまうことに少し不安も覚える。
「――っておい! もうこんな時間かよ!」
時計を見れば、すでに日付が変わっていた。明日は早朝から部活なので、夜更かしするつもりもなかったのだが……こんな夕のことばかりを考えていたら、眠れる訳がない。これでは夢にまで押しかけてきそうなもので……夢の世界という唯一の安全地帯すら侵略されたら、それこそオシマイだ。
「よし、寝る!」
そう言葉にして思考を断ち切ると、疲れのせいもあってすぐに眠くなってきた。
ああ本当に……色々な意味で……俺にとって忘れられない……一日だったな……。
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